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夢先、君がいる場所
02 その壱、発見

生まれて物心ついた時から、なぜだか胸の奥の奥がずっと曇っている気がした。
それは晴れる気配はなく、時折ふと、何かを訴えかける。
だが、それがなんなのか俺には判らなかった。
ただただ、何か欠けた一粒を、俺はずっと探していたのかもしれない。


――その答えが、あの桜の下で見つかった。





その壱、発見





「・・・かったりィなぁ」


空知高校入学式当日。
俺は校庭に咲き乱れる桜の下を歩きながら、新入生のクラス分け表を眺める。


「1−B・・・。担任、坂田銀時。 なんか頭わるそーな名前」
「おーい、総悟ー!」


聞き覚えのある声に誘われ顔を上げると、そこには近藤さんがいた。ついでにマヨラーも。


「近藤さん! 来てくれたんですかィ!」


思わぬ姿に、俺は嬉しくなって駆け寄る。
近藤さんとは小さい頃からの付き合いで、兄のように慕っている。この空知高校の3年生だ。


「おい、俺もいるぞ」
「なんでィ、近藤さんの隣に腐ったマヨネーズがあると思ったら土方さんじゃないですか」
「人を腐ったマヨネーズ呼ばわりすんじゃねぇよ!!」


マヨネーズ改め土方さんとも、近藤さんと同じく幼い頃からの腐れ縁だった。
出会いは近藤さんの父が運営していた剣道場で、父と同じく剣道を習っていた近藤さんについて教えてもらっていたある日、このマヨラーが転がり込んできた。
それからは家が近所だったのもあり、三人とも小学、中学と一緒で、結局高校も一緒になった。
近藤さんと同じ高校に通えるのはとても嬉しいが、土方さんがいるのはとっても邪魔だった。
いつの間にか、近藤さんの隣陣取りやがって、憎たらしい奴だ。


「・・・おい総悟、お前今とんでもねぇこと考えてるだろ」
「ありゃ、なんで分かったんですかィ。どうしたらマヨラーを学校の屋上に呼び出して突き落とせるか考えてたんでィ」
「顔に出てんだよ! 『殺』って漢字おもいっきし出てるから!!」
「おい、総悟。そろそろ入学式が始まるんじゃないか?」


近藤さんが校舎に貼り付けられてる時計を見上げながら言う。
確かに、そろそろ教室に行く時間だ。


「じゃあ俺はそろそろ行きます。近藤さん、入学式終わったらラーメンでも食いにいきやせんか。俺の奢りで。
――ってさっき土方さんが言ってました」
「近藤さん、どうやら総悟の中にはもう一人俺がいるみてーだ」
「ハッハッハ。今日は俺が奢ってやる。だからまずは教室行って友達作って来い」


へーい、そう答えて俺は校舎へと歩いていった。
校舎に入り上履きに履き替え教室へ向かう途中、校舎の裏に仲間はずれにされたように一本の桜が植わっており、太陽の光に照らされやけにキラキラして見える。



桜に目を奪われていると、その太い幹の裏に人影があるのに気づいた。スカートが風に翻る。





「―――チャイナ・・・」






自然に、その言葉が口から零れる。
初めて見る奴のはずだった。近所にも幼稚園にも小学校にも中学校にも、あんな奴は友達にはいないし、見たことだってないはずだった。
それなのにあいつを見た瞬間に、あいつはチャイナ改め神楽っていう奴だと、俺の頭の中が勝手に理解した。


思わず窓際へ近づき窓を開けると、その音に弾かれたように神楽がこちらを向いた。
暫く目を合わせていたけれど、やがてチャイムの鳴る音に神楽は慌てたように校舎の中へと入っていった。


俺もひとまずは、自分の教室へと足を運んだ。
神楽はこの高校の制服を着ていたし、きっとすぐにまた会えるという確信が俺のなかにはあった。


でもさすがに、教室に神楽の姿があったときは目を丸くした。しかも席は神楽の真後ろ。
担任の坂田銀時は白髪で常にかったるそうで、ヤニ臭くて、でもその雰囲気は嫌いじゃなかった。


入学式を終え、再び教室に戻り短いHR。そこで恒例の自己紹介が行われる。
チャイナはやっぱり神楽と名乗った。
神楽が自己紹介をしているとき、俺は奴から目が離さなかったが、俺が自己紹介をしている最中、神楽はこちらを一度チラリと見ただけであとは興味もなさそうに窓の外を眺めていた。
・・・なんかむかつくんですけど。


冴えない眼鏡のなんら面白みもない自己紹介、明らかに高校1年には見えない猫耳ババァの変体紹介などの退屈な時間を乗り越えて、ようやくHRが終わる。
すぐさま俺は神楽に声をかける。


「おい。 お前・・・」


ここで気づいた。こいつは俺のことを、知っているのか。
いつどこで会ったのかも覚えてないのに、なんで俺はこいつのことを知っているんだ。


「なにアルか」


なにも言わない俺に、神楽はどこか不機嫌そうに見つめる。


「・・・お前、俺のこと、知ってるか?」


それだけが口から出てきた。


「・・・お前、さっき窓からあたしのこと見てた奴アルか?」
「え、あ、まぁ」


間違っちゃいないけれど、ズレた答えに詰まった返事を返すと、神楽の無愛想な顔が一変した。


「ナンパはお断りアル」


ヘラっと人を小馬鹿にした表情。ピキっと頬が引きつるのを感じた。


「なーに能天気な勘違いしてんだ。見た目小学生のくせした奴に一目惚れも何もあるわけねぇだろィ」
「んなっ・・・!」


バリバリ火花が飛び散る俺たちに、周りの生徒には入学式早々ドン引きされた。
・・・近藤さん、すいやせん。俺このクラスじゃ友達できそうにねぇや。


物騒なにらみ合いをしているのに気づいた先生は
「おーい、喧嘩なら学校の外でやれー。俺が面倒だから」
なんて一言言ってさっさと教室から出て行ってしまった。
うん、やっぱり嫌いじゃない。


結局神楽はそのまま俺を置いてさっさと教室を後にしてしまった。







「どうした、総悟。箸が止まってるぞ」


近藤さんの声に、俺はずっと頭から離れない神楽の顔を奥へと押しやった。


「なんだ、入学式早々悩み事か?」


心底心配したように俺の目を見つめる。


「なんでもないでさぁ。そういや、担任がなかなか面白そうな奴でしたねぇ」
「ああ、坂田銀時、だっけか。あいつ今年から新任で来た奴だから、俺達も詳しいことは知らねぇな」
「総悟もトシも、先生に向かってあいつなんて失礼だぞ」
「なぁんか気に食わねぇんだよなぁ・・・。始業式で見た時からこう、殴りたいというか捕まえたい衝動に駆られやがる・・・」
「ト、トシ・・・ひとまず落ち着け。てか捕まえるってなに、お前警察!? え、坂田先生なんか犯罪者!?」


勝手に盛り上がるふたりを尻目に、ラーメンをずるずる啜りながら、いつまでたっても消えない神楽を溜息混じりに思い浮かべる。
俺はこんなに見覚えがあるのに、あいつは俺のことをなんも知らないと思うと苛々した。


「はぁ」
「総悟どうした溜息なんかついて。やっぱりなんか・・・」




「違いますよ。――はやく、明日になって学校行きたいだけでさぁ」





近藤さんに土方さん、揃いも揃って目を丸くしてやがる。



まぁ確かに、こんなの、俺らしくねぇや。











高校生活・・・まさに青春の代名詞・・・!
enjoyしたまえ沖神^^←



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