次に、出会ったのは、黒い礼服をきた男の人だった。この人がたぶん執事さん。白髪に、少しだけ髭を蓄えていて、かけている丸い眼鏡は結構分厚かった。 彼は、リボーンに気付くと廊下の端に身を寄せてきれいにお辞儀をした。でも、そんな彼にリボーンはなにやら話しかける。 「こいつが次の相手だぞ」 リボーン曰く、この人は一番の古株で、9代目がボスになったころからいたらしい。私は、彼に軽く頭を下げてから、さっきメイドさんに質問したのと同じ紙をみせる。 [どんなしごとをしてますか] 「わたくしたちは、おもにこの屋敷全体を管理しております」 柔らかい物腰でそう答えたこの人は、かすかに微笑んだ。この人は日本語を話せるらしい。 [にほんご、じょうずですね] 「こちらにもう長くお仕えしておりますゆえ。9代目のときから日本との親交は深くありました。話せなくてはいけないような状態にあったといいましょうか…」 「現ボスが日本人だからな。あいつもまだダメツナだから、とっさのときはやっぱり日本語が出ちまう」 リボーンの言葉に、ふーんとうなずいておく。9代目のときからいるってことは、ティモッテオさんと同じ年齢ぐらいなのかな? [かんりって、なんの?] 「使用人を取り締まったり、食器、酒類、後は…、そうですね。奥さまのお茶などを淹れさせていただいています」 [あさはなんじにおきてますか?] 「その日の予定によって変わりますが、3時30分ごろでしょうか」 メイドさんが4時30分で、その1時間前には起きてるってこと?というか、寝不足になったりしないのかな。だって、まだ全然夜中でしょ。その時間帯って。 [しつじさんたちってなんにんいるんですか?] 「バトラーは私を会わせて5人ほどいます。ヴァリアーを会わせますと10名ほどでしょうか。あちらで生きていればの話ですが」 「確かにここ最近、話しが出てこねえな」 「さすがに新しいものを送ることもだんだんできなくなってきていますので」 「ま、当然だろうな」 呆れたように鼻で笑うリボーンにクスッと笑みを漏らした執事さん。でも、今、普通に会話していたけど、なんだか怖い内容じゃなかった?…いや、これはスルーしなきゃいけない内容だと思う。 ということで、スルーして、次の質問にうつりました。 [おしごと、たいへんですか?] 「苦に思うことはあまりありませんよ。襲撃にあうこともあまりありませんし…」 「襲撃にあったって、お前なら生き延びられるだろうが」 「御冗談を」 「紫杏。こいつはこう見えてもそこらの部下より強いんだぞ。一度執事なんてやめて任務についたらどうだって話しも上がったぐらいだ」 「恐縮です」 深々と頭を下げた彼は、口元に笑みを浮かべていた。この物腰柔らかい、かなり優しそうなおじいちゃんが戦えたりするなんて想像できなかった。でも、それはティモッテオさんにも当てはまることで、だったらやっぱり嘘じゃないんだろうと思う。 [なんで、やらなかったの?] 「わたくしの仕事は、あくまでこの屋敷の方々のお世話ですから」 「頑固じじいめ」 「ほめ言葉として受け取って置きましょう」 この数分間だけだけど、リボーンと執事さんはとても仲がいいように見えた。他の人と比べて付き合いが長いからなのかな? 私は、そんなことを考えながら次の質問をするために紙をまくる。 [いちばんたいへんなことは、なんですか?] 「守護者の方々の我がまま、ですね」 メイドの人とは違って、リボーンがいることも構わずにさらっと言ってのけた。 「突然、突拍子もないことを言われ使用人がパニックになってしまうこともよくありますから」 「あいつらも、まだガキのようなもんだからな」 ニヤリと口元を歪めたリボーン。その言い方は、まるでリボーンのほうが年上みたいだけど、実年齢、リボーンの方が年下だったはずだ。しかも、私をのぞいて一番年下。 「リボーン様も同じでございますよ」 執事さんの言葉に、リボーンはきまり悪そうに表情を歪めた。 [ここで、しごとをはじめたきっかけは?] 「一言で言わせていただければ恩返しです」 もともと小さい目がすっと細められた。 「わたくしは、幼少のころ、そのときのボスであった8代目に助けられました。そして、大人になり仕事についたもののその仕事先が買収されてしまい路頭に放り出されたところを、若かりし頃の9代目が拾ってくださったのです」 そのときの様子を思い出してか、クスクスと笑みをこぼす執事さんは、本当にボンゴレが好きなんだと思う。 「9代目の守護者の方も、10代目の守護者同様癖のある方たちでしたから、あの頃は大変でしたね。いつ間違って殺されるかと」 「その割には楽しんでたように見えたぞ」 リボーンのその言葉に、彼は微笑みだけを返した。 そして、胸ポケットに入っている時計を取り出すと時間を確認して、そろそろ業務に戻ろうかと思います。と告げた。 [ありがとうございました] そう書いたスケッチブックを見せると、彼は私の前に膝まづき、ポケットの中から何かを取り出して私の手に握らせた。手を開いてそれを見ると、棒付きのキャンディだった。 「よろしければどうぞ」 「なんでお前がそんなもん持ってるんだ?」 「ランボ様ようにいつでも常備しておいてあるのです」 その言葉に妙に納得してしまった。だって、子供ランボがたいていこっちに来る時は、泣いてるんだもん。その原因のほとんどがリボーンだったりする。 「では、失礼いたします」 深々と頭を下げた執事さんにお礼をいって、リボーンに差し出された手を握り再び廊下を歩きだす。次は誰に会うんだろう? |