第一章 13[奥州も何やら物騒だねぇ!」 「おい、柊」 薬草をすり潰していると、不意に鄭に声を掛けられた。 「はい、なんですか?」 「ちと、お使いを頼まれてはくれんか? 城下町にわしの知り合いの薬屋があってな。 そこの主人に頼んでおいた薬が今日届くはずでな。取りに行ってきてほしいんじゃが」 こうしてひょんなことから、城下へお使いにいくことになった柊だった。 馬小屋へ行く途中成実にあい、今から城下へ行くと伝えると、人攫いが出るようだから気をつけてねと忠告された。 慣れない馬に跨り、なんとか城下へついた柊は馬を預け、いざ薬屋へと足を運んだ。 鄭の知り合いがやっているという薬屋は、城下の中ではなかなかに大きな薬屋で、異国の薬や、珍しい薬、さまざまな薬を取り扱っている。 そこの手代に、鄭の使いの者だと伝えると、手代はすぐに薬を持ってきてくれた。 「はい、これが頼まれていた薬だよ。代金は先に貰ってるからね、そのまま持っていって構わない」 「ありがとうございます」 鄭に、たまにはゆっくり茶でも飲みにきてくれ、と伝えておくれな、そう言って手代は忙しそうに店の奥へと消えていった。 早くに用事が片付いた柊は、丁度お昼時でお腹が空いていたため、軽く城下で何か食べていくことにした。 (おだんご、食べたいなぁ・・・) 近くに甘味処はないかと、辺りを見回していると、目の端になにやら奇抜な格好をした人が映った。 長い髪を一本に結び、そこに色鮮やかな鳥の羽を刺し、そこかしこに派手な色を使い、よく見ると肩には猿まで乗せていた。 おかげで周りの目を引きまくりであったが、当の本人は全く気にしていないようだった。 あっけにとられ、暫く柊が見つめていると、その人は「甘味」と書かれた暖簾をくぐり、一軒の店の中へと消えた。 まさに柊が探していた場所に、彼も入っていった。 一瞬どうしようか迷ったが、そろそろ空腹も限界に近かったため、柊もその店に入ることにした。 お店に入り、おだんごを食べている最中、どうにも目立つ彼が気になったが、とりあえずは平和に甘味を堪能した。 鄭と、成実に小十郎、一応政宗にも土産に買っていく。 政宗は忙しそうだから、食べる暇がありそうなら渡そう。 最近は奇襲騒ぎの対応に覆われているのか、あまり城内で政宗の姿を見る機会も少なく、執務室に篭りっきりらしいのだ。 ふと、ちらちら気になる彼に目を向けると、まだ美味しそうに小猿と一緒にお団子を堪能していた。 柊はなんとなく、足早に店を出て行った。 関わらないにこしたことはない、と相変わらず何気にひどいことを考える柊だった。 しかし、店を出た柊は一瞬足を止める。 ・ ・・今、屋根の上を忍らしきものが走り去っていったような・・・? 伊達軍の忍だろうかとも思ったが、どうにも気になった柊は忍の消えたほうへと足を向けたのだった。 路地裏に入りあたりを見回していると、前方の建物の影から小さな悲鳴が聞こえた。 猫の鳴き声かとも思ったが、胸騒ぎがして急いで駆けつけた・・・が。 背後に一瞬気配を感じ、素早く振り向く。 「―――チッ!」 見れば黒装束の忍が柊目掛けてクナイを振りかざしたところだった。すれすれのところで避ける。 咄嗟に近くに立てかけてあった竹箒を握り、相手の腹を一突きした。 当たり所が悪かったのか、それっきりうずくまり倒れこんでしまった。 すると、悲鳴の聞こえたほうから忍がふたりと、そのふたりに挟まれて柊と同い年くらいの女の子が出てきた。 女の子は気を失っているのか、目を閉じぐったりとしていた。 忍のひとりは柊を見ると、一瞬眼を見開き、即座にクナイを構え投げてきた。 柊は構えの体制はとったものの、連続的に投げられたせいで、ほとんどのクナイが体を掠める。 幸い深く突き刺さることはなく、致命傷は与えられなかった。 