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 淡々と語るボスの口元は穏やかな笑みを湛えているが、どこか遠くを見詰めるその眼光は鋭く、思わず跳ねた心臓にガンマンは顔をしかめた。
「もしそうだとして、ブレイズがホープスに手を貸す理由があんの?」
「陽動作戦の一端だろう。どの反政府組織もなりを潜めてる今、政府も警戒を緩めつつある。そこにホープスが攻め込むとなれば、隣の第三区の馬鹿共も必ず便乗してくる。そいつらを囮にして出来た隙に、せめて第二区の政府軍だけでも叩き潰そうって寸法に違いねえ。慎重派の癖に血の気の多いブレイズの考えそうなことだ」
「慎重派の癖に血の気が多いのは、あんたらも同じだろ。けど、そうだな。西国との外交が上手くいってない今なら、その程度の陽動作戦でも緊張しっぱなしの政府を混乱させるには打ってつけの手段になり得る訳か」
「そういうこと。第二区の政府軍は手強いからな。ブレイズも、先ずは自分達のテリトリーを治めて安心したいんだろ」
 ボスはくすりと笑って葉巻を取り出すと、擦ったマッチで火をつけ、吐き出した濃い煙に目を細めた。
 ガンマンは朝食に付いていたミルクを飲み干し、両隣から流れてくる紫煙の筋を眺めて溜め息を吐き出す。
「たかが一区域の政府軍を退けて安心するっていう、その辺が浅はかなんだけどな」
「おいおい、それを言われちゃ俺達の遣る瀬が無くなっちまうじゃねえか。無駄と解ってても、やらなくちゃならないことだってある」
「んなこと判ってるよ。こっちはそのお陰で飯食えてんだから。で、結局どうすんの? ヴァルハラも参戦すんの?」
 ボスに問い掛けながら、無意識に唇が弧を描く。笑いを含んだガンマンの声に、頬杖をついて欠伸をしていたパンドラが関心の窺える真っ黒な瞳をガンマンへ向けた。
 そんなガンマンとパンドラを見て、ボスが肩を揺らして笑う。
「君は本当に面白いな。噂以上だよ、噂のガンマン」
 なんだそれ、とガンマンは首を傾げた。ボスは目尻を擦り、「なんでもない」と軽く誤魔化して、また葉巻をくゆらせる。
「ヴァルハラも動く。但し、今回はホープスを潰す為だ」
「まだ時期じゃねえってこと?」
「理解が早いな。政府と接触する前にホープスを消せば、ブレイズも暫くは動けなくなる。今政府に手を出されると、水面下を意識して動いてる俺達の我慢が水の泡になりかねないからな。なんとしてもブレイズを止めるのが狙いだ。それで、武器についてだが……」
「ああ、使えるやつは全部地下の箱に詰めてあるよ。バッテリーが干上がって使い物にならないのばっかだったけど、旧式の銃器は殆ど問題無し。旧式と遠隔のグレネードも一応点検したけど、もしかしたら不発があるかもしれねえと思って、新型のを八十くらい別箱に用意しといた」
「凄いな。たった二日でそこまで出来るのか」
「正しくは丸一日ね。パンドラが手伝ってくれたんで、思ってたより大分捗ったんだ。流石名ハッカーだよ。現行銃器のややこしいシステムも、パンドラが居ればあっという間に調整出来る」
「へえ、パンドラがねえ」
 パンドラは頬杖をついたまま、ボスの声も視線も無いものとしている。
 こんな関係でよく仲間としていられたものだ。ガンマンはそう思って呆れ、それから閃いたようにボスを振り返った。
「そうだ、ボス。どうせ四区の方に行くなら、俺の鍛冶道具も取ってきてよ」
「ガンマンのホームは第二区じゃないのか?」
「二区はただのネグラ。作業はもっぱら四区でやってたの」
 けらけらと笑って言うと、ボスは明らかに不満げな表情を浮かべた。
「俺達が手に入れたガンマン絡みの情報はデマばかりだ」
「俺みたいなスミシーが易々と捕まるようじゃ駄目っしょ」
「そりゃそうなんだが。しかし周到なフェイクだな。虚偽の噂話をあそこまで広めるとは、そういうところが『噂のガンマン』の由来なのか?」

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あきゅろす。
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