物語【暗黒武術会編】
夢と契りと愛と… W
―――今……何て……?
聞こえているのに、意味も理解出来るのに、蔵馬は飛影の言葉を頭の中で繰り返していた。
“お前の身体を貰う”
「…あっ」
飛影の熱い舌が蔵馬の鎖骨を舐めた。
自然に身体が小さく跳ね、同時に声が漏れた。
その事で、蔵馬は我に返る。
「飛…影っ、ちょっと…待って下さい…っ」
飛影の肩を掴み、自分の身体と距離を取らせようと試みた。
「…何だ。恐いか…?」
不安げに揺れる翠の瞳が、少し距離を取った事で紅の瞳に捕われた。
大好きな、強く燃える様な瞳…
その瞳に射抜かれて、蔵馬の中の何かが動いた―…
「…そんなに恐いなら止めてやる。」
そう言って飛影が蔵馬の上から移動しようとしたその時―。
蔵馬の手が飛影の動きを止めた。
細い腕は、少し震えていた。
「…オレ…はっ…貴方のモノに成りたい…飛影…っ」
嘘偽りない蔵馬の言葉だった。
身体は少し震えていたが、真っ直ぐな翠の瞳と叫ぶ様な声が、心から言った言葉だと物語っていた―…
思ってもみなかった蔵馬の告白に、飛影の心が大きく鳴った。
「…それは何よりだな…蔵馬…」
そう言って、飛影は蔵馬の唇をぺろりと舐めた。
まるで挑発する様に…
「…っ」
蔵馬は、飛影のその行為と、本心ではあったが自身の恥ずかしい台詞に、頭ごと視線を逸らした。
既に蔵馬の顔は紅く染まっていた。
「…蔵馬。」
飛影が蔵馬を呼ぶ。
「…蔵馬。」
邪眼を使う際に呼び掛けた様な優しい声色で。
「…っ」
何処でこんな方法を覚えたのだろう。
こんな優しい声で呼ばれたら、向かない訳にはいかないじゃないか…
飛影は蔵馬の顎を左手で優しく促し、口を薄く開けさせた。
「蔵馬…初めてだろうが、手加減はしない…」
飛影はそう告げると、蔵馬に見える様に赤い舌を出して、蔵馬の瞳を見詰めたままゆっくりと近付いてゆく…
飛影の計算通り、その行為は蔵馬を煽るのに充分で…
翠の瞳は熱を帯びて潤んでいく…
「…っ」
飛影の唇が触れるのと同時に、先程見た赤い舌が蔵馬の口内へ差し込まれた。
飛影の熱い舌が蔵馬の控えめなそれを誘う。
艶かしく動く飛影のそれは、蔵馬の意識を霞ませていった。
何分経ったか―…
名残惜しいという様に、蔵馬の舌を誘いながら飛影が離れた。
「ん…はっ…」
苦しそうな、けれども艶やかな蔵馬の声が漏れた。
長い口付けの間、ろくに酸素を取り込めなかったと見える。
飛影は蔵馬を見て、小さな溜め息を吐いた。
意識がハッキリしていない蔵馬は、その事に気付かないでいる。
飛影は蔵馬の腰とベッドの間にするりと腕を差し入れると、上体を起こさせ、優しく抱き締めた。
「途中で音を上げられても困るからな…。」
されるがままの蔵馬の耳元で囁く。
耳元で聞こえる飛影の低音に、蔵馬はピクッと反応を示した。
それを確認して、蔵馬に悟られない様小さく笑うと、妖気を送り始めた。
暗黒武術会の決勝戦後、蔵馬の傷を癒すべく、した様に―…
蔵馬の身体全体に炎の妖気が染みて来る―…
「…蔵馬。」
囁きながら、飛影の舌が蔵馬の耳元を襲った。
「…あっ…」
身体に染みる飛影の熱さと、急に与えられた耳への刺激に、蔵馬の声が洩れる。
身体の中も外も飛影によって愛撫されている…と蔵馬は思った。
オレは何処まで飛影一色に染められるのだろう―…
一週間、悪夢を見続け、ろくに眠れずに弱った蔵馬を癒す行為。
この後、蔵馬をモノにする行為の途中で蔵馬の体力が無くなってしまわない為の行為。
全ては二人が重なる為の…
今回は手加減して、優しく炎の妖気を送る。
―そろそろいいか…
飛影は妖気を送るのを止め、その代わり、口付けながら再び蔵馬をベッドに沈めた―…
「…んっ…ふ…っ」
飛影の妖気のお陰で身体は軽くなった。
なのに、飛影に与えられる口付けの所為で、蔵馬の頭は霞がかかったまま―…
その霞がかかった頭で、それでも強く思った事を伝えるべく、蔵馬は飛影に呼び掛けた。
「…飛…影…?」
「…何だ?」
呼び掛けられても飛影は行為を止めなかった。
蔵馬の首に、胸に、腰に…飛影の瞳に似た色の所有の印を刻みながら…
その刺激を全身で受けながらも、蔵馬は言葉を紡ぐ。
「オレ…は…、本当に…貴方が好きです…っ…飛…影…っ」
「…あぁ、解ってい…」
飛影の言葉を遮って、色のある声を漏らしながら蔵馬は続けた。
「…オレ…のっ…命なんかより…も…大切なんです…貴方がっ」
