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「で、おめおめ逃げ帰ってきたって訳か」
 これだから女は……と、露骨に呆れた顔をして溜め息を吐いたドルガフを、新しい煙草のフィルターを噛んだリリーが睨み付ける。
「仕方ないでしょ! バガゼロが出てくるなんて思いもしなかったんだから」
 苛立ちを堪えずライターをテーブルに放り、背中をぶつけるようにして凭れたソファが苦しげに軋む。
「あいつらが勝手に突っ込んでいったのよ。単なる銃撃戦ならともかく、あの状況じゃ私達にはどうにも出来なかったわ」
「まあ、バガゼロ相手じゃなあ。でも、あいつらが無事に戻って来なかったら、ボスがまたキレちまうぜ」
「ガンマンは兎も角、パンドラが死ぬ訳ないわ。寧ろ死体の山を築いて上機嫌で帰ってくるわよ」
「そうじゃねえって。あいつらが殺しても死なねえような奴らだってことは、俺だってよく分かってんだよ。だからこそ、ちゃんとホームに戻ってくる保証は無えだろって話さ」
 と、ドルガフは肩を竦めてリリーの向かいのソファに腰を下ろし、テーブルのライターに手を伸ばす。
「非道で奔放な天才二人って、まったく最悪の組み合わせだぜ。一応、何人か捜索に向かわせるか」
「あたしが行くわよ。ボスにも『会ったら目を離すな』って言われてたし」
「やめとけ。闇雲に探したって、どうせ見付からねえ」
「なんとなく見当はついてるのよ。あいつら、暫くは五区に居るんじゃないかしら。なんでも、〈要屋〉ってのがブレイズにガンマンの武器を流したらしいの」
「何、〈要屋〉だって?」
 煙草に火をつけようとしていたドルガフは、驚愕のあまりライターを取り落とした。
 リリーは吐き出した紫煙の中で頷く。
「悔しいけど、ガンマンの作る武器は強力だわ。ガンマンもパンドラと行動を決めてるなら、少なからず危惧してる筈よ」
「おいおい、冗談じゃねえぞ。もし本当に要屋が絡んでるなら、尚更お前に行かせる訳にゃいかねえ。それこそ、ボスの帰還を待って本腰入れて対策を練らなきゃなんねえレベルだ」
「そんなにヤバイの?」
「ヤバイなんてもんじゃねえよ。戦闘以外箱入りのお前は知らねえだろうが、要屋っつったら今や都政府も黙認せざるを得ない程の怪物組織だ。ガンマンの奴、あんなのを顧客に抱えてやがったのか? ああ、面倒なことになってきやがった。兎に角、ボスに連絡つけねえと……」
 そそくさと動きだしたドルガフを横目に、リリーは黙って煙草を吹かす。視線をそらして壁に掛かる古い時計を見れば、針は五時半を回ったところだった。
「クソ、無線が繋がらねえ! アーシーの奴、何やってんだ」
 ドルガフが投げ付けた無線機がソファの上で跳ねる。リリーはうんざりした顔で灰皿に灰を落とす。
「ジャミング対策でしょ。まだ地上に居るのね」
「だからパンドラ連れてけっつったのによ」
「連れていけなかったのよ。あいつ、チビ猿に夢中だもの」
「それを引っ張ってでも連れてくのがアーシーの役目だろうが」
「なによ、あんたなんか怖くてパンドラの部屋にも入れないくせに。どうせ、今日だってそれで逃がしたようなものなんでしょ?」
「……うるせーなあ。見てもねえ奴が偉そうに」
「見なくたって分かるわよ、あんた単純だもの。それに、ボスなら今回のパンドラ達の行動も見越していたんでしょうし」
「どうだかな。最近のボスは、パンドラよりガンマンの方を気にしてるみたいだったぜ。実際、あいつが来てから何か空気がおかしくなった」
「ボスに誤算があったって言うの?」
「無いとも言い切れねえ。元々あいつに関する情報なんて殆ど無かったんだ。パンドラでさえ、あいつを捕まえるまでに何度も無駄足を踏まされたんだぞ。俺はなあ、リリー、今でも奴が“わざと”捕まりに来たんじゃねえかって思えて仕方がねえ。利用してるつもりが逆に利用されてるんだとしたら、あいつのことだ、とんでもねえ爆弾の処理を最下層に押し付けてとんずらかますつもりかもしれねえ、ってな」

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あきゅろす。
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