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 足首の形を取って生成したギプスを足首に当て、分厚い包帯で巻く。最新ファイバーのギプスだから丈夫なんだとベンゼンは自慢気に説明していたが、ガンマンは一昔も二昔も前から亀より遅い速度でしか進歩していない治療法に、ぐちぐちと不満を漏らした。
 治療室は相変わらず消毒液臭いし、ベンゼンも相変わらず軽い調子だ。唯一パンドラが寝台に寝ていることだけが前と違うところだが、それさえ景色に馴染んでいて気に入らない。
 随分とストレスが溜まっていた。たった三日でこれだ。そしてあと一ヶ月もこの状態が続くのだと思うと、いっそ足を切断してしまいたくなる程酷く憂鬱だった。なにもパンドラの背に不満がある訳ではない。それどころか、パンドラの背中はまるで自分を背負う為にあるのではないかと思う程に乗り心地が良く、実のところ大分気に入っているのだ。
 だが、それはそれ、これはこれ、だ。
「何が悲しくて背負われる心地よさなんて理由で納得しなきゃなんねえんだ。俺は歩きてえんだ。少年の心を持って、だだっ広い草原を自由に走り回りてえんだよ」
 ――などという妙な思考に行き着くこと自体がもう悲しくてたまらない。
「なんで科学医療の進歩の賜物に人工臓器や成長型人工毛があって骨折治す特効薬が無えんだよ。完全に切れた神経だって楽勝で治せる時代だろ。それともあれか、医者も科学者も骨には興味無えのか」
 如何に自身の精神状態が苛酷な状況にあるか、如何に医療が骨を蔑ろにしているか、如何にパンドラの体力と背中の安定感が素晴らしいものか、ガンマンはパンドラが起きてくるまでの一時間、ベンゼンを相手に語り続けた。
 それからガンマンとパンドラは疲れ切った様相のベンゼンを置いて治療室を出ると、通路の遥か先に見つけた、人だかりの出来た武器庫へと足を向けた。
 通路を歩きながらパンドラが呟く。
「血の匂いがするな」
「獣かよ」
「撃ち合ったか」
「違うな。火薬の匂いがしねえ」
「獣め」
 騒がしく中を覗こうとするメンバーの一人が振り返り、「サード」と叫んだ。それを聞いた他のメンバーも一斉に振り向き、パンドラを見留めると、全員が壁に張り付いて道を開けた。
 そこに混じっていたミダが、苦い顔でパンドラに囁く。
「喧嘩だ。アーシーとドルガフがまた揉めてる」
 扉が開いたままの武器庫を見たパンドラは、詰まらなそうに鼻を鳴らす。ガンマンはパンドラの肩を叩いた。
「なあ、パンドラ。ドルガフって誰?」
「多分、アーシーの」
 パンドラは言葉を切った。おそらく丁度良い表現を探しているのだろう。ガンマンはパンドラの肩に肘を乗せて続きを待った。
「アーシーのストーカーだ」
「そうきたか」
 ずるりとパンドラの肩に掛けていた肘が落ちた。まさか、パンドラの口からそんな単語が飛び出すとは思っていなかったからだ。
 アーシーをストーキングする奴なんているのか。そう考えて否とする。あの女顔なら、尻を狙うような変態の一人や二人に追い回されていてもおかしくはないと納得する。
「行こうぜ、パンドラ。アーシーのストーカー見てみてえ」
「ただのストーカーだぞ」
「それこそ見てみてえよ」
 いいから、と腕を伸ばして中を指す。パンドラは面倒くさそうに、しかしそれ以上の文句を言うことなく歩き出した。

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あきゅろす。
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