第一章 22「It is the news that is not good.」 「慶次、柊に何か変わったことはあったか?」 「いんや、“相変わらず”だよ」 「――Ha, It is the news that is not good.」(それは良くない知らせだな) 奇襲から数日立ったある日。 何かしらの手がかりを得られると思っていた奇襲は、結局政宗と慶次が直接対面した忍、風魔小太郎が関わっていたこということしか分からなかった。 風魔小太郎に関しては、伝説の忍としてその名を知る者も少なくないが、特定の勢力に属しているわけではなく、 さまざまな場所で暗躍しているため、その大元を探るのは至難の技だった。 捕らえた忍はすぐに自害をし、忍装束を調べてみたものの、軍の印も見当たらなかったため 事実上どこの軍にも属していない集団として処理せざるを得なかった。 しかし奇妙なことに、城下を騒がしていた女攫い事件は、奇襲の起こる数日前からぴたりと止まっており、 さらに調べると、柊と慶次が出くわした時以来一件も起きていないことが判明した。 そのため今回の奇襲騒ぎの犯人を徳川軍と断定する証拠もなく、伊達軍は喧嘩を吹っ掛けられたものの、相手をすっかり見失ってしまっていた。 「――完全に詰まっちまった」 「やっぱり、風魔小太郎の親元を地道に探るしかないんじゃないかい?」 「Are you stupid?(お前は馬鹿か) そんなの、探れるもんならとっくに探ってるさ」 資料の紙に埋もれ、もうため息をつくことすら疲れてしまうのか言葉少なげに政宗は慶次から目を逸らす。 慶次と言えば、政宗の執務室で夢吉を手でからかいながら寝転がっている。 紙や巻物でごった返した部屋というのは、動物からすれば遊び場と等しいものらしく、ここ暫くは執務室がすっかり夢吉のお気に入りの遊び場だった。 奇襲発生時に、きっちりと奥州のお手伝いを果たした慶次は、その後もなんだかんだで米沢城に居座っていた。 小十郎は慶次が政宗の執務の妨害をするときだけ叱りつけ、あとは特に気にしなくなった。 何よりも政宗が、慶次に対し気を許しているのを感じたからだろう。 奇襲以来、ふたりは仲がいいとまではいかなくても、すっかり世間話をするくらいには馴染んでいた。 夢吉が慶次の指に絡みつき、格闘をし始めたときだった。 襖が開き、成実が巻物を持って入ってきた。 「梵、ちょっといい? 実は奇襲前にさ、気になる資料見つけて」 「気になる資料?」 行き詰ってしまった政宗は、どこか萎れた草のように表情に陰りを落としながら顔を上げる。 「ひっどい顔だなぁ」 「うるせぇ。早くその気になる資料とやらを見せやがれ」 はいはい、と言いながら持っていた巻物を畳に置き、勢いよく転がす。 開かれた巻物を政宗は目で追い、慶次も興味ありげにその中身を覗いた。 やがてそこに綴られたある言葉で、ふたりとも目を留めた。 「―――子攫い事件?」 「そういやぁ・・・、―――確か10年前くらいに、そんな事件あったな」 「梵の言う通り。丁度10年前、この事件が起きていた。 奥州の城下から次々に子どもが行方不明になったんだ。年齢は0歳の子から最長で7歳までの子どもたち。人数は20人」 「犯人は捕まったのかい?」 「いや。この時も、犯人の手がかりは一切掴めなかったんだ。 唯一の目撃者の証言じゃ、忍装束の奴らが攫っていったってことだけでね。目的も、何処の誰の仕業かも全然わからなかったんだ」 「――似てるな」 少し考え込んだ政宗がぼそりと言う。 「まだ、関連性としては低いし、確証がない。 だが、何者かが長い時間をかけて何かをしようとしているようにも思える」 「確かに。子どもから今度は女になったその変化も気になる。――調べてみて損はなさそうだね」 「よし、これもお前に任せる」 「・・・・え、ちょっと梵。俺女攫い事件で手一杯なんだけど・・・」 「手伝ってもらえばいいだろうが。おい、慶次。オメー暇なら働け」 「ええっ、いや俺これから柊ちゃんの様子見に行くんだけど」 「いい。柊のところへは俺が行ってやる」 「俺に柊ちゃんの様子見るように頼んだのは何処の誰だったかなー」 「丁度手が空いたから、今回は俺が行ってやるっつってんだよ」 「はぁ、素直に行きたいって言えばいいのに」 「なんか言ったか、成実」 「・・・・・・・・・・・いえ、何もイッテマセン」 渋々資料と慶次と夢吉を連れ、成実は執務室を後にした。 段々慶次さんが伊達軍化しておるww しかし彼は忘れてはいけません、風来坊だということを!ww 次回は政宗さんとヒロインそれぞれの視点でお話書いていきたいと思います 読んでいただきありがとうございました! [*前へ][次へ#] [戻る] |