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物語【暗黒武術会編】
夢と契りと愛と… U

「…一週間…ぶりですね。」


慌てて繋いだ言葉が、まるで一週間会えなくて淋しかったと言っている様で、蔵馬は情けなさに少し顔を俯かせた。


それに…
うなされて、飛影の名を呼んだ事を、きっと問い質されるに決まっている。
どう誤魔化せば―…


まだうまく回らない頭で蔵馬は必死に考える。


だが、そんな蔵馬を余所に、飛影が口を開いた。


「何の夢を見ていた…?」


少し目を泳がせつつも、蔵馬は答えた。


「え…ぇと…覚えていません。何だか久し振りに嫌な夢を見た様な…?」


こんな日もありますよね…?と蔵馬は続けた。

少しぎこちないが、笑顔を添えて―。



―意固地な狐め。


意固地な性質をこの狐が持ち合わせている事等、以前から知っていたが。
こんな場面を見られても尚、隠し通そうとする。


蔵馬の喉元には、起き上がった際に流れた涙が筋を作っているというのに。


意固地で馬鹿な奴だ―…


「悪夢に俺を出すとはいい度胸だな。」


この飛影の台詞に、蔵馬はほんの少し身体を強ばらせた。

飛影はその小さな蔵馬の変化に気付いている。


やはり。
只の悪夢、という訳では無さそうだ。

現に蔵馬は、一週間前に比べて痩せた様に思う。
怪我を負っていた一週間前よりも。



「何か飲みま…」


どうせ“いらん”と言われるのを覚悟して、何か飲みますか?と訊ねる。

少しでも時間を置いて、この状況をどうにかしたかった。


「…あっ―…」


蔵馬の驚きの声と、ベッドの軋む音はほぼ同時。
蔵馬が言い終える前に、飛影は蔵馬を組み敷いていた。

馬乗りになり、蔵馬の両手を押さえ付けて、身動きの出来ない様にしている。


飛影―…?


突然の飛影の行動に、蔵馬の頭はついていけない。

飛影の力は強く、容易くは振り解けない。
それに、抵抗する前に飛影の意図を知りたかった。

至近距離で飛影の顔が見える。
只、この距離で飛影の表情を見ても、何の感情も読めなかった。



「…飛…影?」


「俺の目を見ていろ。」


そう告げると、空いている右手で額に巻かれている布切れを取り、邪眼を開けた。


やっと、飛影のしようとしている事が解り、蔵馬は慌てた。


「嫌です、飛影!見ないで下さい!!」


あんな夢を、あんな自分を見られたくなかった。

飛影を傷付けて喜ぶ姿なんて―…


「飛…影…っ、お願っ…」

蔵馬の目から新しい涙が流れても、飛影は止めようとしなかった。


飛影の邪眼から光が発せられる前に、蔵馬は目を閉じた。
必死の抵抗だった。


「…っ」


涙と共に、蔵馬の口からは嗚咽に似た声が漏れる。


あんな夢―…
あんな酷い夢―…


只でさえ、おかしくなりそうだったのに。
飛影に知られたら、オレは―…



ふと、暖かい温もりが頬を撫でる。

とても、優しい―…


飛影が頬を撫でてくれている事を理解するのに、そう時間は掛からなかったが、それでも頑なに蔵馬は目を閉じたままだった。



「…蔵馬。」


―トクン…


「…蔵馬。」



今まで聞いた事が無い程の、優しい飛影の声が降り注ぐ…
何度も、何度も―…


蔵馬の鼓動は否応無しに高鳴っていく―…


「…蔵馬。」


「…蔵馬。」


「…蔵馬。」



「…っ」



飛…影……


堪らず、蔵馬は目を開けた。

と同時に、飛影の第三の目から光が溢れた。

蔵馬は、それは綺麗な紫の光に捕われた―…




(Vへ続く…)





★あとがき★
あらま、管理人的にいい所で区切ってしまった…。
飛影さん…上手(うわて)ですねぇ。
自分が何度も見た恐ろしい夢を知られたくない蔵馬さんと、それを知りたい飛影さんです。

お読み下さって有難うございました^^

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