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2G
隠れ家
「暫く考えるのやめねえ?」
「やめてどうする」
「どうもしねえよ。自由に遊ぶだけ。ゲーセン行ったり、酒飲んだり、買い物したりさ」
 ガンマンは目を閉じて寝言のように言った。瞼の裏に、レトロな機種ばかり集めた小汚いゲームセンターや、派手に着飾った男女が入り乱れて踊る奇抜なダンスフロア、街中の大通りに並ぶお洒落なショーウィンドウが浮かんでは消える。喧しい雑音や下品な笑い声、アルコールの匂い、爽やかなハーブの香り、ドア一枚隔てた向こうのいかがわしい空気──。思い出してみると、そう長いこと離れていた訳でもないのに、どこか懐かしいような気がする。
「好きにしろ」と、パンドラは淡泊に言って煙草に火をつけた。吐き出された紫煙が天井へ向かって流れ、ダクトに吸い込まれて消える。
「じゃあ、明日 は街に行こう。どうせ着替えやら何やら買い足さねえといけねえし。美味い飯屋があるんだ」
「俺も行くのか」
「当然。せっかく表に来てんだ、引きこもってどうすんだよ。心配すんなって、俺がきっちりエスコートしてやる」
「別に心配はしてない」
「ったく、可愛くねえな。そこはにっこり笑って頷いとけよ」
 モテねえぞ、と薄く目を開けて言うと、パンドラは少し考える素振りを見せ、それからふっと笑みをこぼしてガンマンの前髪を長い指で梳いた。
 ──自覚があるのか無いのか。全くもって憎たらしい男だ。ガンマンは不機嫌に鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
 表の女は特に綺麗なものに目がない。パンドラなら、わざわざ愛想など振りまくまでもなく女達の方から寄り付いてくるだろう。おそらくパンドラは相手にしないだろうが、女の好奇心と執着心を侮ってはならない。彼女らは気に入ったものを手元に置いて優越感を得るためには、他に何ら厭わないのだから。
「表のルール(法律)は分かってる?」
 地上では政府が絶対の権力者だ。警察は政府の犬で、司法は政府と警察の都合によって言い分を変える。
 法を犯せばそこで終わりだ。特に、パンドラが地下で行っていたことの殆どは地上では御法度だ。間違ってもブッ放すなよ、と念を押せば、パンドラは笑いを堪えるように顔を背けながら無言で頷いた。


 ガンマンは懸念していた。パンドラは目立つ。何をしても、何もしなくても、そこに居るだけで圧倒的に目を引く。なのに‘此処’の人間は彼を知らない。それがあまりに不自然だということに誰かが気付くのは時間の問題だろう。


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あきゅろす。
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