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FF13(NOVEL)
Day25

■「夕方の駅」で登場人物が「約束を破る」、「噂」という単語を使ったお話
■ホープ視点





「ホープ!」

 大声で呼ばれてもホープは駅のプラットホームに向かう足を止めなかった。

 今日はホープ達がルシから解放された記念日だ。あれから色々あった。壊された街は未知の大陸に造らなくてはならなかったし、何よりコクーンのファルシに頼りきっていた技術を自分達の手で再構築する必要に迫られたのはきつかった。

 ホープは不思議な力が無くなった時、かなりショックを受けた。もう彼の役に立てないと泣いたような気もする。仲間であり、そして大切に思う彼――スノウの元から去ろうと思った時、スノウはしっかりと自分を受け止めてくれた。そしてスノウに支えられながらホープは久しぶりに小さい頃の夢を思い出した。父親のような人間になる事。そして、自分のやるべき事が見えた気がした。

 今はコクーン時代と同レベルで過ごせるように別エネルギーを使った転送システムや重力制御を研究する職業を目指して、その勉強に励んでいる。何時の日か父親の助けになれればいい。そして、スノウとともに肩を並べられる日が来るようにと願いながら。

「でも、約束を…僕は破るんだね…」

 誰に言うとは無しにホープはぽつりと言った。約束、それはルシから解放された日にスノウと一緒に一日過ごす事だった。スノウは今、街の復興に尽力している。元々、腕っ節は強かったし、武器もルシの力を持たずに使えるものだったから、残っている魔物を蹴散らして大地を切り開くのにスノウは適任だったと言える。でもそのために、スノウはいつも一定の場所に居るわけではなかった。ホープはそんなスノウの安否を気にしながらも勉強することにジレンマを覚えていた。

 早く大人になりたかった。スノウにも我慢せずに一緒に頑張りたいと言った事もあったが、スノウは首を縦に振らなかった。

「お前は俺にない物を持ってる。
だからそいつで俺を助けてくれりゃいい」

 今は環境と技術が同時に必要だとスノウは言いたかったらしい。それ以来、スノウは現場でホープは技術を…そんな役割が暗黙の了解のように決まった。そして中々会えない代わりにホープはスノウと約束をした。夕日の照らす綿毛の飛ぶ丘の上で。

「今日と同じこの日に、時間を合わせよう。
二人でゆっくり過ごそうぜ」



 ホープは約束の日を楽しみにしていた。でも、いつでも不安だったからか、この日を待つ間に良くない噂が耳に届いていた。スノウとセラがまた付き合い始めたというものだ。話が自分の住む場所まで届いた時、ホープは血の気が引いた。「ああ、やっぱり」なんて思いたくない。強がるように大丈夫と思いながらも握り締める手の指先が白くなる。
 怖かった。でも知りたかった。確かめに行こうと思ったのは約束の前日。勢いでチケットを取って列車に乗り込む。メールのやり取りはしていたから、つい最近のメール転送ポイントを頼りにスノウが居るであろう地区まで列車に揺られる。待ち合わせの前に来てみたんだとスノウを少しだけ驚かしてみようかな、などと上向きな考えでたどり着いた先でホープは目を丸くした。

「ホープ?!え、なんで」

「あら、ホープ君。こんにちわ」

 建設途中の建物前で談笑するスノウとセラは絵になっていた。声をかけるのも忘れるくらい。ホープの後ずさる足音にスノウが耳聡く気がついて無言で去る事が出来なくなると、仕方なくホープは「こんにちわ」と小声で挨拶を返した。

「…ごめんなさい。一日、間違えたみたい。
ううん、違うか。…何年も前から、かな」

 スノウの目を見られなかった。俯くようにして、震えそうになる言葉をしっかりとした口調で伝えようとホープは自分の手を握り締めた。

「ホープ?」

「スノウ、明日はなし、だね。
忙しいみたいだし。
一日、僕のために空けなくていいから。
…じゃあね」

「おい!」

「…っ」

 泣きそうだった。ただスノウはセラと会っていただけだ。こんなことで泣くなんて人はおかしいと思うかもしれない。でもスノウに近づこうと必死だったホープにとっては、簡単にスノウの身近な距離にすんなり入って行けるセラはとてつもない脅威だった。あの空気を作り出すには後、何年必要なのだろう。そして自分はその空気を作れるのだろうか。

