頬の傷は血がでるほどではなかったらしい。触ったらちょっとピリッと痛む程度だ。 大声で泣き始めたランボを置き去りに、リボーンに抱えられたまま歩いていると、前の方から何かが走ってくる。と思えば途中で立ち止まり数秒後、再び走り出してきた。 「きょっくげーん!!」 「了平だな」 リボーンの言葉にうなずく。だって、あんな大声で極限って叫ぶ人はりょうにい以外いないだろう。 リボーンはその場で立ち止まりりょうにいが来るのをまった。りょうにいは、走ってきて、リボーンの前で立ち止まると鋭く拳を2度突き出す。そしてようやく動きを止めたかと思えば、今になって気付いたかのように私たちをみて驚いた。 「おお!小僧に紫杏ではないか!」 「ロードワーク中か」 「そうだぞ!お前たちはこんなところでどうしたのだ?」 [おしごとちょうさちゅう] その場でかけ足をしたままりょうにいは会話を続ける。たまに思い出したように拳を前に突き出すからビックリする。 「そうか。それは極限にいいことだな!」 「お前も答えるんだぞ」 「おお、俺も答えるのか!」 そこでようやくりょうにいは足を止めた。肩にかかっているタオルで汗をぬぐう。一息ついたりょうにいを確認してから、他の人にもした質問を書いて、りょうにいに見せた。 [どんなしごとをしてますか] 「おお!俺の仕事はだな……」 りょうにいはそこまでいいかけて、まるで時間がとまったかのように動かなくなった。どうしてだかわからなくてリボーンを見上げるも、リボーンも意味がわからないらしかった。 「そ、そのだな、きょ、極限に相撲大会だー!!」 ワッハッハッハと腰に手をあて豪快に笑うりょうにいの目は明らかに泳いでいた。というか、仕事内容を聞いて、答えが相撲大会っておかしくない?? 「…ハア、了平。それはいくらなんでも無理があるぞ。それに紫杏は俺達がマフィアだって知ってる」 「そうなのか?」 リボーンは呆れながら訂正させると、りょうにいは首をかしげた。マフィアだって知らないとしても、相撲大会はあり得ないと思う。そんなので騙されるほど子供じゃ無い。って、私の見た目は5歳だけど。 「そうか。なら、俺は晴れの守護者だ」 途端に、さっきまでの勢いもなく、りょうにいは静かに口にした。その言葉は今までにも何回か聞いたことのあるような言葉だったけど、意味は知らなくて首をかしげた。 それを見てか、りょうにいは自分の手を私の前に差し出した。その指には一つの黄色い石が使われている指輪がつけられている。その指輪は縦に長い六角形の黄色く透明な石がつけられている。その周りには銀で装飾されていて重厚そうに見える。 指の付け根に近い方には黄色の石を止めておくためなのかなんなのか、銀の帯がつけられていた。見方によってはリボンのようにも見える。 それの上には、反対からだったから読み取るのに苦労したけど、『VONGOL』と書かれていた。 「これは晴れのボンゴレリングというんだ。これが守護者に与えられる」 そして、というと私から手を離し、自分の顔の前でぎゅっと拳を握った。すると、突然指輪に黄色い炎が灯った。 「これが、覚悟の炎だ。晴れの守護者の使命はだな……、極限に明るいことだ!」 「ちげえぞ」 間髪いれずにリボーンが否定する。せっかくさっきまで真面目なりょうにいでちょっとカッコいいとか思ってたのに今ので台無しになってしまった。 「明るく大空を照らす日輪。ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕き、明るく照らす日輪となることだぞ」 「俺がいったのと大して変わらんではないか」 いや、随分と違うと思う。 逆境を自らの肉体で砕く、か。まさにりょうにいにぴったりだと思った。日輪のことだってそうだ。確かに、りょうにいは太陽のようだ。温かく、とても力強い。 「そして、この晴れの炎は細胞の活性化を促す。こんな風にな」 そういってりょうにいは、ポケットから少し大きなサイコロのようなものを取り出すと、指輪をそれにある穴に差し込んだ。 そして出てきたのは、黄色い炎をまとった鏝(こて)で、それを私の頬に近づけた。 やけどするのではと思わず身を引いたけど、それはリボーンの腕の中ということもあり叶わなかった。炎が近づくけど熱いという感覚はなく、何か温かい感じがしたかと思えばそれはすぐに離れた。 「うまく治ったな」 りょうにいは微笑むとその大きな手で私の頭を豪快に撫でた。頭がりょうにいの手に合わせて上下左右に揺れて少し気持ち悪い。 ようやく離れたけど、脳が揺らされたせいか、視界もゆれてしばらく治らなかった。頬に触れてみると、さっきまであった傷がなくなっていた。細胞の活性化。つまり、そういうことなんだろう。 [おしごとで、いちばんたいへんなことは、なんですか?] ようやくぐらぐらが治まったので、次の質問をしてみる。 「大変なことか…。そうだな。会議なんかは面倒だな。極限に眠くなる。他は、言葉だな。外国語を覚えるのが一番できん!」 「了平が一番苦労していたな」 「俺は日本人だ!日本語ができればそれでいい!」 ドーンという効果音が聞こえてきそうなほど胸を張りきっぱりと言ってのけるりょうにい。 「良いわけねえぞ。死に物狂いで覚えろ。おかげで任務をまわすのが大変なんだぞ」 「そうなのか?それは大変そうだな!」 いや、それってりょうにいのせいなんじゃ…と思ったけど言わないでおいた。 とりあえずお礼の言葉を書いたら、優しく微笑んだ後再び走り出していった。りょうにいは本当に元気がいいと思う。 |