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2G

 ガンマンは肩を竦めた。
「噂のガンマンってのは、周りが勝手に呼んでるだけだ。そんなセンスの欠片も無えネーミングの由来なんて、俺が知るところじゃねえ」
 せめて麗しのガンマンとかにしてくれりゃあ良かった、と尖らせた唇を、パンドラの長い指が弾いた。ガンマンは、微かな痛みにはっとする。パンドラの表情が、悪戯を仕出かした子供のようだったからだ。
 今まで沈黙していた周りが騒然となる。同じく黙っていたミダも、堪え切れなくなったように口に含んでいたミルクを床に向けて噴き出した。ボスは目を見張ってパンドラを見詰めている。
「良いよな、お前の顔」
 ガンマンがぽつりと呟くと、パンドラは眉間に皺を寄せた。不服そうな表情だ。ガンマンはそれを鼻で笑い、パンドラの眼に顔を近付ける。ガンマンの顔を綺麗に映し出す黒の瞳は、一度瞬きしただけで微動だにしない。二人でいる時は極力目を合わせないようにしているガンマンだったが、たまにこうして真っ向から受けるパンドラの眼差しは新鮮だった。
 辺りがしんと静まり返る中、ガンマンは黒い宝石のような瞳に訊ねる。
「ホープスの件、パンドラも一緒に行くの?」
「じゃあ行かねえ」
 ガンマンは声を上げて笑った。
「だってよ、ボス」
 ガンマンがからかうように言うと、ボスは両手を上げて苦笑する。
「参った。ガンマンは完全にパンドラの味方か」
「そういうこと。残念だったな」
「ああ。食えない奴だ」
「あんたの方が食えねえよ。危うく騙されるとこだった。パンドラの説得が目的なら、俺を当たるのはお門違いよ」
「らしいな。じゃあ俺達は昼前に出るが、ミダ、ガンマンのホームの場所を詳しく聞いておいてくれ」
「了解」
 ボスはミダの返事に頷くと席を立った。お疲れ様です、と声が上がり、それに応えつつボスは食堂を出ていく。
 また一つ欠伸をするパンドラの横で、ガンマンがミダに向き声を掛ける。
「パンドラって、怒られないのな」
「ボスにか?」
「うん。この前――俺が来た日だよ、仲間撃ったろ。ボスは何も言わなかった」
「あー、成る程。そりゃ撃たれた奴が悪かったってことだ。つうか隣に居るんだから本人に聞けよ」
「パンドラは悪いことしたなんて思ってねえもんよ」
 なあ? とパンドラに問い掛けるも、パンドラは眠そうに目を閉じたまま何も答えなかった。
 ガンマンはそれを肯定と捉え、ミダに向き直る。
「命令にも従わねえって言うしさ、ヴァルハラって案外緩いの?」
「いんや、サードだけだ。ボスは恐ろしい人だからな、あまり逆らう奴は居ねえよ。お前も気をつけろ。ボスの機嫌を損ねたら、ボスが動く前に周りの奴から制裁食らうことになるぜ」
「ミダも?」
「あ?」
「ミダも俺を殴る?」
 こてんと頭を傾け無表情で問うガンマンに、ミダは困惑したように息を呑んだ。
 それから少しの間を置いて、ミダは太い指でこめかみを掻き、眉を下げて首を振る。
「そんな顔で聞かれちゃ、イエスなんて言えねえだろ。安心しろ、お前が何かやらかす前に殴ってでも止めてやる」
「なんだ、結局殴るんじゃねえかよ」
 はは、と笑いを零すガンマンを、ミダは苦い顔で見つめていた。
 ガンマンは「後でホーム周辺の地図描いとく」とミダに言い置きながらパンドラの腕をつつき、ベンゼンの所へ行きたいと告げる。パンドラは頷き、ガンマンに背を向けた。
「ガンマン」
 ミダが呼んだ。ガンマンはパンドラの背中に身を預けて振り向く。
「妙な真似はしてくれるなよ」
「ああ。ミダも、それ以上太り過ぎんなよ」
「全く関係ねえ切り返しだな、おい。俺はいつ来るか知れねえ氷河期に備えてんだ」
 大きな胸を張って言うミダに、周囲がどっと沸く。パンドラに背負われてドアに向かうガンマンは、残念、と指を立て予言する。
「氷河期の前に豪雨期が来る。その後は世界規模の干ばつだ」
 

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