アヴィラ
5
翌日。
前陛下の葬儀が行われ、その後そのまま即位式が行われた。
そして即位式が終わった夜。
キアルーク陛下達はトゥーラへ攻め入られた。
そして、その戦いに勝ったと言う知らせが来たのは、たった1ヶ月しか経過していない頃だった。
「キアルーク陛下がトゥーラの王家、そしてその親類全てを根絶やしにされ、トゥーラの国土を我が国にすると宣言されたそうだ!」
わぁっ!と城の中の人々が沸く。
「勝ったのか?あのトゥーラに?」
「勝ったんだ!」
「これで亡き前国王様も亡き前正妃様もお喜びになられる!」
皆が口々に言う。
だけど、私は素直に喜べなかった。
王家、そしてその親類を根絶やしになど、その残酷に思える行為をあのキアルーク陛下が?
そんな事を、あのお優しかった亡きルイラ様がなんと思われるだろうか?
そう思う私を尻目に、アヴィラの軍はアヴィラと敵対していた国を次々に征服して行った。
「キアルーク陛下はどうしてしまわれたのだ?あれではまるで鬼だ。」
「町1つを焼き尽くしてしまわれたらしい。いくら敵国とはいえ酷すぎる。」
「何が酷いものかっ、相手は敵国。このアヴィラが大国になっていっているのに!」
「確かに敵かもしれない、だがあの方は……あれでは暗黒王だ!人を殺す事を楽しまれている。」
そんな噂が王都を駆け巡る。
私は苦しくて仕方なかった。
あのお優しく、泣いてばかりだったキアルーク陛下がそんな事をされるわけがない。
誰かが陛下を操っているんだと、そう思った。
そして、それは作戦を考える人間に違いないと思った。
そうなれば、操っていると考えられるのはただ一人。
「陛下達が一時的だが戦場から戻って来られた!」
城の衛兵の言葉を聞き、私はキアルーク陛下達が帰っていらしたと言う廊下を急いだ。
城の廊下の向こうから帰ってきた4人の若者が現れる。
キアルーク陛下とジャガル将軍、そしてその後ろをつき従うレイスとカイン。
ゆっくりとスローモーションのように見える。
圧倒的なオーラ。
恐ろしくて近づけない……。
私はゴクリと息を飲み込む。
そのまま4人に見惚れて彼等が通り過ぎるのをただ見ていた自分に気が付き、首を振り正気に返った。
そして目的の人物に話しかけるために後を追う。
「レイス!」
この国の宰相となったレイスは執務室に入るところだった。
レイスは私の姿を確認すると優しくニコッと笑った。
「ボドリュ卿、お久しぶりですね。」
願い遠征で疲れているんだろう顔色が悪かったが、私は構わずレイスに喰って掛かった。
「今すぐに制圧を止めろ!陛下を唆し、いいように扱っているのはお前だろう!あんな町を1つ焼くような残酷な事を……。」
「軍師ですので、町を焼くようにも言い渡しますし、敵兵を皆殺しにするようにも言います。これは戦争ですので。」
「征服するのはトィーラだけで良かったじゃないかっ!他の国とまで戦争をするなんて。」
「お優しいボドリュ卿。優しいだけでは喰われるだけですよ?世の中は弱肉強食、こんな風に喰われるんです。」
そう言ってレイスは私を壁に押し付ける。
顔が近づき、噛み付かれるんだと思った。
だが、そのまま荒々しいキスをされレイスの舌が私の歯列を割り入り込んで、舌を絡め取る。
「んんっ!」
「犠牲も何も無く平和が手に入ると思っているのですか?甘い人。ですが、その甘さは嫌いじゃないですよ。」
レイスは私の耳元でそんな事を囁いた。
私はドンッとレイスを突き飛ばす。
「ふふふっ可愛い人。可愛くて甘ちゃんで優しくて……まるで砂糖菓子のような人。約束まではまだ少し掛かります。それまで待っていて下さい。」
レイスはそんな事を言った。
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