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●ベアトリーチェと戦人
●拍手文で少しの間使っていたほうEP4ネタバレあり
●微グロ注意












意識がぼーっとしていたので、その音と足音に暫くベアトリーチェは気づく事が出来ませんでした。

 ようやく影が彼女にかかった頃にベアトリーチェは顔をあげます。
蜂蜜色の髪を人差し指で頬からどけて、薔薇や色とりどりの花に囲まれたそのベンチに横たわったままで。


 足音の正体は人間でした。

「・・・・・・そなたは誰だ、どうやってここにきたのだ?」
「・・・・・・・」
 男が一人立っていました。
 金蔵と使用人以外はじめてみる人間。ベアトリーチェは内心驚きました。
 燃えるような赤い髪が印象的で、背丈は昔の金蔵ぐらいでしょうか。
 ベアトリーチェはおそるおそる問い掛けてみます。
「のぉ、そなた??使用人ではないよな???」
 顔の作りは整っており、ベアトは男を見上げながら声を掛け続けます。
「そなた、聞いておるのか」
 声を大きくあげてみると男はギョロリとした目でベアトリーチェを睨んできました。
「・・・・・なんのつもりだよ、あのくされ魔女」
 男は意味が分からない事を呟くと彼女に後ろ姿を見せて歩き出しました。
 ベアトリーチェは一瞬、迷った後に彼の後ろについていきます。男はそれに気がついても自分のペースと歩幅で歩き続けます。
 やがて大きな柵にでます。
 バラの蔦が絡まったその大きな柵は彼女の屋敷を囲んでおり彼女はその世界より外には出られません。
 
 なぜなら、外には怖い狼が彼女を待ち受けているからです。

『と、いうのは嘘で、何より、この柵の鍵は金蔵しか持っていないから、妾は出られぬ』


 それを知ってか知らずか、男は茨をよけて柵を掴み、がたがたと揺らします。
 びくともしない柵に苛立っているようです。

「無理じゃぞ・・・・此処は金蔵にしか開けれぬ」
 そもそも、そなたはどうやってここに来たのだ、と問い掛けたいのを我慢しつつベアトリーチェは言葉を落とします。
「ぁあ?じゃあそのお祖父様はどこにいるんだよ」
 お祖父様、とは金蔵の事なのでしょうか。
 ベアトリーチェは少し考えた後に「知らぬ」と声を落とします。
「最近、姿を見せぬ」
「うそつくなよ。あいつがお前に夢中なのはしってんだよ」
 男がベアトに接近してその細めた目でベアトを睨みます。
「知らないといっておるであろうが、だから妾とて・・・・・困っているというのに」
「困る?なんで」
「食事が取れずに困っているということだ」
 その言葉に男はようやく睨むのをやめます。
「食事?食料品もないのかよここは?」
「分からぬ、全て金蔵に任せているからな。だから金蔵が来なくなり妾はここ6日間、紅茶しか飲んでおらん」
 そう言いきると、男は「うそ、だろう?」と目を丸くします。
「此処にいる使用人は紅茶しか入れてくれぬ」
「いや、でもお前・・・」
「だから、妾は嘘などつかぬ」

 その言葉の後に、おぼついていた足元が大きく揺れて、ベアトはそのままバランスを崩して倒れてしまいました。
 もう力も出なかったのです。



 次に目が覚めた時に聞いた音は小刻みのいい包丁の音でした。

 ベアトがうっすらと長い睫を震わせ音がする方向を見ました。
 それと同時に先ほどの赤髪の男が、むすっとした表情で机の上にお皿を乱暴に置きました。
 ベアトが慌てて身を起こすとお皿の上には料理が置かれています。
「ありあわせ、ものだけど、」
 男が言葉を口にしたのを了承と受け取り、ベアトリーチェはおずおずと食事につきます。どんなに空腹でも彼女はマナーを忘れません。
 丁寧にナイフとフォークを使ってぱくぱくと食べはじます。
 食べているうちにまともな食事につけた事が嬉しくて、思わずぼろぼろと泣きはじめました。
「な・・・・・・ななな????」
 男が変な奇声を発していますがベアトには関係ありません。暖かい料理が胃に入れる事に夢中です。
「死ぬかと・・・・思ったぞ・・・・このまま金蔵が来ねば妾は一体どうすればとよいかと途方にくれておったのだ」
 礼を言う、そうベアトが微笑むと男は
「 冷 蔵 庫 !!」
 怒ったように声を出しました。
「食料品は腐るほど入ってたじゃねーか!!!卵も!パンも!!ハムも!!野菜も肉もたっぷり新鮮!!!牛乳だけ期限がすぎてたから捨てたけどよ!!!!」
「妾はそれらをどう調理すればいいかなど、分からぬ・・・」
「焼くなり炒めるなりなんなりしろよ!!パンならそのままかぶりつけ!!!」
 呆れた声音に他所にベアトは食事を続けます。金蔵が用意する食事とはまた違い、それはそれはとても美味しいのです。
「・・・・ったく」
 男は呆れたように呟いた後に、ベアトリーチェを眺めていたのでした。


 食事を終えて満足したベアトは彼に向き直ります。
「本当に助かった。そういえば自己紹介もまだだったのぉ。妾の名前は、」
 ベアトリーチェが声を出す前に男は立ち上がりました。


「ベ ア ト リ ー チ ェ」

 冷たく、凍えるような声です。

「なんじゃ、そなた、妾の事をしっておるのか」
「残虐で、非道な・・・・・・・魔女の名前だよ」
 そう彼はベアトリーチェに顔を近づけて人一人殺せそうなまでに強くにらみつけてきました。ベアトは怖くなり視線をずらそうしましたが、男はそのベアトの小さな顔を片手で掴み、自分に向きなおさせます。
「・・・っそ、そなた・・・誰かと勘違いしておらぬか???」
 ベアトリーチェは生まれてこの方、此処から出た事などありません。
 彼女の唯一の話し相手は金蔵のみで、唯一の楽しみは時折、檻の間から入ってくる小鳥と戯れる事ぐらいなのです。

そんな彼女を捕まえて、残虐非道などと、
 
男は真意を探るかのようにベアトの目をじっと見た後で、あっさりと離します。


「俺に、近寄るなよ」

 そう吐き捨てると男は立ち上がりベアトリーチェのもとから去っていきました。

 なんて奴なのでしょう!!

