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第一章
12「城下にて、ladyが何人も行方知らずだと?」



雨が激しく屋根を叩き、屋根を唸らせる夜。
いつもはきっかり定時に寝るはずである部屋の主が、今宵は珍しく未だに明かりを灯していた。
左頬に傷のあるその男、小十郎は、今日の夕刻、部屋を訪れてきた彼のことを思い出していた。
鄭とは時々茶を飲み、世間話をしたりするが、その時の彼は少しばかり雰囲気が違った。


そうして渡されたこの文を、小十郎は中身を読むこともせず、ただぼんやりと眺めていた。











次の日の朝。
昨日まで散々降っていた雨はすっかり止み、太陽が惜しげもなく光を降り注いでいた。


しかし、城内はそんな太陽と戯れるような雰囲気ではなかった。
昨日行われた話し合いにて決まった、いくつかの事項が城内に張り出され、朝から皆その張り紙にわらわらと集まっている。


柊も話を聞きつけ、その張り紙を一読しに行った。しかし、結構な人がそこにはおり、なかなか見える位置までいくのは難しかった。


「・・奇襲?」


まず目についたのは、でかでかと書かれたその文字だった。
すると、丁度隣にいた女中が、よく見えていないであろう柊に説明をしてくれた。


「どうやら、近々この城で何か起こるかもしれないらしいわ。一体どこの軍か、そこはまだ公表されてはいないけど。
だからその対策として、細かくは女中の身である私は知らないけれど、城の警護を今以上に厳重にして、
あとはもしもの時、被害を最小に押さえるために暫くは城で働く人数を減らすみたいよ」


物騒ねぇ、柊さんも気をつけるのよ?
そう言ってその女中は、持ち場へ戻っていった。
周囲を見渡せば、皆一様に不安な表情を浮かべていたが、決して怯えているような雰囲気は感じられなかった。
近くで聞こえた「政宗さまならなんとかしてくれる」という言葉が、城の皆の言葉を代弁しているように聞こえた。

柊も医務室へ行くべく足を向けた。


医務室に向かう前に、紙の備えがもう少なかったことを思い出した柊は、貰いに行こうとぐるっと方向転換をした
・・・と思ったら、丁度角を曲がって来た誰かと正面衝突した。
軽く鼻を打ち、鼻を押さえ上を見上げた。


「いたた・・小十郎さん!」
「これはすまない、柊殿! 鼻は大丈夫か?」
「あ、大丈夫です。 軽く打っただけですので」
「しかし丁度よかった。 今医務室へ行こうとしていたところだ」
「どこか怪我でも?」
「いや、張り紙は見ただろう? そのことで鄭殿と柊殿に話があってな」


柊は張り紙に書かれていた、城で働く人数を減らす、という話を思い出した。恐らくそのことだろう。
ひとまず柊は道を引き返し、小十郎と共に医務室へと入っていった。
部屋に入るとまだ鄭は来ていなかった。


柊は小十郎に座布団を差し出し、ともに向かい合い腰を下ろした。


「すでに柊殿も知っていることかと思うが、とりあえず一月の間は奇襲に備え城の人員を削ることとなった。
とは言っても、政(まつりごと)に支障が出ない程度にだがな。
柊殿と鄭殿にも、今は共に勤めてもらっている日があるが、暫くは交互にひとりずつ医務室に入ってもらいたい。
何か事が起きた時、確かに医師の数は必要だが、重傷者が出たとき対処できるのは柊殿と鄭殿だけだ。
ふたり同時に何かあっては手遅れになってしまう」
「・・・それなら私が毎日入ります。鄭さんはとてもお元気な方ですが、もうご高齢です。
もし鄭さんのいる時に奇襲に合われたら、鄭さんにとっても、他の方々にとっても負担なはずです。
私なら、ある程度の護身術は心得ておりますので、それほど負担にはならないかと」
「ふむ・・・。確かに、その通りだが・・」


小十郎は少しばかり苦い顔をした。


「あ、鄭さんの分の禄は私のから引いてしまってかまいませんよ。使う機会もないですから」
「いや、そういう事じゃない。毎日働きづめで一月も、柊殿の体力がもつか・・」
「それなら心配なさらないでください。以前は毎日ほぼ休み無しで、訪れる患者さんを診ていましたから」


「この阿呆者め」


突然話を遮り、鄭が入ってきた。すでに話は理解しているようだった。


「お前さん、ここに来てわしに初めて言われたこと、もう忘れたわけじゃなかろうな?」
「・・しかし・・」
「確かに、わしゃあもう足腰の自由があまりなくてな。足手まといの医者なんて、いても邪魔じゃろう。
じゃからとて、一月もここをお前さんひとりに任せるほど、老いぼれてもいないわい」
「鄭さん・・・」
「では、こうしよう。今現在、7日間のうち、ふたりで働く日が4日、鄭殿のみの日が1日、柊殿のみの日が2日だ。
これを、この先一月は、鄭殿のみの日2日、柊殿のみの日を5日でどうだ?」
「・・・それが無難かの」
「私も異存ありません」
「では、これで政宗さまにも話を通しておく。・・もしもの時は、簡単な応急処置くらいなら我々がなんとかする。
鄭殿と、柊殿は深手を負った者たちを見ていただきたい」
「承知いたした」







小十郎が医務室にて柊たちと話し合いを行っているとき、政宗にある一件の件書が上がってきていた。


「・・・城下にて、ladyが何人も行方知らずだと?」
「そうなんだ。ここ数日の間に、城下の町のいくつかで女の子が、もう10人ほど行方知らずになっているらしい」
「売り目的の盗賊か?何か手がかりがないのか?」
「それが全く。消える時間帯も場所もばらばら、攫われた人の特徴や生い立ち、身辺調査をしてみても特に共通点はなし。
唯一の共通点って言えば、女子で17〜20歳前後ってことだけ。
帰ってこないし、かと言って死体が見つかるわけでもない。おかげで町の人たちはすっかり怯えちまってる」
「いなくなり始めた時期は、正確にはいつ頃だ?」
「本当に、つい最近だよ。まだ起こり始めて一月もたっていない」
「・・・徳川の忍びが嗅ぎ回りだしたのと同時期か」
「確証はないけど、多分」
「ok、引き続き調べろ。何か徳川の手がかりもつかめるかもしれねぇ」
「はいよ。 あ、そうだ梵」


一度執務室を出掛かった成実が首だけ政宗に向ける。


「柊ちゃんのつけてる簪、あれ、梵が選んだんだろ。柊ちゃんによく似合ってるな」
「Ha! あたり前だ」
「・・・赤に黒、雨音ちゃんを思い出すね」
「――あいつと雨音を重ねるんじゃねぇよ」
「・・・・・一番重ねてそうな人に言われたくないんだけど」


図星のためか、うっ・・と息詰まった政宗を見た成実は満足したのか、すたこらと執務室を後にしたのだった。
政宗といえば、舌打ちをして、前髪をぐしゃりと掴んだ。










今回も一話分を2回に分けて更新してます
後編はまた後ほどupします

さぁ、奴がきますよww


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