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2G


 手足を縛り上げられて、頭に銃口を突き付けられて、それでもコンクリートの上をのた打ち回って抵抗を続けた俺は、髪を掴み上げられた瞬間に見た真っ黒な瞳に、もう逃げられないのだと悟った。


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「なあ、本当にこいつなのか?」
「ああ、らしいぜ」
「とても見えねえがなあ」
「おい、手え出すなよ。殺されるぞ」
「ボスに? ちょっとくらい良いんじゃねえの」
「やめとけ、サードのお気に入りだ」
「……そりゃやべえ」

 さっきから聞こえる会話に耳を傾けていた。
 ずっと側で俺を見張ってる男が一人、入れ替わり立ち替わりで見張りの男に声を掛ける複数の男達。目隠しをされていて何も見えないが、ドアが開く度に真っ黒な視界がほんのり赤くなる。この部屋が暗いのだろう。足音が聞こえる時間が長い。反響の具合からして、ドアの向こうには狭くて長い通路が続いている。そこかしこから聞こえてくる無機質な空調の音、そして湿度と室温がここを地下だと断定させる。流れてくる空気の匂いが湿気臭い。外は雨だ。最後に見た空は晴れていた。予報ではその日から二日間の降水確率は十パーセント以下だったから、捕まってから数日が経っているか、長い距離を移動したかのどちらかだ。
 どちらにせよ、何度かの食事を取り損ねたことは確かだった。半端でない空腹感が胃を痛めている。きゅるる、と断続的に鳴る腹に、見張りの男が耐えかねたように笑い声を上げた。
「起きてんのか、ガンマン。すげえ音だな」
「ホットドッグが食いてえ。喉も渇いた。ミルクが良い」
「おいおい。拘束されてる身でその度胸は大したもんだが、なんつうか、なあ……」
「何でもいいから早くしろよ。どうせここで雇われろってんだろ? 言うとおりにしてやる。ほら、説得の手間省いてやるんだからマジで早くしろって」
 すぐ近くで派手な音がした。パイプ椅子にでも腰掛けていたらしい見張りの男が、椅子ごとコンクリートに倒れ込んだようだ。
 苛々しつつ舌を打つと、男は勢い良く俺の耳元へ近付いて叫んだ。
「それ本当か! 嘘じゃねえんだな?」
「うるっせえなあ……。耳元でデカい声出すんじゃねえよ」
 俺は身を捩って男から離れる。ひやりとしたコンクリートが頬を打って痛い。不快に顔を歪めながら、早くホットドッグとミルク、と再度催促すると、男は興奮した様子で肯き、荒々しくドアを開け放って廊下を走って行った。
「痛え」
 両手首をロープによって背中でしっかりと拘束され、同じく両足も縛られ全身不自由な今の俺は、端から見ればおそらく芋虫のような格好で転がっているのだろう。こんな拘束の仕方でよく手足に血が回っていたものだと、改めて知った自分の頑丈さに感心せずにいられない。
 痛みに呻くと、胃が一気に収縮するように豪快な悲鳴を上げた。

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あきゅろす。
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