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2G

 ボスは口許に笑みを浮かべて言った。
 ガンマンはボスの納得した表情にこっそり胸をなで下ろし、小さく喉を鳴らしてミルクを飲みながら、ちらりとパンドラを見やって瓶を下げ、盛大に息を吐く。
「他は、とりあえずパンドラに頼んでみる」
 にやりと笑って言うと、一瞬眉を寄せたボスは、同じようにパンドラを見て豪快に笑い声を上げた。
 一段落したところでほっとしたのも束の間、突然パンドラがガンマンを担ぎ上げた。驚いたガンマンは情けない声を発してパンドラの肩を掴む。ボスと男がぎょっとして目を見張る中、荷袋のように肩に担ぎ直されたガンマンは、視界に取り残されたホットドッグとミルク瓶を惜しみながらパンドラと共に部屋を出たった。





 しかして運ばれた先は、またしてもコンクリート剥き出しの、しかし床に古びた暗紅色の絨毯が敷き詰められた部屋だった。広さは六畳ほど。隅にはペラペラの布団を乗せたパイプベッドがあり、その近くに小さめの丸テーブルと木製の椅子が二脚、それから壁には作り付けのクローゼットと、側に棚が打ち付けてある。
 パンドラはガンマンをベッドに降ろし「自由に使え」とだけ言うと、くるりと背を向けて椅子に座った。小さな椅子はパンドラの長身には不似合いだったが、それでも絵になるのは何故だとガンマンは不思議に思う。
「武器庫を見たい」
 そう言ったのは、半ば意地だった。何を考えているのか判らない瞳がこちらを向く前に先手を打たなければ、無言のパンドラに気圧されると思ったのだ。
「明日にしろ」
 数秒の後、振り向くことなくパンドラが言った。しかし、ガンマンは間髪入れず「嫌だ」と答える。
「今日が良い」
「まず足を治すのが先だ」
「足?」
 足が何だと首を捻り、ふと目に入った自分の足に手を伸ばす。黒いパンツの裾をたくし上げてみれば、ガンマンは自分でも気付かない内に唸っていた。
「嘘だろ……」
 くっきりついたロープの痕と、拘束されていた時に踏まれた箇所がどす黒く変色している。ずっとパンドラに担がれて移動していた為に、痛みも何も忘れていたのだ。
 自覚した途端に痛みだした足首を押さえ、ガンマンは顔を上げた。
 無意識に喉が鳴る。パンドラの細く整った眉の下で、ぎらつく黒の瞳がガンマンを見据えている。
「仕方ねえ。連れてってやる」
「……は?」
「ついでに手当てさせる」
 武器庫まで連れていってくれて、そのついでに足の手当てもすると? 
 ガンマンは頭の中で反芻し、パンドラから目を逸らす。
「行くぞ」
 ガンマンは立ち上がったパンドラにお約束になりつつある態勢で担がれながら、パンドラの瞳には魔力が宿っているに違いないなどと、最早現実逃避としか言いようのない了見でいた。

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