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物語【暗黒武術会編】
互いの想い

―気持ち悪い――…


蔵馬は外に在る、齢三百年近くであろう杉の木に背を凭れ、地べたに座り、昨日の事を思い出していた。


“少々髪が傷んでいる。トリートメントはしているか?”
“やはり私は5人の中でお前が一番好きだよ”


鴉に背後を取られた、昨日の事を―…
触られた首元にぬるく鴉の妖気が絡み付いている気がする。

身体から寒気が引かない。
纏わり付く様な鴉の妖気の所為だろうか。
圧倒的な力の差を感じそうになった。
あんなに容易く背後を取られるなんて。


勝たなくては―…
戸愚呂チームに勝利して生きて帰るには、一勝でも逃せない。

オレが…オレが死と引き換えにしてでも、一勝しておきたい…
それが命の恩人の幽助や、桑原君への恩返しにもなる。

…それから…飛影には生きて欲しい。
これからもっと強くなるだろう飛影の足を引っ張る訳にはいかないんだ―…

明日の決勝戦に備え、鈴木から“前世の実”も手に入れてある。
何度か実験もした。
あとは計画通りに事を進めるだけだ。
なのに―…

オレは何を恐れている?
何を―…



「何を考えている?」

突然聞こえた声に体が弱く跳ねた。

「飛影―… 気配を消して近付くなんて悪趣味ですね…」

「そこまで抑えて等いない。貴様こそ気配に気付かない程何を考えていた?」


蔵馬から数メートル離れた岩に腕を組んで寄り掛かり、じっと蔵馬を見詰めている。

オレはそんな飛影を見る事が出来ない。


「…ふぅ…」

飛影の小さな溜め息が聞こえた。
それから自分に近付いて来る足音も―…。


「何を考えていると聞いている。」

飛影は蔵馬の目の前に屈み、蔵馬の伏せがちな顔を覗き込む。


「何も…何も考えていな…」

「身体が震える程、何を考え込んでいた。」

「えっ?」

飛影に肩を掴まれて気付いた。
自分の身体が小刻みに震えていた事に―…。


「少し寒かったんですよ。今此処に居るのは、明日の決勝戦に向けて、少しシュミレーションしていたからです。それ以外、何も無いですよ。」

わざとらしかっただろうか。
笑顔は作ったつもりだが―…
どうも彼の前では、オレはうまく振る舞えない事が多い。
得意の誤魔化しも彼には通用しない事が多いのだ。


「…まぁいい。」


飛影の台詞にオレがホッとしかけた時…

「…ぐっ」

飛影に首元をきつく掴まれ、息が吸えない。
自ずと顔があがり、飛影の燃える様な瞳が見えた。


「…ひ…えい…、何…を…」

飛影に攻撃されるとは露にも思わす、急な事で力が入らない。
意識が霞みかけた時―…


「生きろ。」

飛影の声が聞こえた。

「生きろ、蔵馬。」

「命と引き換えにしてでも勝とうと思うな。負けて構わん、生きろ。」


「―! ゴホッ…」

首を絞められていた手が急に外され息を吸い込んだ為、咽せる。


「それだけだ。」

ヒュッ―
風を切る音と共に、飛影の姿が消えた。


「飛…影…」


蔵馬の周りの木々達が、さわさわと揺れていた。




木々の間を素早く移動しながら、飛影は呟いた。

「…馬鹿が。」


タチが悪い。
他人を思い過ぎて、自分を忘れていやがる。
蔵馬が弱く無い事くらい、知っている―…。
本気でやり合えば、俺自身無事で済まない事も。

なのに何故だ?
脆く弱いものに見える。
それが酷く俺を苛つかせる―…。
鴉の匂いをいつまでもさせていた事も―…。


生きろ、蔵馬。
鴉なんぞに殺られてみろ、絶対に許さん―…。


蔵馬の首を絞めた、己の左手に視線を落とした…



蔵馬は、弱い風に長い髪を梳かされながら、まだ木に寄り掛かっていた。


「…飛影―…」


身体が、飛影に絞められた首元が熱い―


飛影―…、貴方にこの気持ちがバレないといい―…
きっと貴方の足を引っ張ってしまうから―

飛影―…
オレも貴方に云いたい。

生きて―…
いつか幸せになって欲しい―…


ふと、先程飛影に絞められた首に触れた。

「…っ」

鴉の…首元に絡み付いていた気配が消えてる…?


…飛影…


飛影の熱さだけが残る自分の首元に手を合わせたまま、蔵馬はそっと目を閉じた―…



あとがき

最後まで読んで下さり、有難うございました
決勝戦前日の二人の様子を少し書かせて頂きました。

この頃の蔵馬は飛影に対して抱いている気持ちを何とか隠し通そうとしています。
その為、飛影に直接的に治療をしたり、心配をしたり…という事を控えて、その代わり自分が一勝する事で、せめて飛影の足を引っ張らない様にと考えている様です。
飛影から見たら、自己犠牲しがちな蔵馬の性質を知っているのもあって、蔵馬の考えてる事が手に取る様に分かってしまい、ついでに蔵馬から鴉さんの匂いもしちゃうもんだから、苛つきつつ、蔵馬の抱えている何かを少しでも消してあげたかったんでしょうね。
飛影らしいやり方で、管理人も満足しましたが、まぁ、管理人の表現力の無さが浮き彫りに…
でもこの頃のお二人さんは言葉足らずだから、仕方が無いよねっ
(だからこそ表現力が必要ですね)
精進します。

お読み下さり、有難うございました

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あきゅろす。
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