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時雨
3


「適当に腰掛けてくれ。」


そう言われて私と優は四角い囲炉裏を囲むように腰掛けた。


「まずは自己紹介でもしようか。私の名前は刺青。若い頃に死んでから姿は変わっていない。名前は偽名だ。本名は忘れてしまったのだ。よろしくな。」


「刺青さん。ですか。私は神谷凛です。」
「私は神谷優です。」


「「よろしくお願いします。」」


私と優が声を揃えて言うと、刺青さんはくすくすっと微笑をした。


「姉妹とは言葉を発するタイミングまで同じなのだな。しかしよく似ている。顔なんて瓜二つではないか。面白いものだな。」


刺青さんは最初に見たときよりも、ずっと柔らかく、ずっと優しかった。


「簡単ではあったが自己紹介も済んだことだし、そろそろ本題に入るぞ。」


刺青さんはそう言うと、私たちに真剣な面持ちで話し始めた。


「お前らが知っているように黄泉とは死者の国だ。天国にも地獄へも行けない魂が行き着く場所。此処には孤独な魂や怨念を持った魂、待ち人を待つ魂など様々な者がいる。お前ら人間に害を与える者もいれば利益をもたらす者がいることを忘れないでほしい。」


「そして優。お前には先程の女が見えていたな?あいつは木の葉という怨念を持った魂だ。そして私が封印した。あのように、襲われかけることもこれから多々あるだろう。気を付けろ。凛、お前は全く"視えない"のだろう。この世界で視えないのは大変危険かつ自殺行為だ。私の力を少し分けてお前に霊力を与える。慣れるまでは視える者の存在が怖いかもしれない。優、支えてやってくれ。」


「ざっとだが黄泉と魂、霊力の説明はこれで終わりだ。夜ももう深い。向かいの部屋をお前たちに与える。布団は押し入れの中に入っているから。私はこれから少し用事がある。先に寝てるとよい。お前らも今日は疲れたと思う。ゆっくりお休み。」


そう言うと刺青さんは長い簾をくぐって外に出ていった。


私と優は、指示された部屋に向かい障子を開いた。


ないもない簡素な部屋で、押し入れを開けると二枚の布団と敷布、掛け布団が入っていた。


布団なんて何年ぶりだろう。優が小五の頃に二人部屋になってからは、お互いベットだったから。


当たり前のように布団を隣に着け、電気を消した。


「なんだか、まだ現実沸かないね。」


「沸かないどころか、夢心地だよ。だってこんなことが現実に起こるなんて、考えもしてなかったもん。でもね私、お姉ちゃんとならなんとかやってけそうな気がする。」


「ありがと、優。さ、今日は優も色々と疲れたでしょ。もう寝よ。」


「そうだね、もう寝よ。お休み、お姉ちゃん。」


「お休み、優。」


就寝の挨拶を終え、私は優に背を向けて目を閉じた。




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あきゅろす。
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