 彼女は男が嫌いになりました。
 傲慢な態度も、赤い髪も、大きな身体も、こちらを嫌悪と侮蔑の目で見る瞳も、全部、全部。



 何より、青年からは、金蔵と同じ匂いがするのです。

 好きに・・・・なれるわけがないと感じました。
 料理を作ってくれた事に関しては、恩義を感じるのですが。


 その後に金蔵がようやく、やってきました。
 彼の時間間隔は年々ずれているようで、ベアトをここに置き去りにして彼の中ではまだ一日しか経っていないようでした。
 このまま彼の時計がずれ続ければ、
『妾はどうなる?』そう思いながらベアト緩やかにやってくる死の恐怖に背筋が冷たくなるばかりでした。

 ベアトは金蔵が帰った後に屋敷の隅で蹲っている男を見つけます。
「金蔵ならさっき来て帰ったぞ?」
「知ってる見てる。くそ・・・・すぐに閉めやがって」
 どうやら外にでるタイミングがつかめなかったようです。男は金蔵にあったらいけない理由でもあるのでしょうか。
「今、俺は魔女によって過去の此処につれてこられている。それを現実世界にも存在するお叔父様に会って見ろ。現実世界でその叔父様が俺に今日会った事を覚えていてみろ、結果、現実世界にまで魔女の介入を認めてしまい、ますます魔女を肯定する事になっちまうじゃねぇええか、」
 男はベアトを睨みながら説明しています。よく、わかりませんが、彼女以外の人間と男は接触できないようでした。
「しかし、それでは・・・そなた此処から出られぬぞ?」
「・・・そうだな」
「妾は!いやだ!!!そなたのような粗忽な男が妾の傍にいるのは!!」

 男は驚いた顔をします。

「俺が傍にいるのはいやか?」
「あ、当たり前であろう?!近寄るな、残虐だとか非道だのいいおって。妾は傷ついておる!!」
 ベアトは整った顔を若干歪ませて男を睨む。男はその顔を見て少しだけ困った顔をしました。
「あ・・・・・いや、その、それは」
「だいたい妾はそなたとはほぼ初対面だ。初対面の女に向かってそなたは無礼すぎるであろう!!!」
「し、しかたねーーーーーだろうが!!お前はベアトリーチェなんだから!!!!」
「ベアトリーチェで何が悪いという!!人の名前を固有名詞のように呼ぶでないわ!!!!」
 そう叫ぶとベアトはスカートの下の白く細い足をするりと伸ばします。男がぎょっと目を丸くしたところでその足で男の足をおもいっきし踏みつけてやりました。
「っ!!!」
「そなたなど一生、妾と一緒で出れなくなってしまえ!!」
 そう吐き捨てるとベアトリーチェは屋敷の中に帰っていってしまいました。
 自室のソファーに腰を下ろし、暖かい室内で息を吐きます。暖炉の火がパチパチと燃えています。テーブルの上にはお茶が入っています。
 物を言わない使用人がやってくれたのでしょう。
『そうだ、あのような粗忽の輩は、妾と一緒にここから出れなくなってしまえばよい』
 男がいう言葉を彼女は考えた事があるのです。自分がなぜ此処から出られないのか、ここに閉じ込められているのか
「そうか・・・・妾は魔女だったのか・・・きっと妾が覚えていないだけであの男がいうように酷いをことをしたから、金蔵によって閉じ込められていたのだな」
そう思うと自然と悲しくなってきます。
『ならば。おそらく・・・あの男も似たような理由であろう。だからきっと此処にきたのだ』
 だとしたら、あの男もこれから此処に居続けるのだとすれば、
「それは、少し、嬉しいかもしれぬ」
 金蔵以外と喋れる孤独からの開放、鳥が檻の隙間をこえて来るのを待つしかない日常。あの男は同じ檻の中に閉じ込められたというのだから。
 ベアトはふふふ、と小さく笑ってそのまま、うとうとと重くなってきた瞼を閉じて意識を閉ざしました。


 次に目が覚めたのは継続的に規則的に続く雑音からでした。
 ベアトは長い睫を震わせ身を起こします。窓硝子に落ちる水滴を眠り眼で見つめた後に上半身を緩やかに起こします。
 いつの間にか暖炉の火は消えており、代わりに上からはタオルケットがかぶせられていました。
「雨・・・・・」
 呟きながらタオルケットを身に寄せて窓に近づきます。
 吐いた息は白くて窓硝子は曇っており、彼女は指でなぞりその水滴をつけます。
 そこで、ふっと気がつき傘を持って外に出ます。
 屋敷の屋根の出っ張った部分の下に、男が体を震わせつつこちらを見ました。

「なぁ。俺が可哀想だとおもわねぇーか」
「濡れネズミみたいに、なっておるの」

 ベアトは暫く考えるように男を見た後で傘をもっていないほうの手を伸ばしました。


「とりあえず、中に入るか??????」





後編


あきゅろす。
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