「あれ〜?ツナあ?」 聞こえてきた声は、ランボの声だった。 乗っていた椅子から降りて、机を回り込んでみると、少し開けた隙間から中をのぞくランボがいた。背丈的にどうやら見えなかったらしい。 「あ、紫杏!お前、こんなところで何してるんだ?」 [おるすばん?] いつもどおり、スケッチブックに筆談していく。ランボも、平仮名はかろうじて読めるようで、最初会ったとき、ちゃんと読めるからすごいだろと自慢された。 「ふーん。ツナは?」 [でかけた] 「よしっ!オレっちも一緒にお留守番してやるもんね!偉いだろ!」 えっへんと胸をはるランボには申し訳ないけど、できれば他の場所へ言ってほしいです。だって、ランボといたら何かしらトラブルに巻き込まれるんだもん。 「ツナの部屋でお菓子探すんだもんねー!」 ああ、それが目的か。 なんとなく肩を落とす。きっと、帰ってきたときにランボがいたらお父さんはビックリするだろう。というか、いつ来たんだろう。あと何分で変えるのかな。時計に目を走らせると、お父さんが出ていってから既に1時間が経過しようとしていた。 「ここかなー、ここかなー?」 ベッドの下や、本棚の奥。ソファーの下なんかも探し始めるランボ。でも、みつかるはずもなく、探し疲れたらしいランボがげっそりとしてソファーに飛び乗った。 [おかしないね] 「紫杏は持ってないのか?」 残念ながら。と首を横に振る。きっとあの執事さんなら飴の一つや二つ持っているんだろうけど、私はそこまで飴を食べたりしないから持っていない。今度から執事さんを見習って飴を持ち歩こうかなと考える。 「あ!ツナの机!きっと、独り占めしようとしてるんだな!」 え、と思った瞬間には、もうランボはソファーの上に姿はなく、さっきまでげっそりしていた顔はどこへやら。目をきらきらさせて、机をくまなく探し始める。でも、そこには大事な書類とかがあるはずで、さすがに、荒らすのはまずいんじゃないかと思う。 止めに入ろうと、ランボに近づけば、何かを見つけたのか、声をあげた。なんだろうと思って、ランボがいると思われる椅子の方に走り寄ると、鍵穴がある引き出しを凝視するランボ。そして、そこに手をかけた。 が、鍵穴があるだけあって、鍵がかかっているらしく開くことはない。 「きっとここに隠してあるに違いないもんね!」 いや、そんなことないと思う。という突っ込みは、言葉をしゃべれない私には無意味だった。 ランボは、徐に自分のもじゃもじゃの頭の中に手を突っ込みごそごそと何かを探すように腕を動かすと、銀色の細長い針のようなものをとりだした。 「オレっちに鍵なんて関係ないもんね!」 そう宣言したかと思えば、その針を鍵穴に差し込んだ。つまり、ピッキングをしようというのだろう。でも、そんな簡単に開くわけがないと思って、見守ることにした。時間がくれば帰るんだろうし、それかお父さんの方が帰ってくるのは先かもしれない。 そう高をくくっていれば、カチャという音。それは、この部屋の扉が開いたわけではなく、引き出しのカギが開いた音だった。 「おーかーしー」 その掛け声と同時に引き出しをあける。が、中から出てきたのは拳銃一丁だけだった。黒光りするそれは、リボーンが持っているものとは少しだけ形が違うようだ。 一つだけそこに置かれているソレは、なんだか悲しそうに見えた。 それをランボは危なげない手つきで持ち上げるとおおっ!と感嘆の声をあげる。 「これ、オレっちのもの!」 いやいや、それお父さんのだし。なんて言葉は届くはずもなく嬉しそうに笑うランボは何やら銃をいじりだした。 さすがに、それはまずいと思った。だって、何を思っているのか、銃口はまっすぐランボの方を向いたままなのだ。 弾が入っているのかどうかなんて知らないけど、あぶないことに変わりはない。 私は、素早くランボに近づくと、その手から拳銃をひったくった。あーっ!という声が響くけど、そんなの知ったこっちゃない。だって、これで怪我でもしたらどうするのさ。 「紫杏!それはオレっちだぞ!」 急いでお父さんの椅子の上に乗り、立ち上がる。椅子の柔らかさにとっさにバランスがとれなくてふらふらしたけど、拳銃を持っている腕だけは高々とあげたまま頑張った。 「紫杏!かーえーせー!」 違う。これ、お父さんのだから。 と、何度目かの思いを心の中で呟き、嫌だと伝わるように首を横に振る。 ぴょんぴょんと飛び跳ねているランボは、まあ、見ていて面白いんだけど、そろそろ腕が疲れてきた。 「おれっちのー!」 だから、違うって。ずっと右手をあげていれば、疲れが限界にきて、上に持ち上げたまま反対の手に持ち替えようとした。瞬間、ランボの飛び上がった体が私の方に突っ込んできた。 もともと、椅子の柔らかさのせいで足場が悪かった。それが災いしたのに加え、ランボが突っ込んできたせいで私は体制を整える暇もなくそのまま体が後ろに下がる。 なんとか体制を立て直そうと足を踏ん張らせようとしたけど、ちょうどそこに肘掛があったらしく、それに後ろにさげようとした足は阻まれた。 そして、それも加わったせいか、私は椅子から投げ出された。襲ってくる浮遊感に目をぎゅっとつむり、体を固くさせる。 背中から落ちたから腰をしこたま打ち付けて、痛いと感じる前になぜか手がはじかれたように、跳ねた。 え、と思った瞬間には、耳に響く破裂したような音。 瞑っていた目を開けて己の手を見れば、そこには黒い物体。そして、私の指はいつのまにか引き金にかかっている。銃口からは硝煙があがっていた。 なんで? 銃は、確か、安全装置がついているはずだ。それは、たとえば何かに入れているときにあやまって引き金を引いてしまっても発砲しないようにされているもの。だから、普通なら引き金を引いたって発砲されるはずがないんだ。 なのに、なんで? ランボへと視線をやれば思いっきり逸らされた。 つまり、ランボなのだ。 ランボがさっきいじっていたのが原因なんだ。ランボだって、自分でいうのだからやっぱりマフィアなんだ。いくら5歳だからといったって、頭の中に爆弾をもってるくらいだ。銃の使い方だって知っていてもおかしくなかったのかもしれない。 呆然としたまま、未だに引き金から指を離すこともできず、固まっていると、大きな音を立ててドアが開かれた。 固まったまま、まるで錆びているかのようにまわりにくい首を回し、開いたドアの方を見る。 「…何を、してる?」 そこには、険しい顔をしたお父さんがいた。両開きの扉を開いたまま固まっているお父さんがいた。 |