物語【永久編】 白い闇で揺れる花 T その花は、美しく揺れていた。 白い闇の中で、命を燃やして。 手折って花瓶に生けてしまいたいけれど。 それは死ぬ事と同じだと、その花は言うのだろう。 見目と違って、根は強く地底へ伸びているから。 儚くとも、このまま生きたいと言うのだろう。 ならば、と― 誰かが叫ぶ。 闇に溶け込みそうになるんじゃない、と。 強い風に、簡単に身を投げ出すんじゃない、と。 それでも。 花は揺れる。 微笑う様に、揺れる―… 〜白い闇で揺れる花〜 生温い生活に慣れて仕舞わない様に。 飛影の隣に堂々と立ち続ける為に。 蔵馬がそう己に課した修行を続けて、もう二年近くは経っていた。 「…か…は…っ」 人間界寄りの魔界の片隅。 蔵馬は短く呻いて膝を付いた。 その周りには息絶え絶えの妖怪達。 衣服は所々擦り切れているものの、蔵馬は傷一つ負っていなかった。 なのに。 胸が苦しく締め付けられる痛みで、蔵馬は顔面を蒼白させ汗をじわりと浮かべている。 このまま意識を失いそうになる感覚。 それを恐れ、蔵馬はとにかく足を動かした。 境界は直ぐ其処だ。 口元を押さえながら身体を引き摺る様に、蔵馬は人間界に戻る事に何とか成功した。 途端、楽になる呼吸。 安心した様に、蔵馬はずるずると座り込んだ。 「何で…」 呼吸が完全に落ち着くと、蔵馬は呟いた。 まるで魔界の瘴気にやられた様な症状だと、嫌な結論が浮かんでいた。 蔵馬は体術が不得意だと言う事は、周知の事実。 修行を二年も続けているのだから取り組んで来た事はそれだけでは無いけれど、それでも週に二日は完全に妖気を封じて体術のみでの修行を続けて来た。 妖気を完全に封じる為に生み出した、蔵馬お手製の薬を用いて。 蔵馬はつい十分前の、胸の苦しさを思い出していた。 周りに別の気配も妖気も感じなかったから、誰かによるものでは無い。 あの時は既に妖気が戻っていたから、妖気を封じていた所為では無い。 だとしたら、ここ二年使用し続けた妖気を封じる為の薬の副作用。 慎重に作り出した薬に副作用等有る訳が無いのだが、その所為にしか出来ない気がしていた。 いや、その所為にしたかった。 そうでないと― 呼吸は既に落ち着いているのに、蔵馬は口元を手で覆った。 瞳はショックで揺れていた。 薬の副作用ならば、もうその薬を呑まなければ良いだけだ。 でも…もし別の理由ならば。 例えば、身体が限り無く人間に近いものに変化しているとしたら― そこまで考えて、蔵馬は思わず首を振った。 そんな事、有る筈が無い。 妖気は以前よりも増している。 急に身体が変わっていく等有る訳が無い… そう思うのに。 蔵馬は唯一つの不安要素を拭い切れないでいた。 自分は言わば、人間と妖怪とのハーフだ。 何が起きても、不思議では無い。 そんな中途半端な存在なのだと言う事を、思わない日は無いから―… 「…飛影」 思わず、縋る様に蔵馬は飛影を呼んだ。 こんな震える情けない声は、聞かせる訳にはいかないなと思いながらも。 蔵馬は飛影を呼ばずには居られなかった。 呼応する様に、木々達がざわざわと揺れる。 その事実に…ほら、まだ自分はこの子達と通じているのだと、クエストとしての自分の存在を確かめた。 でも、もしも。 魔界の瘴気に簡単にやられる様な身体になっていってるのだとしたら。 もう一度その考えに辿り着きそうになって… 大き過ぎる絶望感が蔵馬を襲う。 「飛…影…っ」 夢を見ていた。 いつか。 いつの日か。 貴方の元に、行くのだと。 貴方と共に、魔界で生きるのだと。 「…っ」 誰よりも近くで、貴方を見詰めて。 誰よりも近くで、貴方を守り続けるのだと。 思わず引っ掻いた土が、蔵馬の爪に入り込んだ。 また、木々達が揺れた。 家に帰って早く眠ってしまおうと決めて、蔵馬は立ち上がった。 今日は調子が悪かっただけだと、そう己に言い聞かせていた。 けれど。 人間界に戻った瞬間に嫌味な程軽くなった己の身体が、酷く恐ろしかった。 (Uへ続く…) ★あとがき★ 始まりました、“白い闇で揺れる花” な…泣きたいっっっ(T^T) 誰かあたしの辞書に“お色気ラブラブ”と言う単語を追加して下さい… こんな感じで始まりました“白い闇で揺れる花”ですが、そして下らないあとがきが付いちゃうんですが(付いちゃうのかい)、お付き合い頂ければ幸せです(*'ω'*) 幸せですっっっ(*_*)←二回言ったw 宜しくお願いしま〜す [*前へ][次へ#] [戻る] |