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FF13(NOVEL)
いつか終わる夢 2

■エンディング後
■スノウ視点



「ってて!」

 箱から野菜を取って立ち上がろうとした瞬間、スノウの髪が何かに引っ掛かって引き攣れた。何本かぷちぷちと逝ったような音がして、その後の淡い痛みに顔をしかめる。

「つぅ…油断したぁ!何なんだよもー…」

 胸元に落ちたブロンドが室内の明かりで光る。セラと揃いにしたペンダントの端に引っ掛かってしまったようだ。スノウは唸りながらも丁寧に一本ずつ解そうとはしたのだが、途中で面倒臭くなってぐりぐりと何本かまとめて指先で巻き取るように外してしまった。

「そういや、もうあいつらは着いたのかな」

 乱暴に解いた髪の毛をなんとか静電気と格闘しながらごみ箱に捨てて、ふと、夕方外へと送り出したガドーとセラを思い出す。時間的にはそろそろ着いてもいい頃のはずだ。

「まだ運転中だったりして」

 携帯の短縮ボタンを押そうとしては指を外す動作を繰り返しながら考えあぐねる。スノウの心配性は今に始まった事ではないのだが、行き掛けに強引にセラを送っていくと言い出したガドーの態度がどうも気にかかっていた。昔はべったりと張り付くということはなかったのにここ最近、割と頻繁にガドーはスノウの傍にいて、スノウの手が空かない時は率先して面倒事を引き受けてくれていた。

「…なんか、らしくねぇんだよなぁ」

 デューラグ越しに頭を掻きながらスノウはぼやく。まるで自分が居なくても大丈夫だと言わんばかりの態度だからだ。こうなったのも自分がこの街を離れると言い出した事が原因なのだろうか。

「らしくないのは
スノウさんなんじゃないですか?」

「ユージュ」

「浮っかない顔しちゃって!うりうりっ!幸せ真っ只中なんですから、もっとスマイル、スマーイル!!」

 鮮やかな蒼の髪がスノウの視界に横からにょきっと入ってくる。スノウはそれを見て無理やり口角を引き上げるように笑ってみた。

「…んにっ。こうか?」

「はい。それ!その意気っ」

「たはは…お前に笑顔指導さちゃーな。俺もそろそろリーダー引退って所かな。これなら安心してカフェを任せられそうだ」

 嬉しそうな表情のユージュと向き合って陽気に肩を叩くとユージュが謙遜するように首を横に振った。

「俺なんてまだまだですよ。ガドーさんが居るから気楽に振る舞える所が多いんです」

「ガドー、か」

「はい。最近はスノウさんが居ない時は指揮をとってくれるし、すごくありがたいですよ」

「無理してなきゃいいんだけどな」

「え?」

 不器用そうに見えても案外、周りを見ている奴なんだよなとスノウはぼんやりガドーを思い浮かべた。独り言のような台詞にユージュが反応すると「なんでもない」と手をその場でゆらりと揺らす。

「それよりさ。この野菜をレブロに届けてくれよ。俺、一度ガドーに連絡取ってくるわ」

「あ、はい。わかりました」

「頼んだぜ!っと」

「うぐっ、重!」

 ドサドサと水分たっぷりの山のような野菜たちをユージュの腕に落とすと、若干ユージュの頭が下に沈んだような気がした。励ますようにスノウはユージュの頭を本人的には軽く撫ぜたつもりだったのだが。「あ、あー…」という妙に気落ちした声が聞こえた。
 よろめきながら立ち去る乱れ頭のユージュを見送りながら、再び携帯に指を触れさせた時、突然の端末の揺れにスノウはギョッとした。

