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物語【暗黒武術会編】
夢と契りと愛と… T

「…う……っ」

蔵馬はベッドの中、うなされていた。

滲む汗がうっすらと光り、口元は苦しそうに歪んでいる。
長い睫毛は涙で濡れていた。


「…ぇい……飛影っ!!」


大きく身体を跳ねさせて気が付いた蔵馬は、勢い良く身体を起こし、口元を押さえた。


まただ―…
また彼の夢を見た―…


それが只の夢でない事は、蔵馬の様子から明らかだった。

狐の性(さが)―…
それを思わせる様な内容。
夢の中で、蔵馬は飛影に対し、異常な執着心を見せる。
そう…異常なまでの―…


夢の始まり方はよく分からない。
気が付けば、必ず蔵馬は飛影を斬り付けている―…
攻撃方法は毎回違う。
妖気を通した鋭利な葉で傷付ける、気の荒い花に喰わせる、等―…


只―…毎回共通点が有る。

夢の中で、蔵馬は飛影を傷付ける事を望んではいない。
それなのに、身体は言う事を聞かず、飛影に攻撃し続ける。

それから、飛影は反撃をしない。
避けもしない。
それ故、最後は飛影が血に染まり、力を失くして倒れてしまう。

そしてそんな飛影を、満足した様に蔵馬は抱き締める―…


“違う!オレはこんな事、望んではいない!”
“オレはどうしてこんな事―…!”


そう思って目が覚める―…。


愛しい者を傷付けてまで、己のモノにする…
狐の性(さが)―…?
オレの本性―…?




暗黒武術会が終わり、人として暮らす街に帰って来て一週間。
毎日、蔵馬はこの夢を見ていた。


決勝戦が終わった直後、蔵馬は隠していた想いを飛影に告げた。
飛影がそうさせたと言っても良いが。


“愛しています、心から―…”


それが蔵馬の本心であり、真実だった。


それなのに、飛影を傷付ける夢を繰り返し見る。
蔵馬は頭がおかしくなりそうだった。

愛しているのに、と。

恐れてた事が起こる気がする。
飛影の足を引っ張る…それが恐くて想いを伝えられなかったのに。
それが今は、それだけで済むのかさえ分からない。

蔵馬は、自分の想いを告げなければ良かったのではないか、と感じていた。

一週間、飛影に会えていない事実も合わせて、蔵馬を追い詰めていた。


会いたい―…

そう思って、蔵馬は自嘲気味に笑って考え直した。

夢の中であれだけ傷付けておいて、会いたいと思うのは都合良過ぎだな―…


飛影の事を想い、蔵馬はひらひらと揺れるカーテンを眺めていた…

学校に行く準備をしなければ、と現実に思考を戻す努力をしながら―…





一方、飛影は―――


木の上で舌打ちをしていた。

「…ちっ、またか―…」


蔵馬の様子を第三の眼で確認して呟いた。


暗黒武術会が終わって、この街に幽助達と共に戻って来た。
その足で直ぐに蔵馬の部屋を訪ねても良かったのだが―
静養が必要な蔵馬の身体を考え、そして何より母親との久し振りの時間を思ってそうはしなかった。


ふと蔵馬の様子が気になって邪眼を開いたのは、帰って来て五日目だったか…

眠りに就いた蔵馬を見て安心し、邪眼を閉じようとしたその時、蔵馬はうなされ始めたのだ。
暫くして目を覚ました蔵馬が呟いた“また…”という台詞で、何度もうなされている事が解った。

どんな夢を見ているかは、蔵馬の頭の中を覗いて見ないと解らない―。
只、うなされながら口にする名に、自分が夢に関わっている事は明らかだった。





「…うっ……飛…え……」


今夜も蔵馬は同じ夢の中に居た。

今日は妖狐の姿となって、飛影を追い詰める。


…イヤだ…イヤだ…!!
飛影、避けて―!!

攻撃を仕掛けながら、心でそう叫ぶ。
だが例外は無い。
飛影は避けようとせず、攻撃をもろに受け、血まみれになって倒れた。

それを愛おしそうに抱く自分…


…イヤだ…こんな…こ…と―…



「……飛…影…っ!!」

蔵馬は飛び起きた。
全身に汗をかき、顔は青白い。
身体は小さく震えていた。

これは暗黒武術会から戻って、常の事。
ただ一つだけ違うのは、叫んだ愛しい人の名に対して返事があった事だ。


「…何だ。」

「…!!」


驚いて声のした方を向く。
そこには揺れるカーテンを背に、愛しい人の姿があった。
先程まで自分が切り刻んでいた相手―…


「…ひ…えい…」

声が震えていて、とても情けない呼び掛けとなった。


飛影がゆっくりと蔵馬に近付く。
蔵馬は怯えた様な目で飛影を見詰めた。


只、どこか、ほっと胸を撫で下ろして―…
先程斬り付けたのは、本当に夢だったと…そんな哀しい安堵だった…



(Uへ続く…)





★あとがき★
蔵馬さん、謎の夢に苦しめられています。
ウチの蔵馬さん、飛影の事が好き過ぎて、色々と抱え過ぎていますね。
飛影の事となると、弱ってしまう蔵馬さんです。
さて、そんな蔵馬さんを飛影はどう導くのでしょうか?

お読み下さって有難うございました^^

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あきゅろす。
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