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 腫れ上がったガンマンの両足首を見て「こりゃ酷いなあ」と唸ったベンゼンの施した処置は、迅速で的確だった。
 軽い触診から始まり、透明なフィルムを足首に被せると、配線剥き出しの白い機械からペン型のカメラを引っ張り出し、それを新型のレントゲンだと説明しながらデスクの側にあるモニターに撮った画像を映し、骨に入った小さな亀裂を指摘すると、暫くの安静を告げ、腫れがひくまでの処置としてシーネ(添え木)ごと足首に包帯を巻いた。
「腫れが治まったらギプスを作る。まあ、一ヶ月もあれば完治するでしょ」
「一ヶ月も掛かんのかよ」
「昼頃、パンドラに肩甲骨と鎖骨ごと撃ち抜かれた馬鹿を治療したよ。そうなった理由は知らないけど、ありゃ全治までに軽く半年は掛かるだろうね」
 ベンゼンはそう言うと、ちらりとパンドラを見てコンピューターの電源を落とした。
 その見透かしたような口振りが、言外に「許してやれ」と言っている気がして、ガンマンは小さく鼻で笑う。
「余程良い銃でやられたんだろ」
「うん。綺麗に骨を粉砕してくれてたお陰で無駄に大手術になったよ」
「そいつはご苦労さん。治療、ありがと」
 軽く笑って言ったガンマンは、湿布を貼っただけの片足に力を入れて席を立つ。ふらりとよろけた体を支えたのはパンドラだった。
「君、名前は?」
 ベンゼンが尋ねた。ガンマンは、パンドラの背中によじ登りながら、椅子に座ったままのベンゼンに視線を流し、一拍置いて返事をする。
「ガンマンって呼ばれてる」
「ガンマン……、ガンマンだって? まさか、『噂のガンマン』?」
「噂ってのは知らねえけど」
 言い終わる前にパンドラが動き出す。唖然とするベンゼンを横目に、ガンマンとパンドラは消毒液の匂いの充満する治療室を後にした。




 虎が小猿を背負っている、という噂がホームを賑わせていたのは、それから二日後の朝だった。
 すっかり慣れた背中にしがみつくガンマンと、ガンマンを背負うパンドラが朝食を摂るべく訪れた一室で、硬いパンを片手に笑うミダが二人に席を勧めて言ったのだ。
「本当にそう見える。あいつらも上手いこと言うもんだな」
「あいつら?」
 さも当然の動作でパンドラが引いた椅子に座らされたガンマンは、首を傾げてテーブル越しのミダへおうむ返しに訊いた。ミダはまた笑い、一口水を飲んで頷く。
「ここの奴らだ。下っ端だがな。虎が小猿を背負ってホームを徘徊してるってよ」
「何それ、サーカス?」
「お前らのことだ」
「……ああ? 俺が小猿だってのかよ。んで、パンドラは虎? ふざけんな」
 パンドラに朝食の乗ったトレイを渡されながら、デザートのプリンの蓋を開けつつミダを睨んで声を荒げるガンマンに、ミダは「俺に言うなよ」と低く渋い声で返しながら、こっちを見て目を丸くしていた。
「……呆れた。サードを使うなんて、お前くらいのもんだぜ」
 ボスでも手を焼いてるってのに、とミダが苦笑する。
「冗談言うな。使われてんのは俺の方だ。パンドラは俺の雇い主様だもんよ」
 なあ、と隣に座るパンドラに振れば、パンドラは表情を変えることなく「ああ」と答えた。
 ミダは、それにも驚いたようにパンを千切る手を止める。
「会話が成立してること自体があり得ねえ。ガンマン、お前一体どんな手使ったんだ?」
「別に、ボスとも話してたよ」
 一言だけだけど、とガンマンはボスとの初対面の場を思い出して言い足す。
 それにしても、本人を前にして酷い言い種だ。ミダ曰く、パンドラは何事にも無関心であるから、周りが何と言おうと反応したり、まして怒ったりなどということは無いのだそうだが。――ガンマンは考え、プリンを飲み込む。

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