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SK長編
優しさ


「薫はちっちぇえことで気に病むんだね。」


彼は内容にそぐわない笑顔を浮かべる。


「だ、だって!」


もし、相手が今の私の居場所を突き止めていたとしたら。
相手が見境なくあらゆる手段に出る人間だったら。

それは仲間にも危険が及んでしまうということ。


「皆に危険が及ぶのだけは…避けたいんです。」


「大丈夫だよ。あいつらだって自分の身ぐらいは守れる。」


「それは…そうかもしれませんけど……。」


どうしても不安が拭えない。

向こうから仕掛けてくる前に何とかせねば、と下を向いて頭を抱えているとふと、視界に黒が映った。




「怪我してる。」


彼の視線に従ってみると、薫の左手の甲には一筋の赤い傷ができていた。

もしかしたら木の枝に当たったあの時かもしれない。
薫はポケットからハンカチを取り出して傷の部分を覆うように巻こうとする。

わかってはいたが、片手で行うには少々難しかった。


「貸してごらん。」


彼はハンカチを手に取ると、ちょうど良い加減で結び目を作ってくれた。

その一連の動作にどこか儚さを感じて、見つめたまま動けなかった。


「あ、ありがとうございます。」


「いいよ、これくらい。」



ハオ様はいつだって優しい。


4年前のことだって…



……あれ?



「あ、あの…ハオ様、……ハオ様?」


目を合わせようとしても顔ごと逸らされてしまった。

心なしか焦ったように見えるのは気のせいだろうか。


「私は前の家にいたとき、7年ぶりにハオ様とお会いしたと思っていたのですが…。」


もしかして…とつぶやくと今度は体の向きごと変えられてしまう。


「あの時以外にも「行ってない。」……えっと…。」


話をさえぎってまで否定されるとは…。
それは”行った”と肯定しているようなものだと薫は心の中で苦笑した。



「…ハオ様。」



視線だけをこちらに寄越した彼に覗き込むように首を動かす。



「お気遣い、ありがとうございます。」





私は、幸せ者だ。



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