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隻眼狼
Considerazione












「それで、ルドヴィーコ義勇軍とミレヴェ軍の事って話だけど。ミレヴェは君の方が詳しいんじゃないのかい?」
元々、居たんだし。
ペンを指先でくるくると回しながら、ギラードは言う。
「お前、馬鹿だろ。出ていった後のことなんざわかるわけねぇだろ。何時の話をしてやがる。おっさん退け」
アルトゥーロを足蹴にしてソファの端に追いやり、ギラードの向かいにどかっと座った。
「あぁ…そういうことか。うーん……、ミレヴェ軍が政府に口出ししているってことは知っているかい?」
「ミレヴェが政府に口出しなんて聞いたこと……いや、アイツならやりかねねぇか」
口元に手をやり、呟く。ふ、と視線をギラードに向けて続けて言った。
「ミレヴェが口出ししているとして、それはルドヴィーコとどう関わりが出てくる?」
「本来、ミレヴェ軍は街に手出し出来ない。政府の領域だからね。政府に口出しして、街への影響力を手に入れる。それによって、ルドヴィーコ義勇軍を使って、街の隅から隅まで手中に出来るということ。衛兵だけじゃ行けない地区もあるからね。貧民街が良い例だ。迷路のように入り組んでいて、指名手配犯がごろごろ居るようなところになんて入っていったら、土地勘の無い衛兵は返り討ちだよ。だから、ルドヴィーコみたいな奴らが味方に居れば貧民街の中のことを簡単に知ることが出来る。ルドヴィーコは、ガランサス教団という別の顔も持っているんだ。これは殆ど知られていないことだけどね。義勇兵という仮面を外して立場から離れたら、一般人と一緒。そこで、ガランサス教団の仮面を被ることによって、布教活動や清めの儀式だ何だって理由付けをして貧民街に紛れ込める。犯罪の温床でも、さすがに神に仕える人間へ危害は加えたりしないからね。あいつらにとって情報収集はお手のものだ」
僕のようにね。
手に持っていた手帳を捲っていく。
「これは、現段階では僕の勝手な想像でしかないんだけど……、ミレヴェとルドヴィーコが手を組んだのは、アーサー、君を探し出すためという理由もあるかもしれない。勿論、君だけじゃなく他にも貧民街には指名手配犯が居る。でも、そいつらはおまけでしかないと思う。理由はね、やっぱり衛兵が貧民街に現れたことと君が僕に見せたあのエンブレム。君が持っていたということは接触したってことだから、偶然にしては気持ち悪いよね。同時期に君を捜しに来るなんてさ。複合的に考えれば、君を探し出すための手段に犯罪者を摘発することが出来るおまけが付いたってところだ。政治的には一石二鳥」
此処までは良いかい?
ギラードの問いかけにアーサーは軽く頷く。
「あと他にルドヴィーコを利用するとしたら囮、かなぁ……衛兵やミレヴェ兵の犠牲を少なくするのに使えるし、人件費削減。削減した分を別のことに回せるしね。ミレヴェ軍にとっての利点はこんなところかな。ルドヴィーコの方は別に見返りなんて求めないから扱いやすい方だ。それこそ、人件費削減に持ってこい」
「ちょいと口を挟むが、削減したその費用は何に当てるんだ?やっぱ武器関係か?」
黙っていたアルトゥーロが、ソファの背もたれに寄りかかったまま口を開いた。
「そうでしょうね。銃弾や砲弾の消費量は馬鹿になりませんから。他の物を削減する価値はあります」
「やっぱその見方が出てくるよなぁ……なぁ隻眼君?」
視線をアーサーに向ける。
「話振ってくんなおっさん」
至極面倒くさそうな表情を浮かべ、アーサーは煙草に火をつけて咬えたまま黙り込んだ。
「……?」
ギラードは、アルトゥーロの発言の意味が掴めず、アーサーが面倒くさそうな表情から不機嫌な表情に変わっていくのも、理由を推測出来なかった。
「もう一つ疑問なんだが、他の指名手配犯を差し置いて一番にこの隻眼君を追い掛ける理由はわかってんのか?」
「いやぁ……そこまではまだ。けれど、推測するに、アーサーは元軍人なので軍に関する情報漏洩を危惧してのことだと思います。特に、セキュリティーに関して情報を流されたら敵対視している人間が大喜びしちゃいますからね」
「セキュリティーねぇ……別に大したものを使ってるわけじゃねぇと思うが」
「貴方が居た当時とは違うかもしれないですね。……あれ?そうなると、君も同じくらいに居なくなっているはずだからセキュリティーに関して情報漏洩を心配する必要はないのか?」
「さぁな。そんなの別にどうだって良いさ。結局は追い掛けられている事実に変更はねぇだろ。で?他にはねぇのか?」
「今のところはそれくらいしか浮かばないね。ルドヴィーコとは関係無しに、政府に口出しするのは予算関係ぐらいだろうし。今の政権は力が弱いから、前政権で減らされていた軍事費を増やしたいミレヴェとしてはちょうど良い」
「それじゃあ、現段階での双方の動きはどうなんだ?」
紫煙を燻らせながら、片方のホルスターから銃取り出してくるくると回した。
