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 俺は仕方無く小銃をベルトに差し、ライフルを構えた。横から「第三勢力」についてリリーが催促するので、それについて説明しながら照準を合わせる。
「《要屋》っていう仕立屋があんだよ。表向きは普通の小さな仕立屋なんだけど、蓋を開ければあらびっくり。その実態は、何でも屋の窓口ですよと」
「へえ、面白そうなお遊びね」
「お遊びにしちゃあ大規模だ。つまるところ、《要屋》の親玉は《プレジエンターテイメント》だったりする」
「IT関連の?」
「そう。ゲーム業界でも有名なとこ」
「うそ、えらい大企業じゃない」
「だから第三勢力になり得てんだろ。お馬鹿な政府は気付いちゃいないけどね。で、何でも屋の構成員は、“表”の一般人。依頼者も然り」
 レール式のライフルを使うのは久しぶりだ。バッテリーの残量を確認し、少し硬めのトリガーを引けば、思ったよりも少ない反動に拍子抜けした。
 ちらりとパンドラを見ると、パンドラは愛用の小銃を構え……――構える方向がおかしい。パンドラの銃口は、俺とリリーの奥、ヴァルハラのメンバーである男を狙っている。
 俺は、何も気づかなかったことにして身体ごとリリーに向き直った。「何でも屋って」
 リリーは言った。
「あの大企業が危険な裏を作ってまでやるメリットはあるの?」
「作ったのは裏じゃない。クリーンな表を建てて、今の《プレジエンターテイメント》になったんだ。何でも屋の《要屋》は、現社長の父親――会社の創設者であるマサル・センドウが元々やっていた商売で、つまり……」
 本業はそっち、と締める前に弾けた大きな銃声に、耳に指を突っ込んで奥を見た。仲間である筈の男のアサルトライフルが宙を舞い、更に奥の男の顎を打った。目を丸くしたリリーが「パンドラ!」と呆れ果てて叫ぶ。
 成る程、見事な腕だ。俺は、パンドラに親指を立てて笑った。
 パンドラは、分かりにくい微笑を浮かべて銃を置く。どうやらご機嫌のようだ。
「あの暗号文も要屋の仕業か」
「十中八九」
「なら、キーは分かる」
 俺は耳を疑った。今、なんて言った? 俺はパンドラに詰め寄った。パンドラは、更に笑みを深めた。
「パターンがある。面倒くさい時と大して重要でない時は、大抵それを使ってる筈だ」
「はあ? そんな重要なこと、なんだって今になって言うんだよ! どうせ要屋だって気付いてた癖に」
「忘れてた」
「嘘つけ!」
 信じらんねえ! と俺はパンドラの胸に頭突きを入れる。前髪を縛るゴムが硬く、逆に俺の方が強く痛みを感じた。
「紙、パンドラの部屋に置いてきちまった」
 がっくりと項垂れて言った。パンドラが俺の前髪を弾く。見れば、パンドラは拾った小石で地面に何かを書き始めているところだった。
「訳分かんない」
 拗ねたように言ったリリーの手がさりげなく榴弾を掴むのを目撃してしまった俺は、パンドラの手元を覗くふりをしつつ、然り気無くリリーから距離を取る。
 ボスの腹黒さといい、パンドラの不可思議な行動――は、この数日を共にしただけでも今に始まったことではないと断言できるが――といい、リリーの怪物具合といい、どうしてこうも第六区というものは、俺の想定の斜め上ばかりを行ってくれるのか。

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あきゅろす。
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