「無理に決まってる」

 ホープは自分の持つチケットのナンバーと照らし合わせて、ホームに表示された停止位置に立った。このまま帰ってしまおう。もう会うために無理してもらう必要はない。傷ついてしまうまえに自分からさようならと書いたメールを出そう。もう一度、顔を見てしまったら今度こそ涙が溢れてしまうから。

「ホープ!」

 再び呼ばれた真剣な声音にホープはびくりと肩を震わせた。自分を追ってきたスノウが目の端に映る。肩を大きく上下に動かす所を見るとかなり急いできた事が伺えた。振り返るのが怖くて、ホープはそのまま振り返らずに少し後ろを意識するように顎を引く。

「大声で呼ばなくても聞こえてるよ」

「なら、立ち止まれよ」

「そんな必要は」

「ある!」

 言い切られて、つい後ろにホープは向き直った。こちらを見たホープにスノウは少しほっとしたような顔になる。

「漸くこっち向いてくれたな」

「あんなに名前呼ばれたらね」

「隣いいか?」

「僕に許可取らなくても来るくせに」

「ははっ…まあな。と」

 強い夕方の日差しがスノウの身体に遮られて和らいだ。横に並ぶ事でお互いの腕が当たって擦れるとそれを妙に意識してしまってホープの視線が泳ぐ。

「…今日は会えて嬉しかった」

「嘘言わなくていーよ。
突然来て迷惑だったでしょ」

「あのなぁ。…んぁー。
お前、誤解してねーか?
セラとはもう何も」

「…わかってる」

 ホープは線路を見つめながら眉を寄せた。

「スノウは何も悪くないってわかってる。
ただ僕が弱気な自分に負けてるだけなんだ。
…向こうにいるとさ。スノウが遠くて。
何でもかんでも知りたくなる」

「……」

「約束の日を待ち切れなかった。
スノウが今、僕を考えてるのか、
…それともその日食べるご飯のことばっかり考えてるのか。
だったら僕って存在はご飯に負けてしまうのかとか考えたりしたらぐるぐるしちゃって」

「おいおい…」

「呆れるよね。僕も呆れてる。
…でも考えたら止まらなくて、苦しいんだ。そんな狭量のない自分が嫌で堪らない」

「だから別れるってのか?」

 デューラグの上からがしがしと頭をかくスノウを怖くて見ていられなかった。ため息のような音が聞こえるとホープは目を閉じた。

「ホープ、お前…
そこに俺の気持ちが入ってねぇな」

「え…?」

 ぐいっと肩を掴まれてホープはスノウの胸に引き寄せられた。

「俺だって変わらねーよ。
中心地に置いてきたお前が俺よりいい奴に出会うんじゃないかとか。
それに若いんだからさ。結婚とかやっぱ考えんだろ」

「スノウみたいに?」

「まぁな。…俺はぁ…終わったけど」

「はは、そうだったね」

「…たぁっ」

「痛っ」

 自分が原因だったとホープが暗い顔になるとすかさずスノウに額を軽く弾かれてホープは額を押さえる。

「ばか。んな顔すんな。
もっと俺に愛されてる自信持て!」

「……!」

「少なくとも俺は今日、一緒に帰るためのチケット用意するくらいには、
お前のこと愛しちゃってるんだけど?」

 ぴらりと見せられたチケットは明日ではなく、今日の日付が印字されていた。先程買ったとは思えないチケットの風合いにホープはスノウとチケットを交互に見比べる。

「スノウ、これ」

「だから言ったろ?
俺の気持ちが入ってねぇって」

「前売り。
……なんだ、同じ、だったんだ。
僕たち」

「ああ。…そういうこった」

 列車の到着アナウンスが聞こえる。ホープは照れ隠しに触れ合っていた腕に自分の腕を絡ませる。お互いにルシの印のあった腕を。

「…荷物は?」

「ねぇよ。
元々、身ひとつで来たから心配ない。
それより、入れ違いにならなくてよかったわ」

 中心地へ向かう列車が風を巻き起こしてプラットホームに入ってくる。

「うん、本当にね」

 気がつくとスノウの指がホープの小さな指に絡みつくようにしてぎゅっと握り込まれていた。その暖かさが懐かしくてホープはふっと微笑む。

 自分の欲しかったものがここにある。ホープもまた手を握り返した時、まるで記念日の始まりを祝うかのように開く扉の音が耳に届いていた。


<終>

―――――
ぎりぎりクリスマス企画。
あ、0時過ぎて…?
ぎゃー><

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あきゅろす。
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