凄い告白だ…と飛影は思う。
千年以上生きてきた奴が、その命よりも自分が大切だと言う。
蔵馬に比べたら、幼過ぎる筈のこの俺を。
「そうか…。なら、今この瞬間もこれからの何百年も、お前の全てを晒せ…蔵馬。俺に全てを差し出せ。」
「…何…百年……それ…だけ…?……んんっ…」
飛影の熱に浮かされている蔵馬は、何の計らいも無く、素直に尋ねた。
「…いや。一生だ、蔵馬。死んだら魂を俺に差し出せ。」
―簡単には死なせんがな…
「…本当…に…?」
「あぁ。だからもうお喋りは止めろ…」
その台詞に、イヤだと言う様に蔵馬は頭を横に振る。
「…蔵馬?」
「…話し…てない…と…オレっ…あぁっ…」
その様子に飛影はニヤリと笑みを浮かべる。
それを蔵馬に見る余裕は無い。
「特に何もしてないが、もうイキそうか…?」
直接的な単語に、蔵馬は紅い顔を増々染める。
飛影は己の指を唾液で濡らし、ゆっくりと蔵馬の蕾に侵入させた。
「…うっ…ああぁっ…」
悲鳴とも取れる蔵馬の声が響く。
飛影は指を沈めたまま動かさず、蔵馬の顔を覗き込んだ。
蔵馬は苦しそうに眉を寄せ、肩で息をしている。
「蔵馬…俺を見ろ…」
目を固く閉じて痛みに耐えていた蔵馬が、ゆっくりと目を開けて飛影を見詰めた。
その目からは涙が既に零れていた。
飛影の紅の瞳が蔵馬の翠の瞳を強く捕えた時、何とも言えない感情が蔵馬を襲った。
飛影の愛撫により熱に浮かされた身体を、尚も煽られる。
今愛してくれているのは、紛れも無く、自分が愛している飛影だと―…
「…あっ…飛影っ…」
堪らず声を上げ、蔵馬は飛影に向かって両手を伸ばした。
動いた事により痛みは増した筈なのに、蔵馬はそれを感じなかった。
空いている左手で飛影は蔵馬を抱き締める。
少しだけ身体を起こしてやり、己の右肩に蔵馬の顔が乗る様促した。
「…飛影…飛影……」
蔵馬の呼び掛けに快楽の色が混じっているのを確認すると、飛影はゆっくりと指を動かした。
「…んぁぁっ、飛…影…っ」
耳元で聞こえる蔵馬の喘ぎに、飛影も目眩を覚えた。
暫くして、飛影は指を引き抜いた。
少し起こしてやっていた蔵馬の半身を寝かしてやり、蔵馬の頬を撫でる。
汗とも涙とも区別が付かない水分を優しく拭ってやりながら。
「蔵馬…大丈夫か…?」
少し躊躇する様な飛影の声。
それに気付いて、蔵馬は霞む目を飛影に向けた。
「…飛…影…本当に…本当に愛しています…」
微笑んで蔵馬は言った。
それは正に“華の様”な笑み―…
飛影への想いに嘘偽りないという証―…
最後まで抱いて下さい、という意味も込めて…
「…力を抜け…。俺のモノに傷を付けたくは無い…」
飛影なりの“愛の言葉”が蔵馬に告げられた。
そして優しい口付けを落としながら、飛影は身を進めた―…
「……っ!!」
声に成らない悲鳴。
余りの痛みに、飛影の肩に添えられていた蔵馬の手に力が入る。
蔵馬の身体は大きく震え、息を止め、固く閉じた目から再び涙が流れた。
飛影は奥まで進むのを止めてやり、指で蔵馬の下唇をなぞり、呼吸を促した。
「…蔵馬…息を吐け…」
「…っ」
飛影にそう言われても、初めて味わう痛みと苦しさで、蔵馬は固く食い縛った口を動かせない。
飛影は己の親指を唾液で濡らし、蔵馬の下唇をもう一度なぞった。
ヌルヌルとした感覚が、蔵馬の唇を支配する。
蔵馬の背中に、追い討ちを掛ける様なゾクゾクとした感覚が走る。
「蔵馬、舐めろ…」
そう言うと、人差し指を蔵馬の口に侵入させた。
反射的に蔵馬は唇の力を少し抜いて飛影の指を迎え入れた。
飛影は追って中指も侵入させ、蔵馬の口を開けさせた。
開いた口元から、蔵馬の暖かい唾液が零れ落ちた。
それは何とも扇情的な光景―…
「…んぅ…は…」
「そうだ、蔵馬。そのまま息をゆっくり吐け…。」
そう言いながら、飛影はゆっくりと蔵馬の奥へ身体を進めていった…
(Xへ続く…)
★あとがき★
やっとこさ結ばれました、ウチの蔵馬さんと飛影さん。
ここまで長かったなぁ…(しみじみ)
少しでもウチの二人の愛が溢れてる様子が皆様に伝われば幸せです☆
それから言い訳は日記にて…(汗)
それともう一つ。
大人な表現がある事を知らずにお読み下さって不快な気分になられた方がいらっしゃいましたら大変申し訳ありません。
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