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お狐さま!!
異世界のお約束


ヒューーーーー………



黒い底無しの穴はどこまでも続いている。

世界神に半強制的に穴に落とされてから、ゆうに20分間彼女はその穴を堕ちていた。




『……って、どこまで続くのよ!この穴は!!』


思わず同じセリフを計3回も叫んでいる。

しかし、一向に外に出られる兆しがなくだんだんと睡魔に襲われはじめた。


あーそういえば、寝てるところを連れてこられたんだよね……。


思い出すだけで腹が立つが今は睡魔の方が勝っているため思考もままならない。

――すると、突如ぼやけた視界が真っ白に染まった。




『―――はひ?…ぶへぇっ!!』





異変に気づくと同時に、見事に顔から地面へとダイブする。



『…い、いったぁ――』



高さはそんなになかったものの顔から地面にぶつかると地味に痛い。
若干涙ぐみながらも銀華は腹の底から大空に向かって叫んでやった。



『ァンのクソバカ腹黒大魔人ーーー!!いつか絶対後悔させてやるぅーー!!』



半分は寝てる自分が悪いのだが、そんなことは関係ない。
思いっきり叫んですっきりしたあと、銀華は改めて周りの景色を見渡し感嘆した。

『ほぇーー、ここが異世界《ティルスカイア》かぁ。これはまた凄い森の中ね。こんな大自然見るの何百年ぶりだろ……』


ぐるりと見渡せばどの樹木も太くて逞しい幹をしており、たくさんの青々しい葉っぱが空を覆い繁っている。地面はみずみずしい苔の絨毯が敷き詰められていて、まるでその光景は《もの○け姫》のようだと思った。

『つーか本当に物の怪出てきそうだよね。てか、あたし自身が物の怪だっけ…?』



――なんて、しょうもないことを考えながらも、とりあえず深く深呼吸する。




すーーはーー

すーーはーー




――うん!……やっぱりここの空気は美味しい。

まるで、生命の息吹が身体中の生気を満たしてくれるようである。

さすが!ビバ異世界!!


世界神が空狐以上の力を持つことが出来ると言った意味が今、解ったような気がした。


『なかなか、異世界も悪くないかもね』


銀華はにやりと口角を上げると、試しに初級妖術の火の玉を作ってみる。


『出でよ!火の玉!』


高らかに叫ぶと
―――ボンッ!!
という音とともに青い火の玉が現れた。

『!!!』



いつもだったら、ちょうど人の頭くらいの青い火の玉が手のひらに現れるのに、今回は違う……。

それよりも二回りでかい火の玉がゆらゆらと手のひらで妖しげに揺らめいている。
しかも、こちらがイメージをするだけで、火の玉は幾つにも小さな火の玉になり手のひらをくるくると回りはじめた。


おおー! これは面白い!

銀華は自由自在に操れる火の玉を見つめ、改めて自身の力が強くなったことを確信した。

――これで、魔物でも現れれば最高なんだけどね〜。
と内心苦笑していると、ふと背後から感じた気配にキッと眼孔を鋭くする。


『あらら、自分から率先して実験体になってくれるなんて、ここの魔物はなんてサービス精神旺盛なんでしょ』


うふふと妖しく笑って後ろを振り向けば、樹木の影から数匹、狼のような魔物が現れた。

ふーん…これが異世界の魔物かぁ

何だか見た目は狼と変わりないが体格は3メートル以上もあり、額には鋭い角が生えている。

『人を食べたか…。血の臭いがする』

銀華の鋭い嗅覚からは、つい最近人肉を食べたような真新しい血の臭いがぷんぷんしてきた。
その証拠に魔物たちの目は人を食べた証でもある赤い血のような禍々しい色をしている。

《ニンゲンダ…》

《ニンゲンノムスメダ…》

《ウマソウ…》

《ハヤク…ハヤククイタイ…》



鋭い眼孔を爛々と輝かせながら、じりじりと近づいてくる魔物たちを蔑むように、銀華はフッと鼻で笑った。

『…馬鹿ね。人間と妖の区別もつかないなんて。まぁ、これもあのバカ神のお蔭なんだろうけど』

きっと、自分が妖の類いだとばれぬよう世界神が何かしら術をかけてくれたのだろう。
お蔭で目の前の下等な魔物たちには自分が人間の小娘に見えるようだ。


『そんじゃ、この力を思う存分試させていただきますか』

手のひらの無数の火の玉をぱっと身体の周りに浮遊させる。
同時に、牙を剥き出しながら襲いかかってくる魔物たちに向かってそれを投げつけた。



―――ギャウンッ!!




高い雄叫びとともに一瞬で青い火だるまになった後、瞬く間に塵と化して消えていく魔物たち。

その威力は予想以上のものだった。

『へぇー、初級妖術だけで魔物数匹を一瞬で倒しちゃったよ。これがもし上級妖術だったらどんだけ強いのかな……』

なんて呟きながら、ふと空を見上げれば、太陽が落ちかけ、夕焼け色が空を染めている。


『日も陰ってきたしそろそろこの森を抜けて、人が住む村でも見つけようかな?ここにいると人間と間違われて一晩中闘ってることになりそうだからね』


とにかく今は人間のふりをして現状を探るのが一番だ。
銀華はそう決心すると、千里先をも見通すことが出来る神通力を使って人里を探し始めた。




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