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Short story
花々(斎千+オールキャラ/ほのぼの)



「千鶴」

「はい、なんですか?」

「塩が切れた」

「! はい、わかりました!!買ってきます!」













やけに目を輝かせ嬉しそうに勝手場を出て行った千鶴を、斎藤は少々不信に思いながら眺める。
しかし慌てて追いかける。


「待て千鶴。あんたを1人で行かせるわけにはいかない」


池田屋の時の功績を認められた千鶴は、見回りやお手伝いなどでの外出を以前より許されてきた。
しかしやはり、まだひとりで外出できるのは程遠い。


土方に一言断りをいれたふたりは玄関へと向かう途中、藤堂に会った。


「あれ、どっか出かけるのか?」
「ああ。塩が切れたのでな。ついでに夕餉の材料も買ってくるつもりだ」
「今日の当番一くんと千鶴かぁ〜!楽しみ楽しみ!」


新撰組の1日の献立を考えるのは、それぞれの当番である。
もちろん、料理が得意な人もなかにはいるが、幼き頃から剣術の練習ばかりに打ち込んでいた者が多いためか、苦手な人の方が圧倒的に多いのが現状だ。

そのため、ある程度開き直って食べることが暗黙の了解。
しかし沖田の時だけは、塩分が濃すぎるため遠慮もせず皆顔をしかめる。


「千鶴がいくなら、俺も行きてーなー!」
「何を言っている。平助はこれから見回りだろう」
「うう、そういや・・・。一くん、あんま千鶴いじめんなよっ!」
「なぜいじめる必要がある」


藤堂は切なげに千鶴を見つめ、次いで斎藤をギンとした目つきで見る。
彼はつり目だが、子どもっぽい言動や、背が小さいとかのおかげで、逆に愛らしく見えてしまう。
悔しそうに斎藤に精一杯の去勢をし、彼は去っていった。
千鶴といえば、どこかおろおろしたようにふたりを忙しく見ていた。




玄関を出て、門へ向かおうとすると、今度は沖田が子どもたちに囲まれ笑っていた。
斎藤と千鶴に気づくと軽く手を挙げる。


「もしかして、塩の買い出し?」
「そうだ」
「あはは、やっぱり」
「? なんでわかるんですか?」


沖田のそばにいた数人の子どもたちが「千鶴だー!」と駆け寄ってきた。
その子たちを受け止めながら聞いてみる。


「昨日、僕が夕餉の当番だったじゃない?
そのとき、かなりの量の塩使ったから、今日あたり無くなるんじゃないかなって思ってたんだ」


いつもの、意地悪そのものを代弁するかのような笑顔で彼は答えた。
千鶴は昨夜の夕餉を思い出して少し気持ち悪くなる。
鮎の塩焼きがでたが、これでもかというほど塩が降りかかっており、皆箸で削り落としながら食べていた。


「総司・・・、あれはいくらなんでもやりすぎだ。健康を損ねるぞ」


斎藤も昨夜の鮎の塩焼きを思い出していたためか、少々具合が悪そうに言う。


「一くんのは逆に味が薄すぎなんだよ。ねぇ千鶴ちゃん」
「いえ、わたしはちょうどいいと思いますけど・・・」
「へぇ・・・。じゃあ僕の味付けじゃ、君は納得いかないってことかな」


にっこりと沖田は笑いかける。
その笑顔が怖くて、千鶴の顔は真っ青になるのがその場にいた誰もにわかった。


「そ、そんなことありません!沖田さんの料理もとてもおいしいです!」
「そう? よかった」
「・・・総司、そういうのを強要と言うのだ」
「あはは。君って本当に扱いやすいね」


三人の立ち話にそろそろ痺れを切らした子どもたちが一斉に沖田に飛びかかる。


「そーじー!早く続き!つーづーきー!」
「はいはい。わかったよ。それじゃ、一くん、千鶴ちゃん、お使い宜しく」


片手をひらりと二人にあげ、沖田は背を向け子どもたちに引っ張られながら屋敷のほうへと消えた。
斎藤は子どもたちを屯所に入れるのが気にくわないらしく、はぁと溜め息をついたが、
今はお使いというやるべき責務があるため不満を飲み込んだ様子が、隣にいた千鶴にはよくわかった。


「・・・・行くぞ」
「はい!」






昼時とあり、町は活気づいていた。
あちらこちらで物売りが往来する人々に声をかける。
千鶴は人の波に呑まれないように、斎藤の背中を必死に追いかけた。
時折気にしたように振り向く斎藤に、千鶴も目で大丈夫ですと合図を送る。