「ルドヴィーコは今のところ目立った動きはしていないかな。君に接触したくらい。ミレヴェはクレオールと抗争中。確か……、ロッソ隊だ。指揮は―――」
「ジョアン・ヴァレンティーノ。俺の居た部隊だ。部下で、後任を任されるならそいつだろ。にしても、ロッソ隊でクレオールを相手にするには割に合わねぇな」
クレオールは弱過ぎるぞ。
ふぅ、と煙をアルトゥーロに向けて吐き出す。大きく咳き込むアルトゥーロに蹴りを入れながら、視線をギラードに戻した。
「その辺りの事情はちょっとわからないけど……クレオールは金属が豊富だから、レヴォンにとってもミレヴェにとっても物凄く欲しいところだよ。確実に得るんだったら、力に差があっても別に不思議じゃないし、わざわざ近い武力で行く必要は無いんじゃないのかい?」
「げほッ……はぁ…ところが違うんだな、情報屋君」
若干、涙目になりつつアルトゥーロが再び口を挟んだ。
「ミレヴェは常に相手と対等であることを選ぶんだ。武力に応じて、先陣を切る部隊を決める。相手と対等になり、互いにギリギリの戦いをするんだ」
ちゃんとメモしておけよ?
「……僕の情報不足、ですか」
むぅ、と眉間に眉を寄せて呟きながらペンを走らせる。白いページをどんどん埋めていき、ギラードは視線を向かいに座る二人に戻してからペンの動きを止めた。
アーサーは未だにアルトゥーロに蹴りを入れ続けている。
「おいっ!お前はいい加減、俺を蹴るのを止めろッ!肩の傷抉るぞ糞餓鬼!」
「余計なことをべらべら喋り過ぎなんだよおっさん」
身体を傾け、アルトゥーロの胸部にがっ、と片足を押し付ける。そのまま足に力を入れて傾けていた身体を起こし、銃口をアルトゥーロの額に押しつけた。
「小僧…ッ!」
アーサーの脚を掴み、引き剥がそうとする。
「無理に動かさない方が身の為だぜ?」
「あぁ?」
にやりと口角を持ち上げたアーサーに、アルトゥーロは怪訝な表情を浮かべた。
「俺の靴にはな―――」
「……うわッ!?」
「!?」
悲鳴を上げ、咄嗟にアルトゥーロは仰け反る。ギラードは目を見開いた。
「仕込みナイフがあんだよ」
シャッ、とアーサーの靴の爪先から鋭利な刃が顔を覗かせており、切っ先はアルトゥーロの首元ギリギリだった。
「ふざけんのも大概にしようぜ隻眼君」
「別にふざけてるつもりはねぇけどな」
引きつった笑みを浮かべて言うアルトゥーロに対し、アーサーは表情を変えず足も銃もそのままに言葉を返した。
「取り敢えず物騒なやつを仕舞ってくれよ」
「このまま足伸ばせばぐっさりだな」
それとも、引き金を引いちまうか?
意地の悪い笑みを浮かべたままアーサーはわざとゆっくり足をずらし、首元ギリギリにある切っ先を更に近付けていく。
「いやいやいや駄目駄目ッ!!ほ、ほら、戦力が減っちまうだろ…っ!?」
「どうせ囮に使うつもりだったしなぁ…」
「おいっ!」
そろそろ止めに入った方が良いだろうか。そう思ってアーサーに声を掛けようとしたギラードだったが、先に制した人物が居た。
「そこまでにしておいたら?私の部屋で死体なんて出さないでよね」
掃除が大変でしょ。
ティーカップを乗せたトレーを片手に持ち、ルチアは空いている手でアーサーの銃を掴んだ。
「人の命ではなく部屋の心配ですか」
ルチアの発言に苦笑いを浮かべてギラードは言った。
「そうよー、他人がどうなろうが私にはどうでも良いことだもの。掃除は私に関わってくることだから」
「そりゃ無いぜ別嬪さん」
アルトゥーロの訴えに微笑で応えながら、掴んだ銃の銃口を反らさせ、ルチアは空いているギラードの隣に腰掛けた。
テーブルに置かれていたティーポットを取り、トレーに乗せていたティーカップに注いで自身とアーサーの前に置く。
「それで、私には何か無いの?」
「はぁ?」
銃を仕舞い、アーサーは眉間に眉を寄せて咬えていた煙草を、テーブルの端に置かれていた灰皿に押し付けた。足はそのままだ。
「何言ってんだあんた」
「だからー、私にも何かやらせて!」
子供が親に何かを強請るかのように、胸元で手を合わせてルチアが言うと、アーサーはアルトゥーロから足を退かしてソファに座り直した。仕込みナイフは、踵を床に打ち付けると引っ込んだ。
「武器調達頼んでるじゃねぇか」
「私もスリルとかたまには味わいたいわ」
「……全く。これだからスィニョーラってのは苦手なんだ。娯楽に飽きて首突っ込んで来やがって。アルマイオーロの仕事も充分スリルがあんだろうが」
面倒くさそうな表情を浮かべる。
「他の子達と一緒にしないでよね。家に頼らず、私はちゃんと自立しているのよ?それに元々、貴族の娯楽とか興味ないし」
「なら……」
ふ、と考える素振りを見せる。











「門番に色仕掛けでもやってみるか?」






ソファの背もたれに寄りかかり、足を組んで言ったアーサーは、口角を持ち上げてルチアに視線を向けた。








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