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「暇潰しか」
 ガンマンは弱々しく笑った。
「まったく意地が悪いな。その暇潰しに付き合って楽しんでんだから」
「まあ、そうだな。何せ、こんな楽しみは滅多にない」
「悪趣味め。ちっとは隠せよ」
「バレてんだから仕方ねえだろ。だが、これからどうする?」
「決まってる。俺の武器を流して良い思いをしようとしてる奴らには、ちょっとばかりキツい仕置きが必要だろ」
「要屋か。上客を手離すことになるぞ」
「代替はいくらでも見つけられる。んなことより、問題は調子に乗った上客ほど害悪なものはねえってことさ。まあ、明日には熱も下がる。まずはブレイズに挨拶でもしてくるか」
「ブレイズに?」
「ブレイズの中で俺が顔を知られてるのは唯一チョッパーだけだ。俺はまだ一度もオリジナルの武器をヴァルハラの奴らに使わせたことは無えし、あんたに捕まってからヴァルハラのホームを出たのも昨日が初めてだ。そして、ヴァルハラには俺の存在を出来る限り他に知られねえようにボス直々の箝口令がしかれてるし、戦闘がからっきしで残念なお荷物になりかねないチョッパーは、絶対に戦場には現れない。つまり、だ。俺の情報を持つ誰かがリークしてなけりゃ、ブレイズは俺を単なるスミシーとしか見ねえ訳さ。多少重めのリスクを背負っても確かめる価値はあるだろ。何せ、俺がヴァルハラに居ることが既に漏れてんのか漏れてねえのかで、見える状況がまるで違ってくるんだからな」
 ブレイズが要屋と直接繋がっているのか、それとも今回の一件はホープスが二股を掛けただけなのか。当然、後者なら好運。しかし、もしもブレイズとホープスのどちらも要屋と繋がっているとすれば、かなり危険だ。こうなると相手の戦力増加もさることながら、事実上、要屋が最下層の三分の一を掌握しているという恐るべき事態をも覚悟しなければならない。
「で、パンドラはどうする?」
「行く」
「いいのか? 下手すりゃ死ぬってのに」
「死なねえよ」
「その自信はどっから来るんだ」
「さあな」
 パンドラは笑い含みにはぐらかして煙草をくわえた。
 ガンマンは重い溜め息を吐いて目を閉じる。まったく、本当に意地が悪い――そう毒れずにはいられない。今のパンドラの不敵な笑みには、言外に「気を抜くな」の意味が込められているのだ。何を危惧している訳ではない。気を抜いて興を削ぐような真似をするな、と忠告しているのである。
「心配しなくても、次のシナリオは俺が書いてやるよ」
 嫌味たらしく鼻を鳴らしたガンマンに、パンドラが満足そうな目を向ける。
「そう、それでいい。お前が折れたら終いだからな」
「折れるかよ。俺は自分が楽しむ為なら、例え大砲を構える相手に腐った棒切れ一本で勝てと言われても勝ってみせるぜ」
「そりゃあ大層見ものだろうが、そん時はRPGの一つでも投げて寄越してやるさ」
「……なんでそこは甘いんだよ」
「お前が“大物”ぶっ放してるとこの方が見ものだから」
 目を丸くするガンマンを尻目に飄々と言ってのけたパンドラは、たっぷり紫煙を吐き出すと、誰もが見惚れる美しい顔に薄すら悪魔のような笑みを浮かべた。





 第二区の最下層へ降りる昇降口は、第六区よりも比較的表から入りやすい構造になっている。とはいえ、入ってしまえば中はどこも同じで、落書きだらけのコンクリートの通路にはレジスタンスや無所属の下層住人の姿があったが、彼らはガンマン達から同じ最下層の匂いを嗅ぎ取ると、二人をもの珍しげな目で追いこそすれ、誰も引き留めるようなことはしなかった。
 二人は、カビと埃と微かな下水の臭いがただよう中、複雑に入り組んだ通路を慣れた足取りで進み、地べたにガラクタ同然の商品を並べただけの露店がちらほら見え始めた辺りでおもむろに足を止めた。
「なんか拍子抜けだな。もう少しピリピリしてると思ったのに」
「ブレイズの統制力はヴァルハラにも劣らない。小規模な分、伝達にも穴が無いんだろう」
「そういや、ホープスの方はどうなってんの?」
「動きは無い。赤髪が足止めに成功したのか、それともヴァルハラとブレイズの地上戦にバガゼロの介入があったせいか、理由はどちらともつかねえが」
「チョッパーに聞けば分かるさ」
「ああ」


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