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short story
似た者違い(政宗夢/ほのぼの/連載設定)




例えば、「たまたま」そこから離れなくなったとする。
そんな状況下で事が起きて、俺の頭の中では歯止めが利くとか利かないとか焦りとか緊張とか
さまざまな気持ちがない交ぜになって動けなくなったとする。


なんにしたって、俺にとってはBadな出来事この上ない。
そうだろう?







た者






「AH? 風呂を改造した?」


発端は成実の、素っ頓狂な報告からだった。


「そう! 慶次が今京で流行っている風呂式を教えてくれてさ。
なんだか良さそうだったからそっちに改造してみた」


しれっと報告するものだから、政宗もつい「Sure」なんて軽く相槌を打ちそうになった。
しかし頷く直前に、事は結構大事なことに気づく。


「Wait! ・・・改造『してみた』だと?」
「うん。丁度大工も帰ったし、梵も見に行こうよ」
「てめぇ・・・、誰の許可得てやってんだ」
「いやぁ、城の人たちに言ったらさ、それはいいって皆乗り気で。
皆がいいって言うなら別にいっかなーなんて」


大抵の人間は成実と接すると、人懐っこそうでいい人という印象を受けるだろう。
確かに成実は人当たりはいいし、それに器量もいい。そのため城の人間からの人望も厚い。


だが。


時々常識なるものなど忘れたかのように、突拍子もないことをすることがある。
故意でしているか天然なのか、そんな事は政宗にとってどうでもいいし今更知りたくもない。


「まぁとにかく梵も見に来てよ!」


そうしてさっさと部屋を出て行ってしまった成実を追いかけるため、政宗も腰を上げる。
しかし新しい物好きの政宗にとっては、楽しみであったのも確かだった。






それまで奥州関わらずに風呂とは、釜に湯を沸かし、その蒸気を浴槽内に送り込み、
熱い水蒸気により身体の垢を浮き上がらせて、適当な時間に室外に出て笹の葉などで身体の垢を落とし、
近くに用意したぬるま湯や冷水で身体を充分に洗う、というものだった。
しかし京で流行っている風呂というのは、据え風呂という体を直接湯に浸からせる、というものだった。


「洗い場に・・・、でけぇ桶がありやがる・・・・!?」
「すごくない!?」


風呂場は政宗の想像以上に大改造を遂げていた。
それまでは湯を沸かす釜と浴槽は別々なのが当然だったのに、
その据え風呂というのはそのふたつが見事に一室に収まっていた。


「おい、これでどうやって入るんだ」


すっかりその風呂に興味が沸いた政宗は成実に使い方を聞く。
どうやら桶の下には火を焚く薪があり、火を点けそれを外から調節する、というものだった。
早速火を外から点けてみる。


「これで湯が沸けば、いつでも入れるってわけか。
屋敷の中で温かい湯に浸かれるのはなかなかいいじゃねぇか」
「だろ? いやぁ、教えてくれた慶次に感謝だな!」




暫くして、湯が湯気を微かに漂わせてきた頃。
不意に、洗い場の扉が開く音がして思わず成実と共に目を丸くする。


「・・・わ。凄い、本当にお風呂変わってる・・・」


その聞き覚えのありすぎる声にさらにふたりは目を丸くして顔を合わせる。


((・・・柊(ちゃん)だ!!))


なんでこのTimingで柊が入ってくるんだと、恐らくその元凶である成実を睨む。


(いや、彼女今日非番でさ。
丁度このぐらいの時間にはにゅーお風呂出来上がってるから、
柊ちゃんに一番風呂の特権をぷれぜんとするから入るといいよって言ったんだ)
(そういう事は先に言いやがれ!)


