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2G


 一旦勢いの弱まっていた銃撃戦は、リリーの撃ち込んだナパーム弾で、文字通り火がついたように激化した。
 崩れたビルを盾に銃を構えるヴァルハラの前線位置から百メートルあるか無いかのところに、廃材が積み重なる一帯がある。俺とパンドラが迂回したそこには今、ナパームの落とした炎を避ける人影が見えていた。
「化け物か」
 リリーが地面に投げ捨てた大型のナパームとリリーを交互に見て呟く。パンドラは手近にあったライフルを取って眺めながら頷いた。
「バースト(自動連射を二発ないし三発程度に制限する機能)無しのガトリングを撃ちながら全力で走る女だ」
「冗談だろ。女って、か弱い生き物じゃなかったのかよ。俺の認識、間違ってたの?」
「女って認識が間違ってる。化物だって言っただろう」
「ファンタジーだ」
「リアルじゃ、この理論が成り立たない」
 確かに、と俺は笑った。
 弾切れだ、と誰かが叫ぶ。こっちもだ、と数人が返す。辺りには残量の無いバッテリーが転がっている。
「あんた達、加勢しに来たんじゃないの?」
 さっさと構えなさい!とリリーが怒鳴る。パンドラは動かない。俺は身を屈め、這うようにしてリリーに並んだ。
「弾切れ?」
「際どいところね。戦況としてはこっちが押してる筈なんだけど、あっちの人数がやけに多いのよ。銃も妙に良いやつばかりで、中には見たこと無いものもあるわ」
「だろうね」
 瓦礫の影で、リリーは銃を構えたまま、器用に片眉を上げて俺を見た。
「知ったように言うのね」
 俺は拳銃に弾を補充して首を伸ばす。瓦礫に隠れながら向こうを窺い、ブレイズ側の銃声や構え方を見定め、出来るだけ申し訳無さそうな表情を作った。
「殆どが俺の武器だもんよ」
「……は?」
「スミシー・ガンマンの作品ってこと。どれもなかなか高性能だろ?」
 ヴァルハラの武器庫にあったものとは比較にならない。搭載したバッテリーは最新型でまだまだ切れそうにないし、精度も抜群だ。俺は得意になって言った。
「セイフティはIDで解除出来るようにしてあるから、改造されてない限りブレイズが使えるのは今日だけだろうけど」
 リリーは表情を険しくして俺を見ている。疑念のこもった視線は、手っ取り早い解答を求めていた。
「まあ、推測の範囲さ。第五区の連中が手を貸してるって」
「なんですって? 第五区の奴ら(レジスタンス)はとっくに潰された筈でしょ?」
「いや、少人数ながら残ってるみたいよ。つっても、今回のはレジスタンスじゃなくて“表”の連中の仕業って読みだけど」
 言い終えると同時にトリガーを引く。重量の無い、弾けるような音が鼓膜を突く。狙った通り、遠くに見えていた頭が血飛沫を上げて、横たわる配管の山の向こう側に消えた。
 やるう、と囃すリリーの口笛が響く。
「流石、ガンマンなんて呼ばれるだけのことはあるわね」
「経験の差ってやつよ」
「餓鬼の台詞にしては真実味があるわ」
「黙れよお姉様」
「生意気な餓鬼だこと」
 鼻を鳴らすリリーの手には、旧式の手榴弾が握られている。まさか、この距離から投げるのか。俺は目を瞠った。
「それで、“表”の連中ってどういうことなの?」
 伸びの良い放物線を描いて手榴弾が飛んでいく。申し分ない飛距離に加え、コントロールまで素晴らしかった。手榴弾は、数名の集まっていたところへ見事に着弾し、確実に相手側の戦力を削った。
 俺は、リリーから更に人一人分の距離を取り直し、今見たものを記憶から削除しながら銃を構える。
「五区には、他に無い第三勢力がある」
 続けざまに五発撃つ。小銃の癖に、腕を持っていかれそうな反動に目元を歪めると、隣に来たパンドラが嫌味たらしい笑みを浮かべてライフルを差し出した。

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あきゅろす。
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