忍に一瞬できた隙を見逃さず、相手の懐に飛び込んだ――が、間一髪で避けられてしまう。 しかも、もうひとりの忍が、今度は柊にできた隙に、持っていた竹箒を蹴り飛ばした。 「――っ、やばっ・・・・!」 続けてクナイを柊に付き立てようとした時、キーッ、という、今度こそ動物の鳴き声が聴こえた。 小さな小猿が、忍の顔に張り付き引っ掻き回していた。 「・・・猿っ!? あれ、きみさっき・・・・・」 あの奇抜な人と一緒にいた子―――? 「――全く、奥州も何やら物騒だねぇ!」 「・・・!?」 振り向くと、先ほど柊が内心あまり関わりたくないと思っていたその人が立っていた。 彼は柊と、気を失っている女の子に目を向け、刀に手をかける。 「・・・・でも、女の子は色白に綺麗な目してて、美人さんだ!」 ぶんっと、大きな刀身を振り上げる。 それだけで忍は、怖気ついたのか、それとも面倒事を避けたかったのか、女の子を置いて足早に姿を消してしまった。 しかし去り際、ひとりの忍が柊と、右腕を一瞥していった。 柊は不審に思い右腕に目を向けると、 「―――っ!!」 先ほどのクナイで、着物が切れ、少しではあるが右腕の刺青を露にしてしまっていたのだ。 (見られた・・・!? なにか、知っているの・・・?) 柊が考え込んでいると、彼に急に顔を覗き込まれる。 「・・・ありゃあ、徳川の忍じゃねぇか・・・。―――おい、大丈夫か譲ちゃん? 随分体中切っているみたいだけど・・・」 「あっ・・・、私は大丈夫です! ほぼかすり傷ですから。それよりそっちの女の子は・・?」 「恐らくただ気を失わされているだけだ。心配ねぇ」 ひとまずは、暫く目を覚ましそうにない彼女を、近くの町医のところへ連れていくことになった。 幸いすぐ近くにあり、町医は事情を話すと驚きながらも快く引き取ってくれた。 手持ちでいくばかりかの金子を渡し、柊は帰ろうとしたが、町医に止められた。 「待たれよ。そなたも随分傷を覆っているではないか。ここで手当てしていきなされ」 「私は大丈夫です。こう見えて、実は私も医術を心得ていますので、自分の手当ては自分でできます」 「そうなのか?どこぞで診療所でも開いておるのか?」 「ええっと・・前はそうだったのですが、今は城勤めをしています」 「ほう、そうかい。そりゃ立派なことだのう」 ホッホッホと優しい笑顔に見送られ、柊たちは診療所を後にした。 お礼を述べようとした柊を遮り、彼が先に話しかける。 「おおっと、紹介が遅れたな。俺は前田慶次!こいつは夢吉! ここで会ったのも何かの縁、よろしくな!」 「私は柊と申します。さっきは、助けていただいてありがとうございました」 「ああ、いいっていいって。女の子が困ってる時こそ俺の出番よ。 でも、あんたもなかなかの腕前みたいじゃないか」 「幼い頃から、護身術にと、習わされていたので・・・」 「へぇ、そうかい。ところであんた、城勤めしてるんだよな?」 「ええ、少し前から。――何か御用でも?」 「んん〜・・・。つっても、あちらさんもどうせ気づいているだろうしなぁ。挨拶くらいしとくか。 ―――柊ちゃん、俺を城に連れてってくれやしないかい?」 ぶつぶつと呟いていた慶次だったが、突然突拍子もないことを言われ、柊も少し固まってしまうが、今回は慶次に助けられた身である。 それに話す限り、見た目よりはまともな人だと分かったから、無碍に断ることもできず、柊は戸惑いながらも慶次を城へ連れ帰ることにしたのだった。 よく思うのですが、この話、政宗お相手って言っておきながらあんま殿の出番ないですよね(自分で言うな いや、もう少し、色々と話が進めば、殿の出番もばっちり増えると思うので・・・ すいません、もう少しお待ちをorz [*前へ][次へ#] [戻る] |