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short story
茜に映る(小十郎夢/ほのぼの/連載設定)



茜色の空のした
すぐ傍に感じた温もりは

優しさに溢れていました



―茜に映る―



「ふぁ・・・」

柊が城にきて、いつの間にか一月経つか経たないか、随分城の雰囲気にも馴染めてきた。
春になって奥州も暖かくなり、晴れた日は絶好の昼寝日和な日が続いていたある日。
柊はその気候のせいか、はたまた別の理由でもあるのか、やけに眠たげな毎日を送っていた。
昼時に外に出ようものなら、生ぬるい風と一緒に意識まで持っていかれそうなほどだった。


「あわわ、柊ちゃんっ!!」


どこぞから成実の声が聞こえたかと思ったら、急に頭上から大量の巻物やら紙が降ってきた。


「へぇっ!?」


柊には避ける術もなく、情けない声で、それらを頭で受け取るはめになってしまった。
驚いて体制をくずしてしまった柊に、成実が慌てて声をかける。


「大丈夫!? ごめんね・・・、どこか怪我ない?」
「ああ、いえ大丈夫です。 私こそ、前をよく見てなくて・・・ごめんなさい」


言いながら、散らばったそれらを一緒に拾い集める。
相変わらず、成実たち幹部は忙しそうだ。


「柊ちゃん、最近やけに眠たそうだね」


突然成実にそう言われた柊は、慌てて自分の目が閉じていないか確認したくなった。
・・・確かに最近は、寝ていないから。


「ちょっと・・・、書類整理などに、手間取っていまして」


無難な理由を口にする。
それを聞いた成実が納得したかしていないかは図れなかったが、とりあえずは深く追求されずに終わった。
書簡を全て拾い集め、成実の手に積んでいく。


「ありがとう。ところで今日は公休日じゃなかった?」
「はい、そうです。今から小十郎さんの畑に行くところです」


ぱぁっと柊の表情が明るくなる。
そういえば以前、小十郎の畑を見たいと言っていたっけ、と成実が思い出す。


「そっか。丁度今梵も鍛錬中だし、小十郎は畑にいると思うよ。
そう言えば、多分もう苺が食べごろだと思うから、もらうといいよ」
「苺・・・ですか? ありがとうございます! それでは」


軽やかな足取りで畑に向かった柊を見送り、成実は自分の手のひらに積まれた大量の書簡に目を移し、盛大な溜息をついて執務室へと向かった。





小十郎の畑は、城内を出て少し歩いたところにある。少し歩くと、木々を抜けた先に広く開いた土地があった。
そこは、まさに野菜畑と呼ぶに相応しく、色とりどりの野菜が土の中や、蔓の伸びた先で日の光を浴びて育っていた。


土を耕していた小十郎が柊の姿に気づき、手を挙げる。
柊もそれに気づき、小十郎のもとへ駆け寄った。


「こんにちは、小十郎さん。 随分広い畑なのですね」
「ああ、そうだな。最初は随分小さかったんだが、ここの近隣の村の者たちが、たまに手伝ってくれてな。
気づいたら、こんなに広くなっていた」


畑を見渡せば、所々で村人が畑をいじっていた。
そんな彼らを眺めながら、小十郎は頭に巻いていた布を広げ、首筋の汗を拭った。


「小十郎さん、是非野菜を拝見させていただけませんか?」
「ああ、もちろんだ」





「これは春菊だ。冬の終わりから、丁度今頃までが食べごろだな」
「あ、これ時々お薬として使います。胃を整える効果があって」
「ほう。そんな効果があるとは知らなかった」
「・・・あれ、小十郎さん、これって」
「ああ、布々岐だ。雪解けと共にひょっこり頭を出す」
「葉が随分大きいですね」
「雨宿りによく使われている、なんて話があるほどだ。それに、冬に黄色の花を咲かせる」
「冬に、ですか。 強い野菜なのですね」