「俺だ。どうした?」

 出たのはマーキーだった。引っ切り無しに機械音がしている所を察するにガレージの中なのだろう。忙しなくキーを叩く音をさせながら、焦ったような息遣いが聞こえる。

「よかった、繋がった。スノウさん、ヤバいっす。ヤバ過ぎっす!マジヤバっす!」

「はぁ?何があった。
魔物でも近くに出たか?」

 とにかく落ち着けようとのんびりめに声をかけようとしてスノウは目を見開く。

「ガドーさんのエアバイクが
消息、絶っちゃいました」

「は?」

「エアバイクに取り付けてた所在確認チップの機影がレーダーからさっき掻き消えて…っ」

「ちょっと待て。
判んねえ。手短に頼む」

 スノウは頭が真っ白になっていた。恐らく一つずつ整理すれば判る事なのに、その答えに行き着く事を頭が拒んでいる。マーキーはなんと説明したらいいかと躊躇うように唸りながら、キーを打ち続けて数秒後、弾くようにエンター・キーを押して大きく息を吐いた。

「ガドーさんとセラさんの乗ったエアバイクが街に行く途中で墜落した可能性があるっす」

 ぎり、と硬い端末を思わずスノウは握り絞める。墜落とは穏やかじゃない。

「街には行って、もう帰ってくる所だったんじゃないのか」

 ガドーには悪いがセラを降ろしているのなら、あいつの事だ。きっと自力で何とか生きていてくれるんじゃないかと期待してしまう。

「少しブレる動きが気になるんすけど。でも折り返すほどの大幅な進路変更はしてなかったみたい…だから」

「……」

「あ。あ!もしかしたら、壊れちゃってんのかもしれないっすね!俺、…鈍臭いから。取り付けに失敗してるかも」

 マーキーが涙を堪えている気配が伝わった。スノウは血の気が引くような手の平の感覚を抑えようと再び携帯を握り絞めながら、感情を押し殺すように口を開いた。

「機影が最後に確認された地点は?」

「…。場所はスノウさんの新居のあるコミュニティー近くの未開拓ゾーンっす。スノウさんのエアバイクに座標を転送しておきました」

「サンキュー。仕事早いな」

「…スノウさんならきっと行くと思ったんで」

「ああ。もちろん」

 現場に行くのが辛い…だが、誰よりも先に行きたかった。

「なぁ、マーキー。レブロ達にはこの事、ちょっとの間だけでいい。伏せておいてくれないか?計器の故障だったら無駄な心配させちまうからさ」



*****


 心は焦るのに、どこか遠くから状況を見る自分が居てスノウは戸惑っていた。あの後、マーキーとの通話をいつの間にか切っていた。最後にちゃんと礼も言ったのだろうか。所々が曖昧だ。ただ報告された事案だけが頭に残って離れない。

――墜落。


 ガドーのエアバイクのテクニックはスノウも一目置いているし、マーキーのメンテナンスはいつも完璧だ。人為的なミスは考え難い。なら何があったのだろう。
 エアバイクのエンジンにキーを差し込もうとしているのに、知らず知らずのうちに指先がガタついて上手くはめられない。

「…くそ、落ち着け。大丈夫、あいつがいる」

 ガドーがいるならいつだって平気だとスノウは思っていた。ノラを作って皆を守ると決めた時も先行きにほんの少しだけ不安を抱いたものだが、ガドーが傍で賛同し続けてくれたお陰で今がある。いつも気がついたらガドーに頼っていた。今回だってきっと大丈夫なはずだ。

「無事で居ろよな」

 すっかり夜が支配する空にエアバイクを滑らせる。穏やかな空だった。機体を安定させるとスノウはマーキーが打ち込んだ座標の点滅する方向に合わせて舵をきる。ガドー達の進んだ道を辿りながら、スノウは眼下に広がる暗い大地を見た。
 この暗さで二人を見つけられるのかスノウにも解らない。ガドーの携帯も、もちろんセラの携帯も何度かけても繋がらなかった。
 直接この目で見るしかない。胸元で揺れるペンダントの先がチクリと肌に触れる度にスノウの中に焦りが生まれた。


――もしも。


 もしも二人が本当に墜落して命がないのだとしたら。これからどう生きていけばいいのだろう?


 何もかも失うような未来が見えて、スノウは震えを隠すようにグリップを握りしめた。



【つづく】

――――――
亀展開でごめんなさい。
次はガドー視点かな。少し迷ってます。

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