アヴィラ
4
キアルーク様よりも5つ上で、私よりは4つ下の19歳の青年。
あの紹介された日から、私はレイスに内政の事情を教えている。
レイスは現軍師である人物の元にも通っているらしく1日置きではあるけれど。
彼は教えた事はすぐに吸収し、柔軟な発想を持ち、斬り捨てなければいけないところは躊躇もなく斬り捨てた。
ただ、何故か時折ジットリと何かを観察するように見つめてくる瞳に私は怯えた。
「ボドリュ卿は私の事がお嫌いですか?」
彼の視線に怯える私に気が付いたのだろう。
レイスは唐突にそんな事を言い出した。
「嫌い、とは?」
「私がボドリュ卿を見ると目をそらされるでしょう?」
「べ、別に。」
4歳も年下のレイスになんだかバカにされた気がする。
「そうですか。まぁいいです。嫌われているとしても、ボドリュ卿はきちんと私に政治を教えてくださっているのですから。」
「あ、当たり前だ。私は亡き正妃ルイラ様にキアルーク殿下を立派な王にと約束したんだ。」
「立派な王にですか?」
「ああ、そうだ。」
「ボドリュ卿、貴方が思う立派な王とは?」
そうレイスは聞いてくる。
立派な王。
「戦いの無い世界を作り上げる方……かな。」
「それが貴方の望む王の姿ですね?」
「あ、ああ。」
「ならば私はキアルーク殿下がその様になれるように、キアルーク殿下が王となられた暁には軍師、宰相として最大限の努力をしましょう。そして、キアルーク殿下が戦いの無い世界を作り上げた時、私に私の望むものを下さい。」
「レイスの望むもの?」
「はい、貴方しか持っていないものです。よろしいですか?」
「私しかもっていないもの?ああ、それが何なのかはわからないが私が渡せるものなのならば構わない。」
「貴方しか渡せないものですよ。」
私達はそんな約束をした。
===
「陛下が殺されただと!」
「はい、トゥーラ国の者に暗殺されました。」
城の衛兵から報告を受け、急いで城へと足を運んだ私が聞いたのは呆然とするような報告だった。
「またトゥーラ。」
ルイラ様だけでは飽き足らず、陛下までも。
「キアルーク殿下が陛下を暗殺した賊を捕らえていらっしゃいます。即座に葬儀と即位式を行うようにとの事。」
「何故、そんなに急いで即位式を?」
本来は葬儀をし、喪に1年間服し、それから即位式がわれるのが通例のはず。
「キアルーク殿下、いえ、キアルーク陛下は軍を率いてトゥーラを攻め落とすおつもりです。」
「無茶な!最近のトィーラは力を増してきている!キアルーク殿下は死に行くおつもりかっ!」
「殿下ではない。もう陛下とお呼びするべきだ!」
「どちらでも構わない!そんな危険な事!」
「陛下の決定は絶対です。明日には葬儀、そしてそのまま即位式が行われます。」
「……。」
私は呆然とする。
まるで死に急ぐような行為など。
「レイス!レイスはいるか?」
既に私が教える事は無くなって、現在は現宰相の右腕を勤めているレイスを探す。
キアルーク陛下もレイスか、乳兄弟であるジャガルの息子の言葉ならば聞くかもしれない。
「ボドリュ卿?」
「キアルーク陛下を止めてくれ!葬儀も即位式もそんなに急がなくていいじゃないか!」
私はレイスに向かってそう言った。
「申し訳ありません。ボドリュ卿。今回のトゥーラへの遠征は私が申し出たもの。撤回する気はありません。向こうも15歳、しかも即位式をあげたばかりのキアルーク陛下が攻めてくるとは思ってないでしょう。この好機を逃す気はありません。」
「レイス!」
「私も軍師として今回の戦いに参加します。この国で陛下の無事を祈って居て下さい。」
そう言ってレイスは私の横を通り過ぎる。
私はその後ろ姿に何もいえなかった。
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