男二人が屋敷の裏で肩を揃えてコソコソと喋っている姿は間違いなく怪しかっただろう。
しかもその二人というのが奥州筆頭と伊達随一の猛将では尚更だ。


(・・・とにかく俺は、女の湯浴みを覗く趣味なんてねぇ)


そう言って部屋に戻ろうとした政宗を、なぜか成実は引き止める。


(だめだよ梵。ちゃんと火焚かないとお湯温まらないよ。
生温いお湯に浸からせて、柊ちゃんが風邪引いたらどうするのさ)
(てめぇがしっかり沸かせばNo Problemだ)
(へぇ。じゃあうっかり俺が柊ちゃんの湯浴みを覗いちゃってもいいんだ?)
(・・・・・・・・・・・・・てんめぇぇ・・・・)


後で覚えてやがれと舌打ちをし、大人しく再び腰を下ろす政宗に成実は得たように笑顔だけを作った。
その笑顔がいやにムカついて殴りたくなった。


やがてぽちゃんと湯に浸かる音が聞こえた。


「ふう・・・。気持ちいい」


どうやら湯の温度は丁度良さそうだった。急いで沸かすために薪をありったけ突っ込んだかいがあった。
・ ・・・少々薪を入れすぎてしまったような気はしないでもないが。



それから暫くは、無音。
薪がパチパチとはねる音しかしなかった。

無音、無音。

そろそろおかしいな、というくらいには長すぎる無音が続いた。


(・・・おい、全くもって動く気配がねぇぞ?)
(・・・まさか柊ちゃん、お湯に浸かったまま寝ちゃったんじゃ・・・)
((・・・・・・・・))


――バシャン!


「ほぁ!・・・・あれ、あたし・・・・寝てた?」


((やっぱり・・・・))


案の定な展開に思わずふたりして頭を垂れる。


「熱い・・・。なんだかどんどんお湯が熱くなってるみたい・・?」


その独り言にふたりはハッとして薪に目をやる。
先ほど大量に薪を入れたため、火は今も勢いよく燃えている。
ともなれば、当然長い間火に当たられたお湯は熱くなる一方で・・・。


「やっぱり熱い・・・。出よう」


桶から足を下ろす音に、どこかほったしたように耳を澄ましていれば。


「・・・あ、れ」




バタン!





柊のかすかな声の音に、まるで倒れたような音がふたりの耳に響く。
ぎょっとなり思わず政宗は「柊!?」と声を上げ呼んだが返事は返ってこない。


「柊ちゃん!」


と成実も続けて呼んだが、やはり返事は返ってこなかった。
いよいよやばいと焦ったふたりはその場で周りを見渡す。
だが本来なら今は皆執務に当たっている時間。
湯場のある建物に用のある者など人っ子一人いなかった。


「梵! 俺ちょっと柊ちゃんの様子を――」
「Wait!!」


脱衣所へ向かおうとした成実の首根っこを思わず掴む。


「柊のとこへは俺が行くから、お前は・・・水! 水持って来い!」
「梵まさか無抵抗の彼女に・・・・」
「阿呆なことぬかしてねぇでさっさと行きやがれ!!」


ドカッと一発成実の頭にお見舞いしてやり、さっさと成実を離して脱衣所へ駆けていく。
成実も急いで井戸の方へと走っていった。


「おい、柊!」


脱衣所の前でもう一度呼んでみたが、やはり返事はない。
早くここを開けなければ――と思うものの、なかなか手が扉を開けようとしない。


「・・・・〜〜〜〜」






どれくらいその場に固まっていただろうか。
実際はほんの数分だっただろうが、決心するまでに果てしなく長く時間がかかったような気がした。


「おい、柊!! 開けるぞ!」


意を決して開けようとすると。


「はい、どうぞ?」


普通に返事が聞こえ、扉が自ら開いた。
呆気にとられ呆然としていると、髪を下ろし頬を真っ赤にした柊が顔を出した。

ちなみに着物は着ている。


「わっ、政宗さまでしたか! いかがされたのですか、このような場所に・・・」


政宗の姿を目に留めた柊は驚いたように身なりを正す。


「あ、柊ちゃん!! 大丈夫!?」


やがて水をあろう事か桶いっぱいに入れてボタボタ溢しながら成実が駆けてきた。
成実の声に驚いたように扉から外を覗き込もうと、髪を後ろへと払う柊の仕草に思わず顔に熱が灯るのを感じた。
つい明後日の方向へと顔を背ける。


