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辺りは冷えた風に巻き上がる土煙と夕焼けと影が入り交じっていた。ガンマンはようやく辿り着いた地面から三段目の階段に腰を据え、ぐったりとして頭上を見上げる。
酷い倦怠感が目眩を引き起こしていた。遠くから聞こえるごく薄い排気音が、ぐるぐると頭の中を駆け回る。
いつからこんなに弱くなったのか。身体だけじゃない。精神的にも時折不安を感じるようになった。歩けなくなってから? パンドラに背負われ始めてから?
――違う。真っ黒な瞳を見た、あの瞬間からだ。
「乗れるか?」
階段の側にぴたりとつけた大型の黒いバイクに跨がるパンドラは、目を閉じて空を仰ぐガンマンの前にヘルメットを差し出した。ガンマンはそれを受け取り、「余裕」と返す。滑稽な程分かりやすい虚勢だ。しかし、パンドラは何も言わず上着を脱ぐと、ふらつきながら緩慢な動作で後ろに乗ったガンマンの両腕を腰に抱きつかせ、そのまま腹に回された細い手が解けないように拘束しただけだった。
「六区の中層まで行ける?」
ガンマンは、聞き取るのがやっとの声で訊いた。パンドラは肯く代わりにアクセルを回した。ゆっくりと動き出したバイクは、土の上を静かに走る。
「二番街の西通りに部屋がある。……でも、べつにどこだって構わないんだ。目の無い場所なら……」
「分かった。寝るなよ」
「大丈夫」
──そう答えたガンマンだったが、その意識は五分と経たない内に微睡み始めていた。
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