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アヴィラ
11
一人になった私は本城に戻り、マーサが開け放した扉からコソッと謁見の間に入った。

真ん中にはディカント卿と、多分彼がイーラ殿下なのだろう金の髪の美しい男がが立ち尽くしていた。

「皆の者、少し席を外す。すぐに戻ってくるので待っていろ。」

そう言って陛下はマーサをつれて謁見の間を出て行かれた。

陛下が出て行かれてからザワザワと皆が騒がしくなる。

私には、何が起こったのかがわからない。

「どう言う事だ?」

「もともと陛下はロイ様を望んでいらしたのか?」

「何故、陛下はロイ様の存在を知っていらしたのだ?」

「イーラ様を望まれていたのではなかったのか?」

そんな言葉が飛び交う。

どう言う事だ?

なにがあった?

陛下はロイ様を望まれていた?

皆の言葉に私は少し嬉しくなった。

キアルーク陛下が望まれるなら、あのお優しく、心のお強いロイ様であって欲しかったから。

「お……。」

幼い頃に陛下とロイ様は会われた事があると口にしようとしたが、その前にバタンと扉を開けて陛下が謁見の間へと戻ってこられた。

戻ってこられた陛下の腕の中には、赤ん坊?

その赤ん坊を陛下はレイスに渡される。

渡されたレイスは驚いた顔をしていた。

「へ、陛下?この子供は一体?」

「私とロイの子供だ。」

「陛下?」

「ロイが産んだ私の子供だ。」

「え?正妃様が?正妃様は両性でいらしたのですか?」

「いや、男だ。」

「では、どうやって……。」

「魔道の力で少しの間だけ子が授かるようにした。」

「そ、そのような事!」

そんなレイスと陛下のやりとりに謁見の間にいる貴族達がざわざわとざわめく。

「本当に魔道で性別など変えられるのか?聞いた事がないぞ?」

「確かに聞いた事がない。陛下はロイ様を正妃にと言われて離宮に入れられ、先程愚弄するなとお怒りになられたが、実は侍女の誰かに手をつけたのでは?」

「それは有り得るかもしれない。」

「本当にあの子供はキアルーク陛下の子なのか?」

「侍女が産んだ女の子ならば、後宮にいる我が子が側妾になり男の子を産めばその子が次期王になれるのでは?」

「あれは女の子なのか?」

「男の子ならば、王位継承権は覆せない。」

周りから聞こえるドロドロとした貴族の野望に嫌気がさす。

それと同時に、先程カインが『お世継ぎの心配はしなくて良いようですよ?』と言っていたのは、この事だったのかと納得する。

「陛下、謁見はもう終わりでよろしいですか?」とレイスはキアルーク陛下に聞く。

キアルーク陛下の「謁見は終わりだ。」と言う言葉で謁見は終了となった。

他の貴族がざわざわと部屋を出て行く中、私は唐突にレイスと話をしたくなった。

レイスの姿を見かけ声をかけようとしたが、レイスはキアルーク陛下と話している最中で、私は声をかけるのをやめて、柱の後ろで2人が話し終わるのを待った。

「陛下、正妃様が身篭られていたのでしたら教えて欲しかったのですが?」

レイスは侍女にヴィクトリア王女殿下を預け、そうキアルーク陛下に話した。

「後宮にも貴族にも変な野望を持っている者も多数いるのに、話せと?」

「少なくとも、キアルーク陛下が正妃にと望まれているのを知っていましたら余計な口出しをせずにすみました。」

「ロイを望んでいるのを知られて母の時のように暗殺者に殺されてしまわないようにと、隠しただけだ。」

「そうですか。」

キアルーク陛下の言葉に私は嬉しくなった。

キアルーク陛下が望んで下さっているのは、あの時のお子様であるロイ様だったから。

「誰かそこにいるんですか?盗み聞きとはいい度胸をしていますね?」

レイスが唐突に私のいる方向に向かって、そう言った。

私は、柱の影から出て行く。

「ボドリュ卿か。」

私の姿を見て、キアルーク陛下がそう呟かれた。

「どうした……レイスに用事か?」

「いえ、あの……その……。」

「ボドリュ卿。」

キアルーク陛下に唐突に名前を呼ばれ私は驚く。

「え?は、はい。」

「お前を王女の教育係に任命する。」

「え?」

「お前は私の従者だった者の中で一番常識や知識が豊富だった。まだ王女は幼いゆえに教育係りは早いかもしれぬが頼んだ。」

「は、はい!陛下。」

そうして私はヴィクトリア王女殿下の教育係になった。

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