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ちびろい1

東の空が明るくなってきた頃、クラトスはふと、違和感に包まれ目を覚ました。
しかし原因が今一つわからない。
仕方がないので、そのままクラトスは隣で寝ている息子を起こすべく手を伸ばす。

そこで思考が停止する。

シーツの白い山がいつもよりも小さい。それもすごく。
しいて言うなら幼児のような…

(…幼児?)

よぎる嫌な思考を振り落としながら、クラトスはゆっくりとシーツを剥いでいく。
いつもと同じ鳶色の髪が見え、安堵した瞬間……

「ぅに…?くらとしゅ…?」

見事幼児化を果たした幼きロイドが姿を現したのだった。

「…おはよう、ロイド…」

頭の中は大混乱だがなんとか平静を保つ。いや、少しうわずった声が彼の動揺を顕著に表しているが。
その原因であるロイドは暢気にも目を擦りながらもそもそと起き始めた。まだ自分の状況に気が付いていないようだ。

「……あれ?」

ロイドは自分の手を見て首を傾げる。

「…なんか、手、ちっさくないか?」

両手をぱっと開いてクラトスに見せる姿は可愛らしい。
クラトスは内心その可愛さに悶えながらも、表面上は冷静さを保ちながら答える。

「そうだな。手だけではなく全体的に小さいが…」

「つまり…」

「あぁ…」

「縮んだのか?!」

うぇーっ?!なんで?!どうなってんだ?!と大声をあげながら、ロイドは体を触ったり見比べたりして、今の状況を把握しようとしていた。
驚きや文句を言いながらも、結果ロイドは一つの可能性にたどり着く。

「もしか、して…アレかなぁ…」

「アレ、とは?」

心当たりがあるのならばと、クラトスは続きを促す。
ロイドは言いにくそうにしたがゆっくりと口を開いた。

「えっと…昨日ユアンに会ってさ…」

「…ユアンに?」

もうすでにこの時点でクラトスは嫌な予感がした。
あの旧友が絡んで良かった事など一度もない。万に一つ位しかまともな事がない。
クラトスは眉間にシワが寄るのを自覚した。

「なんか変わったグミ持っててさ、作ったからちちょ…あれ?…し、ししょく、ちて……って…」

幼児化してしまい舌っ足らずになったのか、ロイドはたどたどしくじゃべる。
そんな可愛らしすぎる息子を目の当たりにして、クラトスは遂に枕へと顔をうっつぷしてしまった。何なんだこの可愛い息子はなどと、内心自問自答する。

「…それで、食ったのか…」

「う…ごめん、なしゃい…」

まあ食べてしまったのは仕方のないことだし(奴はジャッジメントで絞めるとして)次からはあのアホ青髪に何かもらっても、ホームラン級の当たりで返品してやれとロイドにきっちりと教えておいた父であった。

「とりあえず服を何とかせねばな」

当然の事ながら子どもの服などある訳がない。
クラトスはタンスを漁りシャツを取り出すと、器用にロイドサイズの服へと変貌させてしまった。そしてロイドが呆気に捕らわれている間に、素早く着替えさせる。

「キツくはないか?」

「へーき、ぴったり」

特にサイズを測った訳でもないのに何故こうもピッタリなのかは甚だ疑問だが、そこは"クラトスだから"と頭の角に追いやる。

そんな事よりも、ロイドはどうしてもクラトスにしてもらいたい事があった。
普段では出来ない、今だからこそしてもらいたい"ある事"。

「なぁ…クラト、ス…」

「どうした?」

クラトスは着替えるとロイドへと視線を向けた。
ロイドはベッドのふちにちょこん、と座りクラトスを上目遣いで見つめている。

「…かたぐるま…!」

突然の申し出にクラトスは驚きを隠せない。
そんなクラトスを見てロイドは「ダメ?」と、少し残念そうに首を傾げる。

「そんな事はあるまい。ほら」

クラトスは微笑むとロイドを抱き上げて肩に乗せた。

「ぁ……」

小さな声をもらして、ロイドはクラトスの頭に擦り付く。

「オレ…かたぐるま、すきだった…」

幼い頃の記憶は殆ど無いけれども、その感覚は体に染み付いていたらしい。ロイドはその感覚を確かめるように何度もクラトスの頭に頬を擦り付ける。
そして、クラトスもまた、その懐かしい感覚を味わったのだった。




 


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