「よかったぁ、無事梵に救出されたんだね。倒れたみたいだからどうしようかと・・・。
あ、鄭先生にもすぐ来るように伝えておいたからすぐ来るよ」
「・・・・・・、どうして私が倒れたことを知っているんですか?」
「あれ、梵から聞いてない?」
「いえ、丁度今政宗さまとお会いしたところで・・・」
「・・・・え、今?」


柊と成実の視線が政宗に刺さる。


「・・・え、梵、今会ったとこって、今まで何してたの」


痛かった。人の視線はこれほどまでに痛いものだったのかと政宗は思い知った。
ひとまず自分の心を落ち着けるために咳払いをする。
もちろん、これだけで状況が変わるわけないのは百も承知だ。


「そういえば、何度か政宗さまの声が聞こえたような気がします。それで私目を覚ましたんです」


柊が思い出したように言った言葉に、これ幸いと政宗は言葉を重ねる。


「Ha! さすがに問答無用で扉開けるのは悪いからな。
何度も声かけりゃ、柊も目を覚ますんじゃないかと様子を伺っていたところさ」
「・・・へぇ〜」


成実が全く持って信じていないかのように相槌を打つものだから、また殴りたくなった。


「それはお心遣いありがとうございます。ところでなぜ倒れていた事を・・・」
「おい、なんじゃ柊、元気そうじゃないか」


横から声が聞こえ振り向けば鄭がノコノコと歩いてくるところだった。


「おい、柊! 念のため鄭にみてもらえ。鄭、頼む」


そう言って戸惑う柊を鄭に押し付ける。


「ふむ、なんじゃ、例の新しい風呂でなんぞあったのか」
「あ、えっと・・・、ちょっと浸かりすぎたようで」
「なら、まだ頭が回っておるじゃろ。医務室で少し休むといい」
「は、はい・・・」


成実からたっぷり水の入った桶を受け取り、柊も先ほどの答えが気になりながらも鄭の後について行った。
やはりまだ少々具合が悪いのだろう。


「よかった。柊ちゃん大事には至らなそうで」
「あ、ああ」


一息つく成実の横で、政宗は歯切れ悪く返事を返す。
そんな政宗の様子を見て、成実は溜息をつく。


「ったく、だから俺が柊ちゃんのとこに行くって言ったのに。
梵じゃ無理だってわかってたからね」
「A”a・・・?てめぇそりゃ一体どうゆう――」


不意に人差し指を口に当てられ、言葉を遮られた。


「梵じゃ彼女を意識しまくって、あの扉を開けられないってね。ま、間違ってなかったようだけど?
確かに気になってる子の裸を他の輩に見られたくないって気持ちは分かるけどさぁー?」


へへっとやけに楽しそうに笑う成実を見て、やっぱり政宗は成実の頭を殴りたくなって、けれどもそれはやめておいた。
ここで殴れば、成実の言葉を素直に認めることになるとわかっていた。
だからもう無駄だとわかっていても、
「――くだらねぇ」と捨て台詞を吐いて部屋へ戻るのが、精一杯の意地だった。


政宗の後姿を見送り、成実は脱衣所に貼り付けていた『お風呂指南』なるものを剥がし、持ち帰る。


「注意事項に、『長風呂禁物!』って足しておかなきゃな」


さきほどの政宗の赤面顔を思い出し、してやったり顔で気分良く部屋へと戻っていくのであった。









End.









キリ番自分で踏んでしまったので・・・短編でも、と。
今回の政宗さんは、いつもかっこつけてるし、たまにはかっこ悪い姿も晒しやがれ!というSさんのご意見でこうなりましたw
それに加えて、こういうとこ初心だといいなという管理人の妄想を練りこみ混ぜ混ぜ(爆発
タイトルの似た者違いは成実さんのことです。政宗と顔は似てるけど、中身は違うよねぇって事で。
お風呂の様式についてですが、実際据え風呂使われるようになったのは江戸時代に入ってからで、
それまでは作中に出した蒸気浴が一般的だったようです。相変わらず時代背景空気ですorz
あと、今まで勘違いしてたのですが、成実って政宗の異母兄弟じゃなくて従兄弟だったんですね・・・!!
どこでそんな素っ頓狂な勘違いしてたんだ自分!!ごめん成実!

なにはともあれ、読んでいただきありがとうございました^^




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