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隻眼狼
Alleanza-U










鮮やかな思い出は残酷で、











綺麗過ぎる記憶に















吐き気がしそうだ。





















「向こうが何処に居るか私は知らないんだけど」
「俺が知っている」
目的の駅でホームに降り立った二人。
駅は、急な暴風雨によって足止めされている人達で少し混みあっていた。
「ありゃ、これ皆、足止め組?」
「そうらしいな。仕方がないだろう、急に来た暴風雨だ」
「可哀想ー」
言いながらゲゼルは雨用の外套を羽織る。デュリオは既に羽織っていた。
駅入り口付近まで来ると、強い風が吹き込んでくる。ざあぁあぁっ、と音を立てる雨に、視界は霞んで見えない。
ここから先は、デュリオについて行くしかないゲゼルは強い風によたよたしつつも、一歩引いた位置を保った。
デュリオは背筋を正した姿勢を崩さずに歩いていく。
水位を増した水路は大きく波打ち、小舟も石畳の歩道に乗り上げてしまいそうだった。
住宅街の中を突き進んでいき、二人はベリル広場に辿り着いた。
中央にある噴水は止められ、人も居ない広場は普段の活気を完全に失っている。
「こっちだ」
きょろきょろと見回していたゲゼルにデュリオは言った。
歩いていく先には教会。
雨で霞んだ視界に、この古い教会は日射しに照らされているときの荘厳さは無く、逆に不気味な建物に見えた。
例えるなら、幽霊でも出そうな雰囲気。
「ガランサス教会?こんな場所に居るのかい、デュリオ」
「そうだ。ルドヴィーコ義勇軍、またの名をガランサス教団。両者が同一のものだというのは、殆ど知られていない」
言いながら、彫刻が施された教会の重い扉を押し開ける。
がたん、と扉が完全に開くとその先に、各々の武器を手にし、祭壇前や参列者用の椅子に腰掛けた集団が視界に入った。
「神の名の下に、国のため正義のために立ち上がった集団だ」
扉から流れ込む風に、祭壇に並べられた蝋燭の火が大きく揺らぐ。それは、白い外套に影を落としていた。
「これはこれは……、言ってくれれば迎えを寄越しに行ったのに」
一人が口を開いた。
「神の手下を名乗るチンピラ共の迎えはいらん」
外が騒がしい暴風雨の中、教会の中では声がはっきりと響いた。




















「まさか、大将さん直々に来るとはな。正直驚いている。人の上に立つ人間は大抵、下っ端を寄越してくるからな」
白い外套の集団の何処からか聞こえてくる。
全員、外套のフードを被っていて顔が見えないため、誰が話しているのかはわからなかった。
「これに関しては、俺が直接動く必要があってな」
デュリオは雨用の外套を脱ぎ、参列者用の椅子に放り投げた。
「取り敢えず、代表者が誰かはっきりさせたいんだが?」
そう言うと、白い外套の集団の中から一人が立ち上がった。
「お前か。別に名は聞かん。早速、本題に行くとしよう。お前達ルドヴィーコ義勇軍は我々ミレヴェや衛兵よりも貧民街の構造を熟知している。この前のようにアイツを炙り出してもらおう」
「それは、また仲間をあの飢えた狼の生け贄にしろって事か?」
「生け贄とは聞こえが悪いな。名誉ある死に値するんだぞ?あの反逆者を葬るのに一役買うんだ。お前達にとって、殉死は素晴らしい功績になるだろう。義勇軍の中で語り継がれていくんじゃないのか?」
この場において180という、一番背の高いデュリオは、腕を組んで全員を見下ろした。
横から口を挟めないために手持ち無沙汰なゲゼルは、デュリオの傍らで周りを見回す。
時間帯的には夕暮れ時で、本来なら夕陽が色ガラスを通って教会の中を照らすが、今の悪天候では夜のように暗い。
祭壇と通路、壁沿いに並べられた蝋燭の火だけが頼りだ。
「……………」
居心地が悪い。
此処を一言で表すならそれだ。厳かな雰囲気に多少の緊張感があるのはわかるが、此処はそういった風には感じられない。
悪天候による暗さと、目の前に居る義勇兵達の存在がそうさせるのか。それとも、自分に背を向けて義勇兵と話すこの上司が放つ威圧感か。
兎にも角にも、ゲゼルにとっては此処より外の方がマシなものに感じられた。
「あの男は、普通じゃない。アンタ達と同じようにな」
「ほぅ…普通じゃない?」
「化け物の集団と言った方が良いか?アンタ達の軍は、兵士に何かしている。その何かはわからないが、良いことのようには思えない」
義勇兵の言葉にデュリオは口角を上げた。黄色い、鷲のような目を目を細める。
「それがミレヴェ軍の連戦連勝という記録を残せる理由であっても、我々からすれば危険なものに感じる。それに、飢えた狼を炙り出すだけの話が、犠牲を払うことになったのは我々を介さずして直接アイツに何か指示を出したからだろう?接触する話は一切無かったはずだ。そうやって、蚊帳の外にされていては簡単には頷けない」
信用出来ないということだ。
デュリオは笑みを浮かべたまま答えない。組んでいた腕を解いて数歩、前に歩んだ。
燭台で揺れる蝋燭の火に視線を向ける。デュリオの髪が反射して煌めいた。
「なら、今回はこちらの情報を全て提示しよう。それなら文句はあるまい。お前達の欲しい情報をくれてやる。俺のこの言葉も疑わしいと思うなら、契約書を書いてやっても良いぞ?」
暫し、口を噤んだ義勇兵は仲間を見回す。何人かが頷いた。
「…良いだろう」
「では、紙を出せ。今此処で血書する」
一振りのナイフを取り出し、蝋燭の火に翳しながら言った。












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あきゅろす。
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