嵐のように青が通り過ぎる

一つの室内に、甘い匂いと珈琲の臭いが立ち込める。いましがた、メイドが持ってきたカートには湯気を立てているカップが二つと、銀の食器覆いで覆われた皿、それと小皿が二つにフォークも二つ載せてあった。


それを丁寧かつ素早く机の上にセットすると、メイドさんは頭を下げて出ていった。


銀の覆いをリボーンがとりさると、中にはおいしそうなショートケーキがはいっていた。


それをリボーンがとりざらに取り分けてくれる。その様子を黙って見ていると、とりわけ終わったのかリボーンは食っていいぞと言うように皿を私の方に押しやった。


いただきます。
心の中で呟いてから、フォークを手に取りケーキを口に運ぶ。
甘さが口の中全体に広がっていく。


「甘いものを食ってる時が一番幸せそうだな」


そうかな?と首を傾げれば、活き活きしてると言われてしまい少し恥ずかしくなる。その恥ずかしさを紛らわそうと、再びケーキを口に運んだ。


今日は、リボーンが久しぶりに暇ができたというので、これまた久しぶりにおやつを食べようということになった。それで、急きょメイドの方にお願いしておやつを用意してもらった。


そして、今日はお母さんが帰ってきている。さっき出迎えをして少しお話をしてきたところだ。そのあとはお父さんが来て、お母さんを連れて行ってしまったけど。


「ゆっくり食え」


コクンと一つうなずき、再びフォークを突き刺す。とったものが思ったよりも大きかったけど、大丈夫かと思ってそのままその塊を口に運ぼうとすれば、前からククッと喉を震わせる声が聞こえて、口をあけたまま前を見た。


前にいる人物、リボーンは横を向き、肩を震わせている。私は、何がそんなに面白かったのかわからなくて、とりあえずその少し大きい塊を口の中に放り込んだ。


それを見てさらに笑われるから、いよいよわからなくなって首をかしげた。そんなに面白かったのかな?口の中いっぱいに入っているケーキを、ゆっくり咀嚼(そしゃく)しながらリボーンを見ていれば、珍しいことにさらに笑っていた。


いつものにやりとした笑みではなくて、自然なものだったけど、すぐに帽子のつばを下げてしまったから見えなくなってしまった。
もうちょっと見てたかったな。と残念に思いながら、ショートケーキの上にのっていた苺をかじる。


苺の味に舌鼓を打っていると、いきなり扉が音をたてて開かれた。


驚いて振り返ると、迷彩服を着て、ディーノさんのような金髪に、北極の氷のような奇麗な水色の目。でもその眼がどこか怒っているように吊り上っているところは雲雀さんに似ているかもしれない。


「邪魔するぜ!コラ!」


「いきなり人の部屋に入ってくるな。コロネロ」


入ってから声をかけたコロネロと呼ばれた彼は、リボーンの言葉も無視すると、リボーンへと歩みよった。それにあわせるようにして立ち上がるリボーン。
背の高い二人を見上げながら様子を見守っていれば、いきなりコロネロさんがリボーンにずっつきをくらわした。


「近くに来たから会いに来てやったんだぞ!コラ」


「来なくていいぞ」


リボーンも言葉と同時にずっつきをコロネロさんにし返す。


「なんだ。今日はえらくご機嫌だな。コラ。麻依が帰ってきたからか?」


「ご機嫌じゃねえぞ。ふざけんな」


いまだに立ったままの二人を見上げながら、この二人はどういう関係なんだろうと考えてみる。
この人とリボーンはどうやら親しいみたい。だって、親しくない人が入ってきたら、リボーンって銃を抜いちゃいそうだし…。
でも、さっきずっつきしあってたよね?あれって挨拶なのかな?


「ラルはどうした。特訓の日じゃなかったのか」


「それから逃げてきたんだ。だからオレはすぐに行くぞ。コラ」


そう言い放ったコロネロさんに、リボーンはため息をつくと呆れたように彼を見返した。


「いい加減、その子供じみた表現どうにかしたらどうだ」


「オレの勝手だ。それに今はまだこれでいいと思ってる」


コロネロさんは窓の外へ視線を移すと、少しほほ笑んだ。その微笑みにリボーンは押し黙り、それ以上そのことについて何か言おうとはしなかった。


「ああ、そうだ。言い忘れてた」


「なんだ?」


「近いうちに集まるらしいぜ」


その言葉にリボーンは顔をしかめる。


「じゃ、伝言したからな。オレはもう行くぜ」


踵を返すとさっさと出て行こうとするコロネロさんをリボーンが呼び止めた。ちょうどドアを開き、部屋から足を踏み出すところだった彼は、その状態のまま顔だけをわずかにこちらに向ける。


「なんの為の召集だ?」


「さあな。だが、気を抜かないほうがいいぞ。リボーン。得体の知れねえ奴が動いてるってもっぱらの噂だ。コラ」


そういうと、彼は部屋から出て行った。突然やってきたコロネロさんは嵐のように去っていき、リボーンはどさっと腰を下ろすと、ボルサリーノを目深にかぶり深く息を吐き出した。
その様子をじっと見つめていると、視線に気づいたのか、リボーンが顔をあげる。


「ん、ああ。悪いな。今のはコロネロっつって、ただの腐れ縁だ」


腐れ縁…。とその言葉を口の中で転がしてみる。


「どうせまた会うことになるだろうからな。そのときにちゃんと紹介するぞ」


そう言って、私の頭をなでるリボーン。そして、まだケーキ残ってるぞと言って促すから、それに従ってケーキを食べた。


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