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物語【暗黒武術会編】
夢と契りと愛と… X


部屋の中を薄い月明かりが照らし、静寂が訪れていた。

二時間程前の二人の熱い行為が嘘の様…



共に果てた後に、蔵馬は意識を飛ばし、そのまま眠りに就いた。


様々な意味合いで泣かせてしまった蔵馬を慰めるかの様に、飛影はずっと蔵馬を抱き締めていた。
ついでに寝顔を眺めながら―…


肌には何も身に付けず、薄めのタオル生地の毛布を掛けているだけ。

それなのに蔵馬の身体は不思議な程暖かかった。


二時間以上時間を掛けてじっくり飛影に愛された故。
体内に染み込まされた飛影の妖気が在る故。
その炎の妖気を司る飛影が蔵馬を包み込んでいる故…



―もう、うなされる事が無いといい…


こいつは俺の事になると、良からぬ方向に持っていきがちなのは知っている。
その事があの夢を見せている原因なのだと思う。

ならば少しは不安を拭ってやれたか…?
多少強引だったが…

今のこの健やかな寝顔が、瞳を開けた途端、憂いを帯びないといい―…

眠る蔵馬を見ながら、飛影は思いを馳せていた。


「ん…」

ふと、蔵馬が薄く目を開けた。


部屋には月明かりしか無くとも、蔵馬の寝顔を見詰めていた飛影は直ぐに気付く。


―このまま朝まで目覚めないと思っていたが…


飛影は声を掛けなかった。
もしまだ意識の半分が眠りの中に居たら、直ぐにまた眠りに就ける様にとの配慮だった。


蔵馬は薄目でじっと天井を見詰めていた。
長い睫毛を動かさないまま―…


その時間が、飛影にはやたらと長く感じた。


―寝呆けているのか…?


飛影は蔵馬の横顔を眺めたまま、蔵馬の行動をじっと待っていた。


「…飛影?」

蔵馬は天井から左に居る飛影に目線を移し、声を発した。
心無しか揺れている様に見える翠の瞳だった。


「…何だ?また夢でも見たか?」


うなされてはいなかったが…
そう思いながら飛影は訊ねた。


「…いえ。何も…見ませんでした…。だから、目が覚めた時、貴方との時間が夢だったのかと…少し思ってしまいました…」


あぁ…だからか。
直ぐに確かめられず、それで長い事黙っていたのか。

合点がいった飛影はからかいの声色で返した。


「俺が傍に居たのにか…?」

「あまりにも自分の体温と馴染んでいて、直ぐには判断出来ませんでした。」


そう言って、素直に蔵馬は笑った。



「朝はまだだ。眠れ。俺も寝る。」


飛影は目を瞑って言った。
まだ蔵馬を見ていたかったが、蔵馬が眠り易い様、目を瞑ってやった。


「…今度こそまたあの夢を見たりして…ね。」


冗談を言う様に返した蔵馬だったが、不安の色が少しだけ混じっていた事に飛影が気付かない訳が無い。

飛影はまた目を開け、翠の瞳を捕らえて言った。


「悪夢を見てお前が苦しもうと、夢に居るのが俺ならば、どちらでもいい。」


勝手な言い草も、優しい声を出されると、違う意味として蔵馬に届く。

その証拠に、蔵馬は微笑んで目を閉じた。


随分俺も矛盾している。
蔵馬がもう二度とうなされない様にと思うのに、他の者ではなく俺を想っての事ならば、それはそれで心地いい等と思ってしまう。


己の矛盾を少し詫びる様に蔵馬を抱き締め直し、指を絡ませ優しく髪を梳く。


このまま再び眠りに就くかと思われたが、“忘れてた”と言う様に飛影を見て蔵馬は口を開いた。


「あ…オレ貴方に言いたい事があったんです…」


蔵馬は飛影の返事を待たずに白い腕を飛影の首に優しく絡ませ、そんなに無い飛影との距離を自ら縮めた。

飛影の耳まで顔を寄せて…


「飛影の…卑怯者…」


そっと囁いた。
愛を囁く様な声で。

舌で耳をなぞるのも忘れずに…


今日はずっと飛影に翻弄されっ放しだった。
いつものオレらしく、今位仕返ししないとね…


「…っ、卑怯とは何だ。」


急な刺激に不本意ながら飛影が小さく反応を示す。
そしてそれを誤魔化す様に、飛影は直ぐさま反論した。

飛影の反応に、嬉しそうに蔵馬が続ける。


「…卑怯ですよ。あんな…優しい声出すなんて…。」


あんな呼び掛け一つでオレを捕えるなんて…
飛影の声でオレは逆らえなくなったんだ―…


「…フン。俺の声をどう取るかはお前の心一つじゃないのか?」

「…なっ…」


飛影への想いがあるから、飛影の言葉に蔵馬が縛られた、と飛影は言いたいのだ。
仕返しするつもりが、倍返しされてしまった。

どうやら本当に飛影には敵わないらしい―…


「……もういいです……」


少し悔しそうな顔をしている蔵馬を、今度は飛影が嬉しそうに見る。


「いい加減寝るぞ。明日もあるんだろう。」

飛影が蔵馬を抱き締め直す。

明日の心配までしてくれている飛影を余所に、蔵馬は続ける。


「オレ…狐だからね…。夢の様にしちゃう時が来るかもしれないよ…?逃げるなら今の…」

「止めてやるさ。黒龍の二、三匹撃ってでも…なんなら鎖で繋いで監禁してやろうか…?」


最終確認の様に言う“逃げるなら今のうちだ”という言葉を遮って、物騒な台詞をさらりという飛影に、もう…と返して蔵馬は笑った。


「オレ…妖狐だからそんなに弱くないよ…?」

「愚問だな。今より強くなるだけだ。」


再び襲ってきた眠気の所為か、蔵馬は素直に不安の言葉を紡ぐ。
そんな蔵馬に、普段は考えられない程の言葉数で飛影は返してゆく。


普段の二人に比べたら、子供じみたと言ってもいいやり取りを少し繰り返して、再度、飛影は蔵馬に眠る様促した。


何も見えない様、何も考えなくていい様、飛影は蔵馬を己の胸に仕舞い込んで―…


飛影の行動に素直に従い、飛影に全てを預ける様に、蔵馬は眠りの中へ沈んでいった―…



(Yへ続く…)



★あとがき★
特に何の起承転結もありませんが…(すみません;汗)
飛影と蔵馬のやり取り…
意外とウチの二人にとっては大事な事だったりします。。。
YでENDです♪

お読み下さって有難うございました^^

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