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2G


 リボルバーのシリンダーを上げ、弾を詰める。隣では、パンドラも同じように準備を始めている。
 ガンマンは、天蓋の向こうで燦然と輝く太陽より二時の方角に向けて、引き金を引いた。拳銃にして、威力は申し分ない。だが、反動も強い。いくらガンマンと呼ばれる自分でも、この銃では連射は難しいかもしれないと思った。
「現在地はC‐12で合ってる?」
 ガンマンが尋ねると、パンドラは頷いた。
「北に崩れた灰ビルがある。そこに行けば、香水臭い女が居る筈だ」
「女?」
「赤髪の女だ。厚化粧だから、見りゃあすぐに分かる」
「ボスの女って……。聞いたことはあったけど、まさか本当に女だったの? レディ? キャット?」
 ガンマンは銃をベルトに差し込んでパンドラを見た。
「れっきとした雌のモンスターだ。社交辞令の世辞なんか口にするな。喰われるぞ」
 パンドラは、弾薬を詰めたパックを寄越して眉を寄せる。俺はパックから幾つか弾を出してポケットに落とし、残りの入ったパックを反対のポケットに押し込んで苦笑する。
「え、何それ怖いんですけど」
 パンドラは、顔を引き吊らせる俺を米俵のように肩に担いだ。「後ろは任せる」と言われ、俺は慌ててベルトから銃を引き抜き、ポケットにある弾を手に握り締めた。




「何そのパイナップル」
 俺を見た雌のモンスターは、開口一番そう言った。
 灰色がかった金色なのか、金色がかった緑色なのか、白髪のような珍しい色の髪を高い位置で結い、ばさばさの長い睫をしばたかせる女。照りつける太陽の下で、抜けるように真っ白な肌と真っ赤な口紅を塗った唇が嫌でも目を引く。
「羨ましいだろ」
 俺は、迷彩柄のタンクトップから伸びる白い腕に視線を流して言った。細い腕に不似合いなごついレールマシンガンを抱える彼女は、不快なものを見るような目で俺の前髪を凝視している。
 俺は、黙り込んだ彼女を視界から外し、パンドラと瓦礫に腰掛けた。直感で、このモンスターとは合いそうにないと思った。
「リリーよ」
 雌のモンスター――リリーは言った。俺はまた彼女を見て、「ガンマンだ」と返した。
「噂のガンマンね、知ってるわ。ガンマンなんていうから、どんな逞しい美丈夫かと思ってたけど……意外と小さいのね」
「あんたがデカいんだろ」
「モデル体系と言ってちょうだい」
「ふうん、すげえな。何モデル? 新型マシン搭載?」
「撃ち殺されたいの?」
 マシンガンの厳つい銃口を向けられ、俺は素早く両手を挙げる。顔を背けて笑うパンドラが憎たらしい。
「へえ、パンドラを手懐けたっていうのは本当らしいわね。一体どうやって落としたのかしら?」
 リリーは目を見張って銃口を下げる。俺は首を傾げて口角を上げた。
「パンドラは香水がお嫌いなの。俺は良い匂いがすんだってさ」
「あらそう、ガキ臭いのがお好きだったのね」
「少年の心を持った純粋な人間がお好きなんだ」
「ええ、分かるわ。いつまでも精神年齢が低い人のことよね」
「ひねくれた年増より素敵だろ?」
「……なんですって?」
 リリーは厚化粧の顔を盛大に歪めながら、マシンガンの安全装置を外した。これ以上の軽口は通じない。俺は悟り、また両手を上げて笑う。
 パンドラが、複雑な表情で溜め息を吐いた。

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