物語【永久編】
優しい戯言[後編]
「…何か気に入らないのか?」
やはりオレの台詞に引っ掛かりを覚えたのだろう。
飛影は静かに問い掛けて来た。
それでも、未だ彼の瞳が閉じられたままである事が、救いだ。
先程躊躇った手を、飛影の髪へ伸ばす。
我ながら、何でも無いのだと誤魔化す為になら動く、己の手が不思議だった。
が。
飛影に腕を掴まれ、動きを阻止された。
飛影の髪に触れる事も。
誤魔化す事も―…
「あ…」
情けない声しか出せずに、オレは掴まれた腕を強張らせた。
それと同時に開かれる、飛影の紅い瞳。
次の瞬間には、視界は逆転していて。
彼の髪に触れる為に動いた筈の手は、いつの間にか己の頭上にあって、シーツに縫い付けられていた。
「…掻っ攫ってやろうか。今すぐ、此処から。」
「…っ」
飛影の瞳に映って、強張った自分の顔が見えた気がした。
―今は…行けない―…
即座にオレの心が答えた。
触れたかった飛影の艶やかな髪が小さく揺れた。
余りにも綺麗な動きだったから、一瞬そちらに囚われた。
…もう少しで、オレの顔に触れそうだった。
鋭い瞳が、滲んで見える程近くに在る。
嘘を吐く事等、赦されない位に…
「冗談だ。」
そう言って飛影は、鋭い目線を細めた。
優し過ぎて、何故だか泣きたくなった―…
「お前がどう思っているのか知らんが。」
そう続けながら、飛影は体勢をずらしてベッドに仰向けになった。
オレが言うべき言葉を見付けられないでいて、それを気遣っての配慮だと分かった。
急に離されたオレの手は、未だ頭上に置いたまま。
オレ達は何処も触れ合わせる事無く、二人ベッドに並ぶ。
「…こっちが平和で何よりだ。余計な心配事をしなくて済むからな。」
何となく、飛影が未だ言葉を続ける気がして、オレは黙っていた。
それは当たって、“それに”、と彼の声が続く。
飛影の低い声は、天井に向けられている。
「お前は未だ、こっちに来なくていい。寧ろそれが、俺にとっても好都合だ。」
「…え?」
予想外だった。
飛影が未だ言葉を続けるのを知っていても、聞き返してしまう。
直ぐ横に並ぶ、飛影の顔を見詰めた。
彼が見詰めているのが何の変哲も無い天井であるのに、横顔はひたすら綺麗だった。
飛影が目線だけ、こちらに寄越した。
それだけで、心臓が跳ね上がる。
オレの動揺が分かったのか、飛影は薄く笑いながら顔をこちらに向けてくれた。
また、オレの心臓が跳ねた。
「手の掛かる狐一匹守ってゆく為に、今以上に強くなるのは否めない…その時間が、俺にも必要だ。」
飛影は微笑っていた。
瞳の奥も、口元も。
その笑みも台詞も皮肉が混じっていると言うのに…
飛影の優しさが、嫌と言う程身に沁みて来る―…
珍しく、饒舌な処も―…
お前も強くなれと、言っている。
オレのすべき事を遂げるまで、待っている、と―…
オレは彼のお陰で、今のオレの心の在り方を見付けた。
それから。
腕を伸ばすべき処も。
素直に手を伸ばして絡めた彼の髪は。
彼の体温で、じんわりと暖かだった―…
(END)
★あとがき★
なーまーぬーるーいー(´⊥`;)
そんな彼等の一日でした…♪
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