野菜と医学の話が混ざり合いながら畑を歩いていると、赤い実を見つけた。


「あの赤い実は・・・?」
「ああ、あれは苺だ」
「苺? あ、さっき成実さんが言っていた・・・」
「成実? あいつは苺が好物だからな。そろそろ食べごろだし、持って行ってやるか」


そう言って小十郎は近くにあった籠に、苺を摘んで入れ始めた。
柊はその姿を見ながら、少々歩きつかれたのか、一度去った眠気の波がまた流れてくるのを感じた。
それに気づいたのか、小十郎は少し目を緩ませた。


「柊殿も食べるか?甘くて美味しい。 食いながら、少し休憩しよう」
「は、はい・・」




畑の端には、小さな小屋があった。物置小屋兼村人と小十郎の憩いの場になっているようだった。
縁側に腰掛けると、たまたま小屋に道具を置きに来た村人がお茶を入れてくれた。
お茶をありがたく頂き、小十郎が水で洗ってくれた苺を口にすると、酸味とほんのりとした甘みが口に広がる。


「おいしいです!初めて食べました」
「そうか、それはよかった。まだまだ畑にたくさん生っているから、また今度届けてやるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます」


ぱくぱくと苺を食べる柊の姿を、嬉しそうに小十郎も眺める。
しかしどうにも、小十郎には気になって仕方のないことがあった。


「柊殿・・。最近あまり寝ていないだろう?」


うっ・・・と柊は詰まってしまった。
確かに最近、眠気のせいでぼーっとすることはあったが、それでも執務はもちろんしっかりこなしていた。
成実も小十郎も、一体どうして気づいたのだろうか。
柊の疑問を読み取ったように、小十郎は続ける。


「目の下に、そんな黒い隈をくっつけて、気にするなと言われても納得できるわけがない」
「あ・・・、なるほど」
「もし今の状況で辛いということなら、医務室の勤務体制を見直すが・・」
「ち、違います!今の状況が辛いというわけではないです」
「では、一体夜な夜な何をしているのだ?」


夜な夜な・・・、柊の寝室に明かりが灯っていたことを、小十郎は知っていたようだった。
彼にここまで追求されるとは微塵にも思っていなかった柊は、ついたじろいでしまう。
小十郎は他人との距離感をしっかりとわきまえている人だと思っていたから、私情に首を突っ込まれることはないだろうと安心していたが、どうやら少々違ったらしい。


「ええっと・・・、実は、城に勤めている方の、今まで受けた治療や持病など、書簡を見てまとめていまして」


小十郎は口を開かず、先を促した。


「もし、いざってとき、患者さんが口を聞ける状態かなんてわかりませんし。治療方法によっては、そういう事情がとても重要になってくるのです。
だからできる限り、ひとりひとりの体の事情を知っておこうと思いまして。
それに、今までは村人の治療が主だったので、体の内に関しての知識ならある程度はあるのですが、ここ伊達軍では、体の外の傷の方が多いので。
その勉強もしっかりしなければと思いまして」


城に勤めている者は、ざっと100人はいる。
それに主要兵から本当に下っ端までを合わせると、一体何人ほどになるか、小十郎にも正確な数はわからない。
それだけの膨大な情報量をまとめていたと言うのだから、驚きだった。

―――目の下に濃い隈が出来るのも道理なわけだ。


「あまり、急な無茶をするもんじゃない。
確かに柊殿のやっている事は、必要なことかも知れないが。

―――柊殿に倒れられては困る。
柊殿は、伊達軍にとって、必要不可欠な仲間のひとりなのだからな」


小十郎にそう言ってもらえたのが嬉しくて、赤くなった顔を隠すように小十郎から目を背けた。


「・・・ありがとうございます」
「さて、苺も食ったところだし、柊殿は少し休むといい」
「は、はい・・。お気遣いありがとうございます」
「なに、ここは城よりは静かで、きっと昼ねもしやすいだろうよ」
「確かに、そうですね」


