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アヴィラ
6
「この時期に法の改正、まだ戦争中だろう?」

「陛下がこの法律だけは通せと言っていらっしゃるらしい。」

「どんな法律だ?」

「同姓婚だそうだ。」

「同姓婚?男と男、女と女の婚姻を許すと言う法律?」

「ああ。我が国の神は同姓との性行為を拒否される事はないが……それにしても何故、同姓婚などと言う法律を?」

「それよりも問題なのは、その法律を王家にも通用する法律にされようとしている事じゃないか?」

「何か意味があるのだろうか?」

「こんな戦いの真っ只中でどうしてもと陛下が言われたのだ。何か意図があるのだろう。私達は賛成する。」

現在抗争中の国との戦いの終結宣言をされず、国軍の一時的な帰国と共に陛下から下された法の改正は、戦いに関係あるものと思えず、法に携わる貴族達を驚かせる。

「ボドリュ卿はどうなさいます?今回の法をほとんどの者は賛成するようですが。」

ディカント卿が私に近づいて来て、そう問う。

「私は反対します。民だけならば賛成しましたが王家までなど、陛下は直系の王家としてただ1人のお方。その陛下が男性を娶られた場合、王家が断絶してしまう。」

「やれやれ、堅いですな。ボドリュ卿。別に正妃様が男性でも、側妾などいくらでも娶れる。5代前の王が150人の子を成された例もある。それに正妃様が男性ならば我々貴族の娘が側妾に上がり陛下の子を成せるチャンスが増えると言うのに。」

そう言いながら、彼は他の貴族にもどうするのかを聞く為に私から離れた。

結局、私は反対したが一番決定権のある国軍総司令官ジャガル将軍、そして宰相軍師であるレイスが賛成し、ほとんどの貴族も賛成した為にその法は通ってしまった。

2日後、アヴィラ国軍はまた制圧の遠征へと旅立った。

次々と征服される国々。

気が付けば2年が過ぎ、潰した国の数は20にのぼった。

誰が呼んだのか、あのお優しく泣いてばかりおられたキアルーク陛下は「気に入らない者を嗜虐し、人を殺す事を楽しんでいる暗黒王」と。

そして「右の死神 マルス・ジャガル将軍」

「左の死神 軍師・宰相 レイス・グレイドル」

「暗黒王が持つ死神の鎌、魔道団団長カイン・バスパル」と国の中心を担う4人はそう呼ばれていた。

キアルーク陛下が即位され2年以上が過ぎた頃、敵対する国は全てなくなった。

残ったのは元々の友好国だけ。

そして一番大きな大国へとアヴィラは変化してしまった。

沢山の国を潰し、沢山の人を殺めて。

「陛下達が勝利を収めて凱旋なさる!」

「帰って来られた!」

国は沸き立っているようで、それでも怯えている者も多い。

残虐王、暗黒王と呼ばれる陛下に、この国の未来をどうされるのかと怯える国民達。

たしかに大国になった。

大国になり、ここまでの強さを見せつけたアヴィラに、他国が戦いを仕掛けてくる事はもうないだろう。

だが本当にそれでいいのか?

暗黒王に支配された国として怯える国民達は本当にそれで幸せなのだろうか?

戻ってこられた4人の、この国を支える若者達を見て私は悩んだ。

一時的ではなく完全に終戦し、アヴィラは何者にも脅かされる事のない大国となった。

そして陛下達が帰国され、落ち着いた頃。

私は城に設えられたレイスの部屋へと呼び出された。

レイスは現宰相なので、一貴族でしかない私が拒否する事も出来ず渋々と出かける。

「お久しぶりです、ボドリュ卿。」

そう言って物腰豊かにゆったりとレイスは腰を折る。

あの初めて会った時に残っていた少年の面影は完全に消え、大人の男の魅力と気品、そしてどこか、ぞくりとした危険な色香が漂っていた。

「あ……ああ、久しぶりだな。レイス。」

「約束の物を貰う為にお呼び立てしました。」

「約束?」

「ええ。忘れたのですか?」

「約束。」

「約束を致しましたよ?キアルーク陛下が『戦いの無い世界を作り上げる』事が出来れば私に私の望むものを下さると。」

「確かに戦いのない世界になった……だが、私がキアルーク陛下に望んだ王はこんなんじゃない!」

私がキアルーク陛下になって欲しかった立派な王は民にまで怖がられ、恐怖されるような王じゃない。

「駄目ですよ。ボドリュ卿?貴方が望んだのは『戦いの無い世界。』その為に敵国全てを潰したのです。キアルーク陛下と私の利害は一致しましたので、少し時間がかかりましたが、貴方が望む世界にする事が出来た。貴方はそれ以上を望む事はおっしゃられなかった。何かを得る為には何かを捨てなければいけないのは世の中の仕組みです。前も言ったでしょう?貴方は甘いと。ただ、貴方のそんな甘さは嫌いじゃないですけどね。」

そう言ってレイスは私にキスをしてくる。

「やっ!」

顔を背ける私をレイスは顎を掴んで固定した。

「約束です。私が望むのは貴方の身体。私の肉欲を貴方の肉体で宥めて下さい。」

「え?」

「一目惚れなんですよ。19歳の頃、貴方を一目見た時から犯したいと思っていた。今まで我慢した私を褒めて下さい?」

そう言って私を抱き上げ、レイスはベッドの上に降ろし押さえつけて来た。

私は暴れる。

なのにレイスの力が強い。

「約束でしょう?ボドリュ卿……いえ、これからの情事にファミリーネームは相応しくないですね。ラファー?私が貴方との約束の為にどれだけの国を潰し、どれだけの人を殺めたとお思いですか?」

「あ……あ……。」

私はなんと言う約束をしてしまったのだろう。

死神。

それは、まさに彼に相応しい呼び名だったのだ。

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