からかわれて、むっとしながらも、ケーキにフォークを突き刺す。口に入れれば、久しぶりの甘い味が口に広がった。おいしい…。 「どう?」 千種さんにそう聞かれて、私はもう一口食べながら、コクンとうなずく。 「そう。…ならよかった」 「千種、僕にも珈琲をお願いできますか?」 「はい」 千種さんはうなずくと、再び簡易キッチンの方へと向かった。 「柿ピー!俺にも、くれぴょん!」 「犬。分かったから、そっちにいて」 とび跳ねながら、千種さんを追いかける犬さんは、千種さんになだめられて、こっちに帰ってきた。 「そういえば、紫杏、絵上手なんでしょ?」 突然話しを振られて、キョトンとしてしまう。私、クロームさんとそういう話したっけ?? 「骸様に見せてもらった」 あ〜、なるほど。前に骸に書いてあげたもんね。飲み会でからまれている絵。 「んあ?お前、絵なんてかけるのか?」 まあ、はい。一応。 少しためらいがちにうなずけば、描け!といわれてしまった。 といって、何を描こうかな…。それに、描くのなんて久しぶりなんじゃない?実は。ここ最近、いろいろとあって、あまり描いたりしてなかったしな―…。 あ、さっきのケーキ美味しかったし、それ描こう。 そう思いついて、スケッチブックを机に置いて鉛筆を握る。大分丸くなってきちゃってる鉛筆。そろそろ削らないといけないと思いつつも、濃さを選んで描き進めていく。 それを横から凝視されているんだけど…。 ここにきてから、見られながら描くという行為に慣れた。慣れって悲しいかな…。 「クフフ、犬。そんなに近くにいては、紫杏も描きづらいでしょう」 「すげーっ!うまそー!骸様!」 「ええ、そうですね」 穏やかな表情をした骸から、この人たちが骸にとって大事な人たちだということが分かった。 できあがった、絵を見せれば、おぉ〜という歓声。まんざらでもない。 「鉛筆削り、いる?」 千種さんが、鉛筆削りを渡されて、私はそれと千種さんを交互にみる。 「?いらないなら、いい…」 [ありがとう] そう書いて、見せれば、頭を撫でられた。削ったあとに返そうと思ったら、いらないからあげるといわれてありがたく頂戴した。 そんなことをしていればもうお昼ごろになり、そこで皆と一緒にご飯を食べた。久しぶりに他の人とご飯を食べた気がする。 「クフフ、嬉しそうですね。紫杏」 「紫杏が嬉しそうで、私も嬉しい」 「…どこが嬉しそうなんら?」 首をかしげる犬さん。その様子に、骸はふっと笑った。そして、私の頭をポンポンと撫でてきた。そんなに、表情に出てたかな? 「お前、柿ピーみたいに無表情ら」 ぶすーっと唇を尖らせる犬さんに、クロームさんが苦笑した。私は、目の前にあるご飯をゆっくりと食べながらその光景を見てた。 「……ハア、めんどい」 食べ終わった後、しばらくしたら、クロームさんが準備のために席を立った。 「クロームも、貴女と同じような境遇だったのですよ。だからですかね、よく貴女のことを気にかける」 それはクロームさんが、ともとれるし骸が、ともとれる言い方だった。そのことに首を傾げれば、骸は曖昧に笑うだけだった。 「今度、彼女の絵を描いてあげてください。きっと、喜びます」 コクン、とうなずけば、骸は私の頭を撫でてくれた。 「紫杏、これ」 千種さんに差し出されたものをみて、首を傾げた。それは肩かけの鞄だった。 「あげる。それ、入れればいいと思って…」 それ、というのは、私が持っているスケッチブックだった。今まで、スケッチブックとか鉛筆とかは全部鞄なんかなかったから手に持って歩いていた。確かに不便ではあったけど、とくに何かをほしいというつもりはなかった。 [いいの?] 「俺は、使わないから…」 [ありがとう!] 書いて見せれば、フッ、と笑った気がした。そのとき、ちょうど入ってきたクロームさん。私は、さっそく鞄の中にスケッチブックと筆箱を中に入れて、肩にかける。 「では、クローム。麻依によろしくお願いしますよ」 「はい、骸様」 本当に、恋人どうしみたいな二人だなー。というか、二人って付き合ってるのかな??…さすがに、そんなこと聞けないよね。 「行ってきます」 [ごちそうさまでした] 「紫杏、また、いつでも来ていいですよ」 コクン、とうなずいて、クロームさんと一緒に部屋を出た。向かう先は、お母さんがいるという病院。 |