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物語【永久編】
struggle[後編]


「…どうやって着地するつもりだった?」


睨む紅い瞳をそのままに、飛影は問う。
未だ飛影に高い高いをされている赤ん坊状態のまま、蔵馬は首を傾げた。


「…どう…って、普通に足で……って、あっ…!……すみません…」


飛影に答えながら、己の足の状態を思い出した蔵馬は、眉を下げて素直に謝った。
そんな蔵馬に飛影は溜め息を一つ届けると、静かに蔵馬を座らせた。
と思えば、“妖気は未だ戻っていないだろう”とか“寝惚けるのも大概にしろ”とか、飛影の説教が始まったのだった…

その説教を遮って、願わくば話題も変わって説教が終われば良い、との希望も有って、蔵馬は飛影に聞く。


「オレが倒した連中は?まさか…一人残らず元気に去った、なんて事は…」


それが、一番蔵馬が恐れていた事だった。
その可能性を導き出した途端、居ても立っても居られなくなって飛影の腕の中から抜け出したのだから。


「一人残らず去った。」

「嘘―」

「黄牙の群れに一人残らず咥えられてな。」

「え―…?」


飛影の台詞に良い様に表情を変える蔵馬を、飛影は楽しい気分で見ていた。
人肉を好む黄牙(おうが)の獅子が群れて蔵馬の倒した奴等を一掃したと聞けば、蔵馬は心底安堵した様だった。


「へぇ…この辺に黄牙が居たとはね…」


安堵から他人事の様に呟く蔵馬を見て、蔵馬の表情を楽しんでいた飛影が僅かに眉を寄せた。
その飛影には気付かずに、オレが倒し損ねた訳じゃ無くて良かった…なんて蔵馬は呑気に呟いている。


「…お前が足の怪我を忘れて地に降りてそのまま動けなくなっていたら、黄牙の群れは引き返して来たかも知れんな。」

「…?」

「そうなればお前は今頃そいつ等の腹の中…って訳だ。」

「いや…あの―」


飛影が言わんとしてる事…
と言うよりは、蔵馬が終わらせる事に成功したと思っていた説教が再開した事を、容易に理解して蔵馬は焦った。

“俺が居たからいいものを”
飛影はそう言いたいらしかった。

けれど蔵馬にも言い分が有る訳で。
飛影が居なかったら、阿呆みたいに木の上で眠りこける事も、自分の足の状態を忘れて馬鹿みたいに飛び降りる事も、いやその前に妖気が戻る前から行動を起こす事自体しなかった。
…と、思う。

けれどそれを言ったところで飛影が納得するとは思えないし、何より飛影の存在が余りにも大きい事を具体的に口にするのが、何と言うか…気が引けた。
…そんな、気恥ずかしい事。

頭の中でそんな事をぐるぐると駆け巡らせて、結局蔵馬は言葉を濁したのだった。


「S級でも通り掛ったらどうなってただろうな。」

「いや、それは…何とかしますよ。」


心許無いが、それでも蔵馬は否定してみせた。

―いや、でもその前に。
人間界に居ても飛影と肩を並べられる様に鍛錬していたのだ。
それが何故、またこんなに飛影に見下される結果を生んでしまったんだ。
確かに自分に至らぬ点が何個か有ったのは認めるが、それでも何でいつもこうなるんだ。

ぐるぐる、ぐるぐると、答えの無い思いが蔵馬の頭の中で駆け巡る。


「…俺みたいな奴だったら、こうだな。」

「え?」


そう低い声で告げると、飛影は蔵馬を組み敷いた。
魔界の乾いた土の上に、蔵馬の両手が抑えられめり込んでゆく。

自分を省みている…とは少し違うが、似た様な事に頭を支配されていた蔵馬にとって、飛影の動きは一瞬だった。
手の甲に感じる土の感触と共に、今飛影に言われた台詞を理解する。

“俺みたいな奴だったら、こうだな。”


余りに近い飛影の顔と、その向こうに見える魔界の淀んだ空…と言う今までに無い光景に、蔵馬は思わず顔を背けた。
だが、飛影はそれを許さなかった。
直ぐに強めの力で顔の向きを飛影に合わせられ、そのまま噛み付く様な口付けが開始された。


「…んぅ……っ」


その口付けは熱く長い。
蔵馬の身体は飛影の両足に挟まれて、足先をバタつかせる事しか出来なかった。
飛影の右腕は蔵馬の腰に回され、尻を撫で上げるとそのまま足の付け根に向かう。
小さく揺れる蔵馬を余所に、わざとらしく蔵馬の口を塞ぎ切った深い口付けは繰り返される。

こんな魔界の眺めの良過ぎる場所で…とか。
急に何考えてるんだ…とか。

やっと自分の身に起きている事を把握して、当たり前に拒否の感情が生まれても。
蔵馬は直ぐに、飛影の熱に呑まれていった―…




「…分かったら今まで以上に気を付けるんだな。鍛錬するなとは言わん。ウジウジしてるよりいい傾向だ。」


蔵馬の舌を引き出して唇ごと舐めて見せてから、飛影は少し顔を離して言った。

そんな事は分かってる。
嫌と言う程分かってるつもりだったから、蔵馬は返事をしなかった。
肩で息を整えながら、苦し過ぎた所為で涙目になった瞳で飛影を見ていた。
否、睨み付けていた。

その事に気付いて、饒舌に説教を続ける飛影が言葉を止める。


「…何だ。」

「…オレみたいな奴が居たら、飛影はこんな事するの…」


飛影を非難する、蔵馬の拗ねた様な声。
飛影が説教してまで認識させたかった危難を、蔵馬は全て流し切った。
そんな事は分かっているから、それよりも気になるのだと、翠の瞳が語る。

飛影は目を丸くしてから、小さく笑った。


「…お前みたいな奴がそうそう居るか、馬鹿。」


そう言った飛影の声は、魔界には不釣り合いな程、優しい―…

軽い力で叩かれた蔵馬の額は、少なからず痛みを訴えた様だが…
その額を押さえながら、それでも蔵馬は心底嬉しそうに笑った。
まだ魔界に寝転び、飛影に至近距離で見下ろされながら―


まだまだ続きそうだった飛影のお説教。
それがやっと止んで、蔵馬もぐるぐる考えるのを止めた。

このまま運んで貰うのは、甘えになるのか…
このまま運んでやるのは、甘やかしてるのか…

ふと浮かんだ、そんな二人の想いは除いて―…


そうするには余りに不似合いな場所。
この場所の危難を、言った方も言われた方も綺麗に忘れた様に。

二人は只、笑って指を絡めた。



(END)



★あとがき★
ま・さ・に…や・お・い…!(`∩´;)
ヤマもオチもイミも〜…あっ、心だけ、心だけはっっ
たまたまね、今回も飛影が通り掛った話ですが、数ヶ月も一人で鍛錬してた訳です、蔵馬ちゃん立派
でもいいね、この人が居るだけで何処ででも安心、幸せって…。。。
分かり辛いけど、飛影だってそう感じてる。(飛影の所為にしたけど管理人の表現力不足、スマソ)
そんな二人の一ページ…(超強引な〆)
あ、最後に。
飛影のスケベオヤジ〜っ(蔵馬の声とハモリ…たいww)

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あきゅろす。
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