柊はそっと、畑に目をむけ、木々から聴こえる風の音や鳥の鳴き声に耳を澄ました。


「なんなら、膝を貸してやってもいい」
「・・・膝?どこのですか」


柊は一瞬意味がよくわからなくて聞き返した。


すると小十郎は、何を思ったか隣に座る柊の腕をぐいっと自分の方に引き寄せ、柊は引力に任せるまま小十郎の膝へと頭を乗せた。


「―――つ、小十郎さんっ!?」
「つまり、こういうことだ」
「ああ、なるほど。―――って、大丈夫です!悪いですこんな・・」
「気にするな」
「いや、気にしま―――」
「いいから、しばらく寝るといい。夕方になったら起こしてやるよ」


すっと、目の上に小十郎の手が当てられ、柊の視界は薄暗くなった。
途端に、春の陽気、小十郎の生ぬるい膝の体温、薄暗さが重なって、柊は自分でも驚くほど、あっという間に眠ってしまった。








空が茜色に染まってきた頃、ふと小十郎は小屋に近づいてくるひとりの男に目を向けた。


「政宗さま、鍛錬はもうよろしいので?」
「ああ。さすがに竹刀を50本ほど折っちまって、気が萎えてやめた」
「・・・少しは手加減して扱って頂きたいものですね。
竹刀がいくら竹だからって、簡単に土からにょきにょき生えてくるわけではないのですぞ」
「I know it! ・・・ところでおめぇ、何やってんだ」


小十郎の膝で爆睡している柊を見ながら、政宗がどこか面白くないように訪ねる。


「最近、柊殿は無茶をしすぎていたようだったので」
「まぁ、確かにな。いつどこで倒れて寝だすかわからないくらいにな」


だからって、なんでその場所が小十郎なんだ、Sit!
なんて、coolじゃないから口には出さないけれどそんな気分な政宗を、小十郎はお見通しだったようだ。


「そろそろ戻るぞ。柊、起こせ」
「・・・・もう少々お待ちを」
「ああ? What do you mean?」


そう聞かれた小十郎は、優しい眼差しで柊を見つめた。




「これはこれで、居心地がいいものだ」




小十郎がそういって、今まで拝んだことのないような微笑を浮かべたものだがら、政宗は色々な意味で暫く落ち込む羽目になったそうな。
そんな政宗を尻目に、柊はすっかり回復し、以後は睡眠不足にならないよう自分なりに配慮して仕事を進めるようになっていた。







「小十郎、最近柊ちゃんとやけに仲いいね?」


成実が例の如く大量の書簡を持ちながら小十郎に尋ねる。
あの畑に柊が遊びに行ってからというものの、柊もよく小十郎を訪ねてくる。
小十郎もそれをどこか嬉しそうに待っているように見える。



「ああ、そうだな。・・・政宗さまが柊殿を何気なく気にかけている理由に、最近気づいてな。

柊殿はいつも真っ直ぐで、自分を顧みないから、どうもつい、気になる。
もっと自分自身にも気を使うべきだ」


「・・・・へっ、へ〜〜・・・・」









小十郎って、あまり他人に対して下手に足を突っ込むようなこと、しない人だけど。
それはどうやら間違いだったらしい。

その人のことが気になりだしたら、きっと気になって気になって、仕方がなくなるんだろう。
あんなふうに、優しい顔で、話してしまうほどに―――。


成実はつい、あっけらかんに笑ってしまった。





Fin.







志さまとの相互リンク記念!ということで書かせて頂きました。
小十郎さん相手で書くの初めてで、というか政宗さん以外で書いたことがなかったので
何やら半端な感じになってしまって、申し訳ないです(涙
甘くなくてごめんなさい、小十郎の甘いのって、これで精一杯ですorz
修行して出直してきます!!
ということで、志さま、これからも是非宜しくお願いいたします!
管理人 あひる




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