歩いていると、突然斎藤が歩みを止めた。
どうしたのかと背中越しに前を覗き込むと、そこには巡察中の原田がいた。


原田は斎藤の後ろから顔を出した千鶴をみて、珍しそうに目を瞬かせた。


「なんだ、千鶴も一緒か?珍しい組み合わせじゃねぇか」
「塩が切れたのでな。千鶴と当番だっただけだ」
「ああ、昨日の夕餉のせいか・・・」


やはり原田も、どこか具合が悪そうに顔をしかめる。


「・・・にしちゃあ、千鶴は随分嬉しそうな顔してんな」
「えっ・・・、いえ、そんな」


慌てたように千鶴は両手を前に、思い切り振る。
しかし斎藤もどこか思い当たる節があるように、じっと千鶴を見つめる。


「いいじゃねぇか、言ってみろよ。町に、なんか楽しみでもあんのか?」


引いてくれなさそうな原田の雰囲気に、千鶴はどうしようもなく折れてしまった。


「・・・簪屋さんに、すごく綺麗な簪がありまして、それを見るのが好きなんです」
「ほう・・・。なら、今度俺が買ってやるよ」
「なっ!? そんな、いいです!」
「遠慮すんなって。今は巡察中だから見てやれないが、今度お前に似合うのを見繕ってやる」
「いいです、本当にみているだけで満足ですから・・・」
「・・・くだらん、行くぞ」


ふたりの間を割って入り、さっさと先に歩み始めてしまった斎藤を、千鶴も急いで追いかける。
「また後でな」と手を挙げる原田に、千鶴はぺこりとお辞儀で返した。





目的の塩を買い終え、食材もいくらか買い足し、真っ直ぐに屯所へと帰るはずだった。
相変わらず前を歩く斎藤を追いかけると、斎藤がちらりと振り返った。


「・・・あんたがさっき言っていた、簪屋はどこだ」
「えっ・・・。どうしてですか?」
「どこだと聞いている」
「えっと、すぐそこの、米屋のお隣です」


千鶴が指差したほうに米屋があり、そのとなりに、米俵に隠れるように小さな店があった。
品数は決して多くはないが、ひとつひとつに細かな装飾がされており、丁寧に作られていることがよくわかった。
簪をまじまじと見始めた斎藤に、千鶴は焦るばかりだった。


やがてひとつの簪を手に取り、一度千鶴の顔を見やり、そのまま店の者に包むように声をかける。
そうして包まれたそれを、相変わらずの無表情で千鶴に差し出した。


「・・・えっ、斎藤さん、これっ・・・」
「あんたにやる」
「そんなっ、こんな高価なもの頂けませんっ」
「俺はそれが気に入った。だからあんたにやる」


そうまで言われてしまえば、断ることのほうが失礼になってしまう。
千鶴はおずおずと斎藤の手からそれを受け取った。
すると斎藤は満足したようにまたさっさと歩き出す。千鶴は急いで追いかけた。


「斎藤さん!」
「なんだ。さっさと帰って夕餉の支度をするぞ」
「はい!でもまだお礼を言わせていただいてません。・・・ありがとうございます」
「さっきも言ったはずだ。俺もあの簪が気に入ったまでのことだ」
「でも嬉しいです。いつかこの簪を付けられる日がきたら、その、・・・斎藤さんに見ていただきたいです」


その言葉に、斎藤の瞳が柔らかく細まった。


「――ああ、期待している」


簪を大切に抱え込んだ手のひらが、どうしようもなく熱くなるのを、千鶴は感じた。


いつも、誰よりも冷静で、無頓着で、雪のように冷たいけれど。
雪だからこそ、ふわりとしたぬくもりを時々感じさせるのだ。この人は――。


歩みを緩め斉藤の後姿を見つめていると、気づいたのか、また少しだけ振り向いた。
彼が僅かに微笑んでいることに気がついて、千鶴は思わず駆け寄ったのだった。







その日の夕餉。


「・・・おい、千鶴」
「はい!」
「・・・やけに元気じゃねぇか。何かあったのか」
「へ・・・!?」
「なに今度は赤くなってんだ。熱でもあんのか?」
「いえ、そういうわけじゃ・・・」
「あーあ。土方さんがいじめるから」
「ああ? 何くだらねぇこと言ってんだ。そんなわけあるか」
「あっ、わたし、お吸い物とってきます!!」
「お、おい! 熱あんならさっさと寝ろ!」
「あらら、逃げちゃった。 ねぇ一くんはなんでだと思う?」
「わからんな。・・・一言言っておく、俺は断じて何もしていない。米をとってくる」
「・・・斉藤となんかあったのか」
「ほんと、あの二人ってわかりやすくて――からかいがいがあるよね」







土方さんが本編に出てこなかったのでおまけ^^
かなーり前に書いていて、途中で放置していたのを完成させました。
斎藤さんかわいくて好きです。あの猫みたいな瞳に癒されますww
随想録の斎藤さんのかわいさは神がかってますよね!ww



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あきゅろす。
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