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隻眼狼
Pericolose medici-U






「そういやぁ、今日は景気が良くてな。魚が大漁なんだ、持ってけ隻眼君」
アーサーが出て行こうとした時にアルトゥーロが言った。
「いきなり何を言い出すかと思いきやそれかよ」
「今日の食費が減るんだぞ。嬉しくないのか?」
ほれ、と何匹か移した小さいバケツをアーサーに寄越した。
「俺一人じゃ処理出来ねぇからな。あの別嬪さんのアルマイオーロ(武器商人)のところにでも持って行ってやりな」
「五十路のおっさんが、太っ腹だな」
「まだ五十路じゃない!俺は45歳だ!」
「後五年すりゃあ、五十路だろ?」
五年なんてあっという間さ。
バケツの中を覗き込みながら言った。それに対してアルトゥーロはアーサーを指差し、
「お前なんか三十路手前だろ!独り身の寂しい奴め」
友達も居ないだろ。
「女に逃げられたアンタに言われたくねぇよ」
「ムカツク餓鬼だなこの野郎」
「何とでも言えおっさん」
「さっきの傷を抉ってやろうか」
「やってみな。返り討ちに顔面を潰してやる」
ギャーギャー喚き、階下にある反物屋のおばさんが来るまで口論は続いた。反物屋のおばさんからの漁師町の住民らしい勢いに二人はあっさりと黙らされた。
「若造が喚いて、みっともない」
最後にはそんな事を言い、おばさんはどかどかと階段を降りていく。
「お前のせいでおばちゃんに怒られちまったじゃねぇか」
今日の差し入れがもらえねぇ。
「んなこと知るか」
「差し入れは重要だ。食費に対する消費がねぇ、作る手間要らずだ。妻と別居中の可哀想な俺にとって素晴らしいことだ!」
拳を握ってアルトゥーロは言う。それに対してアーサーは片方の耳に人差し指をあてがい、眉間に眉を寄せて言った。
「力説すんな。あんたの事なんざどうでも良いんだよ。て言うか別居じゃねぇだろ」
「どうでも良いと言っておきながら別居を否定しているな。俺に関心があんのか?」
「ねぇよ!」
叫んでから、また反物屋のおばさんが出没するかと一瞬ひやりとしたが、聞こえなかったのか、はたまた出掛けているのか。おばさんは現れなかった。
これ以上は時間の無駄だと、今度こそアーサーは帰ろうと扉を開けた。
「じゃあな、アルトゥーロ」




















「あら、お友達?」
そう言ったルチアの視線の先はアーサーの後ろ。
「んなわけねぇだろ」
腕を組み、不機嫌を露わにしたアーサーはソファにどさっと座った。
「誰がこんな五十路のおっさんなんかと」
「だから五十路じゃねぇっつうの!」
アルトゥーロが、大きなバケツを抱えて入り口に居た。
結局、アーサーがアルトゥーロの元を後にしようと外に出た時、バケツを抱えたアルトゥーロが追いかけてきて、
「差し入れがねぇとなると作る気が失せた。あの別嬪さんの料理もいっぺん食ってみたいしな」
なんて事を言ってくっついてきたのだ。
「初めまして」
ルチアが言うと、アルトゥーロはわざとらしく頭を垂れて言った。
「この生意気な小僧からお話は伺ってますよ」
「あらやだ、私の話をしてくれたの?アーサー」
「一緒に居るところをたまたま見て、後からしつこく聞いてきただけじゃねぇか」
俺からわざわざ話すなんざしねぇよ。
「別嬪さんを連れて歩いているのを見たら、問い詰めなくっちゃな」
言い、持っていたバケツをルチアに渡した。
「あらあら、こんなにたくさん。よろしいの?」
「独り身には多過ぎるのでね」
「今夜は魚料理ね。貴方もよろしかったらご一緒にどうです?」
「素敵なお誘いをこんな別嬪さんにされたら受けないわけにはいきますまい」
アルトゥーロの発言に、アーサーは不快なものを見たような顔になった。
「最初からそれ目当てに来た癖に」
「何か言ったか小僧。傷抉って欲しいか?」
「おっさんに構ってられねぇんだ、わりぃなアルトゥーロ。おい、インフォルマトーレは何処行きやがった」







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