時雨
5
簾をくぐると、やはり現世の世界よりも暗い。
街灯1つない道を月明かりだけを頼りに進んでいく。
「やっぱり暗いね。」
「うん。でもその分月明かりってホントはすごく明るいんだって気づいた。街灯よりも安心するっていうか何て言うか…。」
こうやって難しいことを考えようとすると、しどろもどろになるのが昔からの優の癖。
私は思わず笑ってしまった。
「なに笑ってんの?」
「ううん。なんでもないよ。」
そんな他愛のない会話を続けているうちにたどり着いた所は、深い深い森の入り口だった。
「なんか、やっぱり黄泉なんだね。空気が異質だと思わない?」
「うん。でも、この先に絶対あの声がある。入ろう。」
私たちは石階段を登り始めた。
山の中は、まるで真っ暗な闇のようだ。
月明かりさえも追い払うかのように生い茂る無数の葉。
そんな中でも、私たちは繋いだ手を絶対に離さないようにきつく握り締め、険しい山道を進んでいった。
もうどれだけ経ったのだろう。
気づいたときにはもう既に、私も優も息が切れ切れになっていた。
やがてたどり着いた先に有ったものは、小さな滝と泉。
生い茂る葉が途切れ途切れになり、月明かりが再び私たちを照らし始める。
影を隠すかのように、密かに泣きながらただずむ少女が、そこにはいた。
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