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第一章
17「約束しろ」



執務室の近くまで来て、柊は自分の足取りがどんどん重たくなり、やがて止まってしまった。


昨日、あの会話のあとまだ政宗と話してはいない。
夕餉の時、朝餉の時、話すこともできたが柊自身がそれを拒み、避けていた。
政宗が僅かに柊へと視線を向けることにも気づいていたが、目を合わす勇気がなかった。


「・・・あ〜、もう!」


いつまでもここでうだうだしているわけにはいかない。
そう自分に言い聞かせ、政宗の部屋の前で見張りをしている兵に声をかけようと歩き出した矢先。


「Hey. 柊」


突然後ろから声をかけられ、柊は思わずその場に固まる。
どう考えてもこの喋り方、声はあの人しかいない。


予期せぬ事態に柊の胸は最高潮に高鳴る。


「・・・おい、どうした。固まって」


気づけば政宗が隣に立ち、顔を覗き込もうとしていた。
柊は慌てて政宗へと顔を向ける。


「ま、政宗さま! 丁度よかったです!
いま、政宗さまの所へ向かおうとしていたところでして」
「俺に用か? どうした?」
「奇襲に備えていくつか薬の手配を、お願いしたくてその書類をお持ちしました」
「なるほど、鄭のおやじが以前言っていたやつか」


どうやら大方の概要はすでに政宗に承諾済みだったらしい。
柊から書類を受け取り、政宗は執務室へと向かう。
まさかここで、では失礼しますなどと帰るわけにもいかないので戸惑いながらも後をついて行く。


部屋に入り腰を下ろした政宗にならい、柊も向かいに腰を下ろす。
しばらく書類を眺める政宗に柊は心もとなく視線を落す。
やがて目を通しおえた政宗が顔を上げる。


「I see. すぐにでも手配して、あんたらのところに届ける。
なにか他に入用なものがあったらまた言ってくれ。
取り寄せられる範囲でなら、すぐに用意する」
「ありがとうございます」
「まだ奇襲が来るかどうかはわからねぇが、備えることにこしたことはねぇからな」


僅かに微笑む政宗に、どこか柊はほっとした。
しかしそれはつかの間だった。


「で、柊。本題はここからだ。
――なんでお前はこの俺を避けてやがる」


急に確信をついた話をふられ、柊はしどろもどろになってしまった。
もう政宗の目は見れない。


「そ、そんなことは・・・・ありま、せん」
「柊、嘘は自分の身のためにも言わないほうがいいぜ。突き通すってんなら、こっちにも考えがあるんだぜ?」


なにを考えているかは分からない(分かりたくない)が、八重歯を不気味に出して笑う政宗には
絶対逆らわないほうがいいと、柊の本能が警告を発した。(政宗何者)


しかし、伝えるにも戸惑う。
政宗の言葉を借りれば、これは柊のただの我侭でしかないのだ。
政宗が素直になれ、頼れと以前言ってくれたのに、
いざとなると自分の不安を相手に伝えるというのは思ったよりも難しかった。
なによりも、右腕にある刺青を政宗に知られたくなかったし、見られたくもなかった。



―――怖い。どうしようもなく、怖かった。
政宗に軽蔑されることが、どうしようもなく恐ろしかった。


自身でさえおかしく感じるほど、政宗には嫌われたくないという感情が強かったのだ。



やがて固まってしまった柊に、政宗が仕方ないなとため息をつく。


「――ゆっくりでいい。言葉にしたくないなら、無理に言わなくてもいい。
ただし、無理はしても絶対に無茶はするな。ひとりで突っ走るな」


思いもがけないその言葉に柊は顔を上げる。
そしてそれを待っていたかのように、政宗が言葉を続ける。



「約束しろ。――ここから、俺たちから離れるな」


「――えっ・・・」


驚いた。
不思議と政宗の言葉が、柊の中に何かを満たしていく感覚に、ようやく自分は、

――どうしようもなく、嬉しいのだと気づいた。


「わかったら返事しろ」
「は、はい!」
「よし、下がっていいぞ。書類Tanks」


執務に戻るのか、書類を手に机へと背を向けた政宗に、柊は堪らなくなって呼び止めた。


「政宗さま!」
「An?」
「―――ありがとうございます!」


満面の笑みを政宗に向け、柊自身も医務室に戻るため失礼しますと部屋をあとにした。
しかし政宗はそれどころではなく、口元に手をあて、もごもごと独りごちる。




「・・・no way・・・」









長かったので二部構成・・・

ぬわぁ、この回はなんだか書いてて楽しかったです。
政宗がどんどん丸くなっていってるww
しかしいろいろな情報が入ってくると、整理するのが難しいですねorz



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あきゅろす。
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