アヴィラ
3
安心していた矢先、私はキアルーク殿下の従者を離れる事になった。
先代は私の働きを認めて下さり、ボドリュ家は更に高い位を頂いた為だった。
「陛下。ですが私はまだキアルーク殿下にお仕えしたく思います。」
「いや、ボドリュ卿。お前はりっぱに務めを果たしてくれた。これからはキアルークの従者ではなく、国の為に働いて欲しい。」
そう言われ、ルイラ様の約束などを思い出し、迷いはあったが、キアルーク様がご立派な王になる為には城の中の事、そして内政に詳しい人間が居たほうがよいと判断して私はキアルーク様の従者を離れた。
それから数年。
「キアルーク殿下が軍に入隊された?」
「あぁ。乳兄弟のマルス様と共にご入隊を。」
「そんな!キアルーク殿下はまだ11歳だぞ!」
「だが、ご本人の意思なのだ。」
「ご本人の意思とはいえ、軍に入隊など陛下は一体何をお考えになられているのだ!仮にもたった一人の王子殿下なのに!なにかあってからでは取り返しがつかないのだぞ?」
「もちろん、陛下だってわかっていらっしゃる!だけど、もうすぐ戦争が始まるかもしれない。トゥーラ国は、近隣の国を制圧したそうだ。そして、次に来るのは我が国。魔法石の産出できる我が国はどこの国も欲しがる資源の多い国だ。かならず戦は必ずおこる。陛下の御身だって常に危険に晒されているのだ!だから、いつキアルーク殿下が王になられてもよいようにとの仰せだ!」
「だがっ!」
あんなに泣かれてばかりだったキアルーク殿下が戦いの場などに身を置くなどお出来になるはずがない。
私がお傍にいた頃のキアルーク殿下は6歳。
まだ、あれからたった5年しか経っていない。
戦いの中に身を置かれ、怯まれればキアルーク殿下ご自身の身が危険なのに。
「君は心配しすぎだ、ボドリュ卿。キアルーク陛下はまるで人が代わったように逞しく、強くなられた。次の王にふさわしい方になられるよ。きっと。」
「そうだろうか。」
それなら良い。
立派な王に……そう私はルイラ様と約束したのだから。
===
さらに数年後、キアルーク殿下が14歳を過ぎられた頃、軍から城へと戻ってこられたと聞き、私はキアルーク殿下と一目お逢いしたい思い、ご帰還のお祝いの席に出席した。
そこにおられたのは、見た事も無い、逞しく気高く美しい、だが、ほんの少しだけ幼さを残された男性が居た。
「あ、あれが……キアルーク殿下なのか?」
私が記憶している、泣いてばかりだったキアルーク殿下はどこにもいない。
煌くばかりの、どこに出しても恥ずかしくない気高く、美しい、次代の王の風格を持たれた男性がそこにいた。
私はぼんやりと、そんなキアルーク殿下を見上げていた。
キアルーク殿下のご帰還の宴が終わり、私はキアルーク殿下に呼びとめられた。
「ボドリュ卿。」
「はい、キアルーク殿下。」
従者を離れて久しく、立派になられたキアルーク殿下と会話をするのは緊張した。
「お前に紹介したい人物がいる。」
キアルーク殿下はそう言い、私に一人の青年を紹介した。
「レイス・グレイドルだ。軍で私と同じ班にいた。ボドリュ卿は内政に詳しいな?」
「詳しいかどうかはわかりませぬが、一応、現在、宰相のお手伝いをさせて頂いております。」
「城の者達の話を聞くと、ほどんどの内政の仕事をボドリュ卿が執政していると聞く。私はレイスを自分の宰相、そして軍師にするつもりでいる。内政の事をレイスに教えてやってくれ。」
「はっ。」
今のは、一体誰なのだろうと思う。
あれは本当にお泣きにばかりなられていたキアルーク殿下なのだろうか?
すでに私の背を越され、王者としての風格と、人に厭と言わせない威圧感を持たれていた。
「宜しくお願いします。ボドリュ卿。」
涼しげな風貌の青年がにこりと笑った。
キアルーク殿下が次代の宰相にと望まれたレイスは驚くほど利発な青年だった。
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